エチオピアで「飢きん」と国連事務次長 約35万人の食料不足「大惨事」状態

Tigray people, fled due to conflicts and taking shelter in Mekelle city of the Tigray region, in northern Ethiopia, receive the food aid distributed by United States Agency for International Development (USAID) on March 8, 2021.

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画像説明, 米国際開発庁(USAID)が提供した食料支援の袋の上で眠る子供(3月8日、エチオピア北部ティグレ州メケレ)

国連は10日、紛争が続くエチオピア北部ティグレ州で推計35万人が飢餓状態にあるとの分析結果を公表した。マーク・ローコック国連事務次長(人道問題担当)は、同地域で「今や飢饉(ききん)が発生している」と、より強い単語を使い、「事態は今後もっと悪化する」と危機感を示した。

国連の分析によると、紛争で荒廃したティグレ地域で暮らす約35万人が「深刻な危機」にさらされている。近隣のアムハラやアファールも同様という。

食料事情は「大惨事」レベルに達している。これは、小規模の集団が広範囲で飢えや死に見舞われていることを意味する。

国連の世界食糧計画(WFP)と食糧農業機関(FAO)、国連児童基金(ユニセフ)は、この危機に対処するため緊急の対策を取るよう求めている。

エチオピア政府は、総合的食料安全保障レベル分類(IPC)と呼ばれるこの分析を承認していない。同政府は、地域の秩序を回復するために人道的アクセスを拡大していると主張している。

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ティグレ州は、地域政党ティグレ人民解放戦線(TPLF)の部隊と連邦政府軍との武力衝突で壊滅状態にあり、約170万人が避難している。

双方の戦闘は昨年11月、エチオピア政府がTPLFに軍事攻撃を仕掛けたことで始まった。

「死が迫っている」

ティグレ州西部の遠隔地カフタ・フメラの住民は今週、飢える寸前だとBBCに危機を訴えていた。

Tigray people, fled due to conflicts and taking shelter in Mekelle city of the Tigray region, in northern Ethiopia, receive the food aid distributed by United States Agency for International Development (USAID) on March 8, 2021.

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画像説明, 米国際開発庁(USAID)が用意した食糧援助を受け取る人々(3月8日、エチオピア北部ティグレ州メケレ)

「食べるものが何もない」と、電話取材に応じた男性は訴えた。7カ月にわたる戦いで、作物や家畜を略奪されたという。

また、外部に支援を求めたくても、連邦政府軍と戦う民兵に妨害されてしまうと述べた。

40代の農家の男性は、「隠しておいた作物の残りを食べていたが、今は何もない」と述べた。

「誰からも支援がない。ほとんどの人が今にも死にそうな状態だ。飢えで目に影響が出ているし、危機的な状況だ。死が迫っている。全員が飢えた顔をしている」

A farmer with a crop in Tigray, Ethiopia

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画像説明, ティグレ州西部の住民は、作物が民兵に略奪され、隠していたわずかな食料で生き延びていると話す

住民によると、支援物資を積んだ車両が通り過ぎるのを見たが、誰も自分たちの窮状について尋ねようとはしなかったという。

ティグレ州と隣のウォロ州では1984年、干ばつと内戦が引き起こした飢饉で、60万~100万人が死亡している。

「紛争の連鎖的影響」

総合的食料安全保障レベル分類(IPC)とは、国連機関や非政府援助団体などの複数の組織が作成した、食糧不足の深刻度を示す指標。

今回の報告書は、「ティグレ州と、隣接するアムハラ、アファール地域で実施されたIPC分析のアップデートでは、2021年5月から6月の間に35万人以上が大惨事レベル(IPCフェーズ5)に陥る」としている。

「この深刻な危機は、人口移動や移動の制限、人道的アクセスの制限、収穫物や生計手段の喪失、市場が機能していないあるいは存在しないことなどといった、連鎖的影響によるもの」だという。

報告書は、5月時点で約550万人が深刻な食料不安に直面しており、9月までに状況が悪化する可能性が高いとしている。

一方で、飢饉を正式に宣言するには至らなかった。「飢饉」という言葉は国連など国際機関や国家間では、きわめて限定的な定義のもとに使われている。

しかし、BBCのアフリカ特派員、アンドリュー・ハーディング記者は、こうした言葉の定義をあえて超えて、国連の人道問題担当トップ、ローコック事務次長が「飢饉」と使ったのだと指摘する。

飢饉とはどういう状態か

食料不足は大勢の栄養不足につながるおそれがあるが、国連の人道基準によれば、飢饉に該当する状況はめったにないという。

長期にわたる干ばつや、その他の問題で食料供給が減少しても、必ずしも飢饉につながるわけではない。

国連の定義によると、飢饉とは飢餓の深刻度を示す5段階のうち最も深刻な飢餓を指し、主に以下の3つの指標で判断される。

  • 20%以上の世帯が極端な食料不足に直面し、対処能力が限定されている
  • 5歳未満児の30%超が急性栄養不良
  • 人口1万人あたり毎日2人(5歳未満児の場合は4人)以上が死亡

飢饉宣言は、国連や加盟国に対して拘束力のある義務を与えるものではないが、世界の注目を問題に向けさせる役割がある。

<解説>「飢饉」という言葉の威力―――アンドリュー・ハーディングBBCアフリカ特派員

IPC報告は、ティグレで飢饉を宣言するに至らなかった。それは「飢饉」という言葉がきわめて強力な言葉だからだ。あまりに威力のある言葉だからこそ、各国政府や国際機関は一定の厳しい基準を満たした場合しか使わないと、合意している。

IPCは今回、代わりに「大惨事」という言葉を使った。今後数カ月でティグレ州の大部分で飢饉が起きるリスクがあるという。

簡単に言えば「フェーズ5の大惨事」とは、広範囲にわたって小規模集団が飢えや死に直面している状況を指す。一方、「飢饉」は大規模な集団が飢えや死に直面している場合にのみ使用される。

そしてティグレでは現在、この「飢饉」の定義を裏付けるだけのデータがまだ得られていない。情勢が不安で、助けを最も必要とする人たちに支援の手がなかなか届かないことが、その理由の一端だ。

しかし、多くの専門家は、こうした言葉の定義をめぐる(往々にしてきわめて政治的な)議論は、瑣末(さまつ)で非生産的だと考えている。そして、国連の人道問題担当トップ、ローコック事務次長が今回そうしたように、多くの人がいまやルールをあえて無視して、「ティグレでは今、飢饉が起きている」と主張するようになっている。