金正恩氏「苦難の行軍」決心と 危機への備えを呼びかけ

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北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党総書記は8日、党の末端組織責任者会議で、苦難に備えるよう呼びかける異例の発言をした。複数の人権団体は、北朝鮮が深刻な食糧不足と経済不安定に直面していると警告している。
党末端組織責任者による会議で金総書記は、「人民の苦労を少しでも減らすため」に党関係者が「またしても、さらに厳しい『苦難の行軍』を実行すると決心した」と述べた。「苦難の行軍」とは1996年に、当時の飢饉(ききん)と経済的苦境を乗り越えようと呼びかけるために朝鮮労働党が使ったスローガン。
国が直面する経済的困難に北朝鮮首脳が言及するのは異例のことで、金総書記は1990年代の状況と現在を重ねて発言したとみられる。1990年代にはソヴィエト連邦崩壊に伴い北朝鮮への援助が滞ったのを機に、大飢饉のため約300万人が死亡したと推定されている。
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、北朝鮮は昨年初めから感染対策のため国境を封鎖した。その影響で、北朝鮮経済にとって生命線の中国との貿易が停止状態になっている。北朝鮮の核開発やミサイル発射実験などに対する国際社会の経済制裁も続いている。
金総書記は党末端責任者の会議が始まった6日にも、国は「過去最悪の状況」と「前例がないほど多数の課題」に直面していると発言していた。

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状況はどれくらい深刻なのか
北朝鮮の人たちの暮らしが厳しさを増しているという情報は、数カ月前から浮上していた。
特に、以前は物資の密輸で生計を立てていた人が多いとされる中国国境の周辺から、困窮の様子が漏れ伝わっていた。
農村部に住む人の大半が主食とするトウモロコシの価格が今年になって急騰しており、時にはトウモロコシ1キロが1カ月分の平均月収並みの値段で取引されているという。
人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのリナ・ユン研究者は3月半ばの報告書で、北朝鮮内の匿名消息筋からの情報をもとに「もう2カ月近く、中国からの食糧輸入はほとんどない」と書いた。
「物乞いが非常に増えている。国境付近では餓死する人も出ている。せっけんも歯磨き粉も乾電池もない」
国連のトマス・オヘア・キンタナ国連北朝鮮人権状況特別報告者は3月の報告書で、「深刻な食糧危機」がすでに栄養失調や餓死につながっていると警告。「餓死者が出ているという報告もすでにある。そのほか、家族が支援できないため、物乞いに追い込まれている子供や高齢者の数も増えているという」と書いた。


<解説> 総書記の責任転嫁か―――ローラ・ビッカーBBCソウル特派員
国難を前に、金総書記は党内の足場固めをしている。これから厳しくなると警告するのは、あくまでも自分なのだと。もしかすると、事態が今後さらに悪化した時には、自分の命令に従わなかった担当者のせいだということにしたいのかもしれない。自分は警告していたのだからと。
加えて総書記は、国民の困窮はパンデミックのせい、国際社会の厳しい経済制裁のせいだと言うこともできる。国際社会は制裁によって北朝鮮に核・ミサイル開発をやめさせて、経済立て直しに注力するよう仕向けているのだが。
それでも北朝鮮政府は、新しいミサイルの設計と実験を続けている。
北朝鮮によるミサイル発射実験の映像は、世界中が衛星画像や国営メディアの写真を通じて見ることができる。その映像をもとに、各国首脳にどう対応するつもりか尋ねることもできる。
一方で、北朝鮮に住む人たちは自分たちの苦難の様子を、外の世界に見てもらうことがなかなかできない。そんなことをすれば投獄されるか、撃たれてしまいかねない。
外からの目が届かないまま、北朝鮮の人たちは国の指導者いわく「過去最悪の状況」で、飢餓と人道危機に直面している。











