【解説】 中国はイスラエル・ハマス戦争から何を得たいのか
テッサ・ウォン、アジア・デジタル記者、BBCニュース

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イスラエルと、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスとの紛争が激化する中、中国が和平の仲介役として動くという、思いがけない事態が起きている。しかし、その成果には限界がある。
この紛争がより大きな地域戦争へと発展する恐れが指摘される中、中国の王毅外相は先週末、米ワシントンの高官らと協議した。アメリカは、解決策を見いだすために中国と協力すると約束した。
王氏は、イスラエルとパレスチナ自治政府の外相とも会談している。また、翟隽・中東問題担当特使が、アラブ諸国の指導者らと会談するために中東に向かった。国連総会では、中国は最も声高に停戦を支持している国の一つとなっている。
中国がイランとの親密な関係を生かし、この緊迫状況を緩和できるのではないかと期待する声がある。イランは、ガザ地区でハマスを、レバノンでイスラム武装組織ヒズボラを、それぞれ支援している。英紙フィナンシャル・タイムズによると、米政府高官らは王氏に対し、イランへ「冷静な対応を強く働きかける」よう求めたとされる。
中国はイランにとって最大の貿易相手国であり、今年3月にはイランとサウジアラビアの外交関係正常化を仲介した。イラン政府は、ガザでの紛争の解決に向けて「中国との意思疎通を強化する用意がある」と述べている。
今回の紛争に関係している全ての政府と比較的、均衡のとれた関係を持っている中国政府が、公正な仲介人と目される可能性はあると、米国防総省傘下の国防大学で中国の外交政策を研究しているドーン・マーフィー助教授は指摘する。
マーフィー助教授は、中国は特にパレスチナやアラブ諸国、トルコ、そしてイランと前向きな関係を築いていると説明。「アメリカはイスラエルと良好な関係にあるため、米中両国で全ての関係政府を協議の場に集められる」と述べた。
しかし他の専門家らは、中東政治における中国の影響力は小さいままだと指摘する。
米シンクタンク「大西洋評議会」の中国・中東関係の専門家、ジョナサン・フルトン氏は、「中国はこの問題では重大な当事国ではない。中東地域の人々と話していても、中国が解決に貢献するとは誰も思っていない」と述べた。
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中国はこの紛争についての最初の声明で、ハマスを非難せず、イスラエルの自衛権について言及しなかった。イスラエルはこれに怒り、「誠に遺憾」だと述べている。
イスラエルは、ハマスの10月7日の攻撃で1400人が殺害され、少なくとも239人が人質に取られたとしている。一方、ハマスが運営するガザ地区の保健当局によると、イスラエルが報復爆撃を開始してからガザ地区で8500人以上が殺害されている。
王氏はその後、イスラエルに対し、「全ての国に自衛権がある」と述べた。しかし他の場所では、イスラエルの活動について「自衛の範囲を越えている」と語っている。
中国は長い間、公然とパレスチナの主張に同調してきたため、バランスを取るのに苦労している。
パレスチナ寄りの姿勢は、中国共産党の創立者である毛沢東氏までさかのぼる。毛氏は、世界各地のいわゆる「民族解放」運動を支援する一環で、パレスチナに武器を供与した。また、アメリカの支援を受けているイスラエルと台湾を並べ、どちらも西側帝国主義に染まっていると述べたこともある。

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その後、中国は経済を開放し、イスラエルとの関係も正常化した。今ではイスラエルは数十億ドル規模の貿易相手国となっている。
しかし中国は、パレスチナへの支援を続けると明確にしている。今回の紛争に際しては政府高官、そして習近平国家主席までもが、独立したパレスチナ人国家の必要性を強調した。
その副作用として、ナショナリストのブロガーが扇動する反ユダヤ主義が、インターネット上で増加している。
中国のソーシャルメディアでは、イスラエルがパレスチナ人をジェノサイド(集団虐殺)していると述べ、同国の動きをナチズムと比較する人もいる。こうした言説は、在中ドイツ大使館から非難を受けた。
在中イスラエル大使館の職員の家族が北京で刺される事件も発生し、不安感に拍車をかけている。
中国がイスラエル政府を巻き込もうとするなか、こうした出来事はあまり良い印象を与えないかもしれない。
では、こうした不確定要素を分かっていながら、なぜ中国はこの問題に関与しようとしているのか。
その理由の一つは、中東での経済的利益だ。この紛争が拡大すれば、リスクに直面すると予想される。
中国は石油を国外からの輸入に大きく依存しており、その半分が湾岸地域から来ているとアナリストらはみている。また、中国が進める巨大経済圏構想「一帯一路」でも、中東諸国の重要性は増している。

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そしてもう一つの理由が、この紛争が自国の評判を高める絶好の機会であることだ。
米国防大学のマーフィー助教授は、「パレスチナ人のために立ち上がれば、アラブ諸国やイスラム教徒の多い国、そしてグローバル・サウス(世界の南側に偏っている途上国)の大部分の心に響く」と中国は信じていると指摘する。
今回の紛争は、中国が自分たちはアメリカよりも優れた世界の指導者だとアピールしていたタイミングで始まった。中国は今年に入ってから、アメリカの「覇権主義的」リーダーシップの失敗を批判する一方で、中国主導の世界秩序というビジョンを推進してきた。
中国は公には、イスラエルを支援しているアメリカを攻撃することを控えている。しかしマーフィー助教授は、中国の国営メディアが「中東で起きていることとアメリカのイスラエル支援を結びつけ(中略)民族主義的な反応をあおっている」と話した。
中国軍の機関紙「解放軍報」は、アメリカが「火に油を注いでいる」と批判している。これは、ウクライナでの戦争でアメリカがウクライナ政府を助けたと、中国が批判した時と同じレトリックだ。国営英字紙の環球時報は、血だらけの手をしたアンクル・サムの風刺画を掲載した。
専門家らには、中国政府が自らをアメリカと比較することで、外交の場におけるアメリカの立場を低くしようとしているとみる向きもある。しかし、ハマスを明確に批判しないことで、中国は自らの立場を危うくするリスクも抱えている。
中国の長期的な野心にも、さまざまな困難が生まれている。
たとえば、この外交姿勢と自国での実績をどう折り合わせるかだ。中国政府はイスラム教徒の多い国々との連帯を表明し、イスラエルによるパレスチナ地域の占領に反対する一方で、イスラム系少数民族であるウイグル族対する人権侵害や集団虐殺、また、チベットにおける同化の強要などで非難され続けている。
だが専門家らは、中国がアラブ諸国と築いてきた強固な関係を考えれば、アラブ諸国にとってこれはおそらく問題にはならないだろうとみている。
より大きな問題としては、イスラエルとハマスの対立を利用して自国の利益を高めようとする、表面的な関与とみなされる危険性がある。
大西洋評議会のフルトン氏は、中国は「パレスチナを支持すると言えば、アラブ諸国から得点を挙げられると思い込んでいる。だがそれは型にはまったやり方だ」と述べた。意見の相違が激しいこの問題に関して、アラブ諸国の間に統一された声はないからだという。
王外相は、中国が求めているのは中東の平和だけであり、「パレスチナ問題に関して利己的な利益はない」と主張している。
問題は、これが真実であることを世界に納得させることだろう。
(追加取材:BBCモニタリング)










