ドローンからハッキングまで……ウクライナの前線で繰り広げられるハイテク戦争
ゴードン・コレーラ、BBC安全保障担当編集委員

画像提供, Getty Images
ウクライナのサイバー作戦チームが、ロシアとの戦争の前線に送られ、新たなハイテク戦を繰り広げている。
ウクライナ保安庁(SBU)サイバー部門のトップ、イリア・ヴィチュク氏は、「私たちのところにも直接、戦闘に関与する部隊がいる」と話した。
厳戒態勢下のSBU本部内でヴィチュク氏は、このチームがどのようにハッカーと特殊部隊のスキルを組み合わせているか説明した。チームは、ロシアのシステムに入り込み、狙撃手と共に動き、最新技術を展開しているのだという。
この部門では人工知能(AI)を用いた映像認識システムで、ドローン(無人機)が空から集めた情報と、人材や人工衛星、その他の技術的資源から得た情報を分析し、軍に標的の情報を提供している。
「ロシア側がどの兵器を使い、どの方向に攻撃してくるのか、こちらはわかっている」と、ヴィチュク氏は述べた。
ヴィチュク氏のチームはまた、ロシア占領地域の監視カメラをハッキングし、ロシア部隊の動きを見ているという。また、ウクライナ側の動きを偵察しているロシアのカメラに、ドローン攻撃を仕掛けている。この攻撃のため、チームはしばしば標的の近くまで潜入しなくてはならないという。
この戦争ではドローンが技術革新の最先端を担い、偵察にも攻撃にも使われている。
SBUのサイバーチームは自分たちのドローンを飛ばし、ロシアのドローンといたちごっこを繰り広げている。他のドローンを検知するセンサー機器も展開することで、オペレーターはただ相手を妨害するだけでなく、着陸命令を送り、制御を試みる。
こうした作戦は、近距離の操作を必要とすることが多い。つまり、チームのメンバーへの危険が伴う。ヴィチュク氏は、「現場の隊員を守らなければならないので、周辺の警備が必要だ」と話す。
首都キーウの近郊では、ドローンの操縦訓練が行われている。
アントンさんはかつて、富裕層相手の旅行ガイドとしてドローンを操縦していた経験がある。アントンさんによると、最も重要な訓練は、ドローンを飛ばし方ではなく、いかに居場所を察知されずに生き延びるか、その方法を教えることだという。
戦争の初期には、小さなドローンを前線から最大10キロ離れたところから飛ばしていた。しかしウクライナのドローン操縦士は現在、ロシアの妨害電波をかいくぐるため、さらに近いところから作戦に当たっている。
頭上を飛ぶドローンを見ながら、アントンさんは「前線までの距離はどんどん短くなっている」と話す。「妨害電波より、我々とドローンの接続の方が強力でなくてはならないので」。

ヴィチュク氏によると、ロシアの情報機関もサイバーチームの一部を前線に近づけているという。
これは軍との通信を高速化し、押収したウクライナの機器や近くの通信手段に迅速かつ直接アクセスできるようにするためだ。
押収したウクライナの機器からは、ロシアの手に渡ったと相手が気づくまでの間、戦術情報が収集できる。
サイバー紛争は、2022年2月の全面侵攻が始まる前から軍事作戦と密接に結びついていた。侵攻の1カ月前、ロシアはウクライナの複数の公的機関ウェブサイトをオフラインにすることで、市民をパニックに陥れようとした。
「明らかに心理作戦だった」とヴィチュク氏は言う。ウクライナはほとんどのシステムを復旧できたが、侵攻の数時間前にも新たなサイバー攻撃の波があった。最も効果的だったのは、ウクライナ軍が通信に利用していたアメリカの人工衛星プロバイダーを数時間ダウンさせたことだ。
短期決戦を目指したロシアの作戦が失敗し、残虐行為の報告が出るにつれ、情報の流れをコントロールする重要性が増した。このことは、2022年3月1日にキーウのテレビ塔がミサイル攻撃とサイバー攻撃を受けて、いっそう明確になった。
ウクライナの通信サービス保護当局のユーリイ・シュチホル氏は、「ロシアは、ウクライナ国民が信頼できる情報を得る手段を奪おうとした」と話した。シチホル氏の後ろに立つテレビ塔には、ミサイル攻撃による黒い傷跡がまだ残っている。この時はエンジニアが代替機器を探し回り、数時間でテレビ放送が復旧した。

ミサイルは同じ場所にあるデータセンターにも直撃した。しかし重要なデータは、西側のテクノロジー企業の支援で、この年の初めに遠隔地のサーバーに移してあったという。
「ウクライナがこの戦争に耐えられたのは、システムを構築したウクライナのスペシャリストのおかげ、そしてパートナーからの支援のおかげだ」と、シュチホル氏は話した。
ウクライナの技術者たちも、戦争に寄与している。キーウにある狭いオフィスでは、若いボランティアが「グリセルダ」と呼ばれるシステムをどのように構築したかを説明している。グリセルダはソーシャルメディアやその他のソースからデータをかき集め、最新の状況情報を提供する。これをもとに軍や政府は、地雷がどこに敷設されている危険があるかから、どこのどういうインフラの修理が必要かまで、さまざまな内容を把握できる。
テレビ塔とデータセンターを襲ったミサイル攻撃と共に、サイバー攻撃も行われた。それ以降、ミサイル攻撃とサイバー攻撃は同時に行われることが多くなった。
ウクライナのサイバー防衛を監督するウクライナ国家特殊通信・情報保護局副局長のヴィクトル・ゾラ氏は、サイバー攻撃は今も容赦なく続くと話す。24時間365日稼働している事故対応施設を案内しながら、ゾラ氏は「これがウクライナのサイバー防衛の心臓部分だ」、「いつも忙しい」と語った。
壁にかけられたスクリーンには、開戦以来の浮き沈みが表示されている。政府が最大の標的だ。我々がオフィスにいる間、若いスタッフたちはインフレ率の発表を遅らせようとする、国家統計局への攻撃に対処していた。
一方、SBUではヴィチュク氏のサイバーチームが、ロシアのスパイ組織のエリートハッカーに対抗するため、自分たちのハッカーにコンピューターシステムに侵入させ、通話を盗聴させていた。
「『ロシアには最強ハッカー集団がいる』という神話がかつてあったが、ウクライナはそれを打ち壊したと、私は常々言っている」とヴィチュク氏は言う。ウクライナとロシアのサイバ戦はむしろ、お互いをよく知る、ほぼ互角の格闘家同士が、リングの中でぶつかりあっているようなものだとも言う。簡単な戦いではないし、危機一髪の状況もあったと付け加えた。
その上で、ウクライナはロシアのシステムに働きかけることで、そのサイバー攻撃に耐えてきたのだと話した。
ロシア政府はサイバー技術のほとんどすべてを、ウクライナに対してつぎこんでいる。そのため、西側の標的を攻撃する余力はほとんどない。
しかし、もしウクライナが陥落すれば、ロシアのサイバー攻撃は別の場所に向かうだろうと、ヴィチュク氏は警告する。
しかし、ロシアの敵対勢力と戦う中で、ウクライナや他の同盟国もまた、テクノロジーを現代の戦場に統合する新たな方法を学んでいる。









