戦争に参加したくないウクライナの男性たち
ジェイムズ・ウォーターハウス、BBCウクライナ特派員

画像提供, BBC/Rob Taylor
ウクライナが、必要な兵士を集めるのに苦労している。
志願兵では足りない。ウクライナでは常に、亡くなったり負傷したりした数万人の兵士の代わりが必要だ。ロシアの侵攻が始まって18カ月がたった今、それ以上の兵士がただひたすら疲弊している。
だが、戦いたくないという男性もいる。わいろを支払ったり、徴兵担当者から逃れる手立てを探したりして、国を離れた人が何千といる。一方で徴兵担当者らは、強引な手口を非難されている。
「システムがとても古い」のだと、イエホルさん(仮名)は言う。イエホルさんは、ソヴィエト時代にアフガニスタン戦争に参加した父親がメンタルヘルス(心の健康)を害したのを見てきた。だから彼は戦いたくないのだ。自分の身元を明かしたくないので、仮名を使いたいと本人が希望した。
ウクライナではロシアの侵攻以前、宗教上の理由で兵役に就きたくない男性には、農作業や社会福祉関連の労働といった他の選択肢が与えられていた。
昨年に施行された戒厳令によって、こうした代替案は消えた。しかしイエホルさんは、戦いたくない各自の理由はなんであっても、選択肢を与えられるべきだと考えている。
「状況は人それぞれだ」とイエホルさんは言う。「全ての男性市民は戦わなくてはならないと憲法に記されていること自体、私の考えでは、現代の価値観にあっていない」
イエホルさんは最近、首都キーウで警察に呼び止められ、兵役を避けていると非難された後、募兵センターに送られた。背中に故障があるのだと訴え、最終的には帰宅を許されたものの、次は許されないだろうと恐れている。
健康状態が悪い場合や、ひとり親の場合、誰かの世話をしている場合などは、兵役を免除される。しかし、徴兵逃れで有罪判決を受けると、罰金あるいは3年以下の禁錮刑が科される。
「それぞれの状況が考慮される状態で、誰もがこの戦争に貢献することが許されるべきだ」とイエホルさんは言う。「最前線にいる人々を気の毒に思うが、平和主義者のための代替案が与えられていない」。

画像提供, Getty Images

ウクライナ政府の徴兵方法は、その根本から腐敗していると非難されている。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は8月半ば、国内各地の徴兵担当者を全員解任した。収賄や脅迫が横行しているというのが、その理由だった。
オデーサ州で徴兵を担当する幹部の家族は、車やスペイン南岸の不動産など数百万ドル相当の資産を最近になって買ったと非難された。この担当官は、身に覚えがないと述べているという。
ウクライナ国防省の関係筋はBBCに対し、こうした疑惑は「恥ずべきことで、容認できない」と話した。
徴兵により、60歳未満の男性のほとんどがウクライナから離れられなくなっている。こっそり抜け出そうとする多くの人は、多くの場合、カルパチア山脈を越えてルーマニアへ向かう。
一方、国内に留まる人々は、大規模なチャットグループの助けを得て招集を逃れている。メッセージアプリ「テレグラム」では、徴兵担当者のパトロール場所が共有されている。地域や街ごとにチャットグループがあり、中には10万人以上が参加しているものもある。
徴兵担当者は、制服の色から「オリーブ」と呼ばれている。この職員に呼び止められた場合、募兵センターで登録するよう命令する紙が渡される。しかし、その場でセンターに連れていかれ、家に帰るチャンスがなかったという報告も出ている。
ウクライナ国防省は国民に対し、政府データベースの情報を最新のものにするよう呼びかけている。また、招集の際には、各自にあった部署に配属するとしている。
しかし、徴兵担当者が厳しい、あるいは脅迫的な手段を使ったとの主張もある。わずか1カ月の訓練で最前線に立つことになった人の報告もある。

画像提供, Ministry of Defence of Ukraine

当局は信頼回復に必死なようだ。
「怖いと思ってもいい」というのが、最新の情報キャンペーンのスローガンだ。この言葉で、子供のころの恐怖心と、今日の心配事の類似性を引き出そうとしている。
キーウではいざというときのために、市民がロシア兵に抵抗する訓練を受けている。小道をパトロールすると、「第2グループ! 手榴弾だ!」と教官が叫ぶ。男性も女性も素早く地面に身を投げ出す。
手にしているライフルは偽物だ。しかし、参加者の中から、本物を使う軍務に登録する人が出てほしいという、その期待はある。
22歳の学生、アントンさんはすでに決心している。
「戦争が始まったときは、徴兵される覚悟ができていなかった」と、草むらの中で転がる訓練を終えて一息つきながら、私に語った。
「でも今は、いずれ戦争に行くための準備をしないといけない」
アントンさんは、徴兵回避をよくは思わないが、戦いたくない人の気持ちは理解できるという。
戦場へ行くことが怖いかどうか、彼に尋ねた。
「もちろん」と、彼は答えた。「誰だって怖い。だけど、これ以上戦況が悪化したら、キーウで座っているわけにはいかない」。
ロシアの全面侵攻に対する防衛において、ウクライナはあらゆる予想を裏切ってきた。
ウクライナ全土の掌握を目指していたロシア政府は今や、ウクライナ領土の2割をなんとか支配し続けることに、注力する羽目になっている。
それでもウクライナの側も、戦い方を再調整しなくてはならない。
自国の反転攻勢が大勢が期待していたよりも進展が遅いのをどうするかだけでなく、自国民の士気をどのように高め、戦いに臨むようにするか、ウクライナ政府は取り組まなくてはならない。
兵士が必要なのは、否定しようがない事実だ。しかしそれと同時に、誰もが戦場に適しているわけではない。それも不都合だが真実だ。
(追加取材:ハナ・チョルノス、アナスタシア・レフチェンコ、ケイト・ピーヴァー、ハンナ・ツィバ)










