日本でまだ少ない女性起業家、後進に道筋を示す
大井真理子、BBCニュース、京都

画像提供, Stroly
869年、病魔退散の祈願として始まったと言われる京都の祇園祭。1100年以上の歴史を持つ日本3大祭の1つが2022年、デジタル化した。
Stroly(ストローリー、本社・京都市)が提供するオンライン地図が、京都市内を2日に分けて巡行する34基の大船鉾(おおふねほこ)の場所を表示。ユーザーはGPSで自分の場所がわかるだけでなく、地図上の地点をクリックすれば、歴史的背景やライブイベントなどの最新情報を知ることができる。地図上で友達と会い、チャットすることも可能だ。
Strolyの社長は、男性が大半を占める日本のスタートアップシーンでは珍しい、女性の高橋真知さん。2児の母だ。
「(祇園祭の関係者は)コンサバと思っていたので、祇園祭の地図を作り、絵葉書を大船鉾会所に置かせてもらえると知った時は驚いた」と言う。
一方、大船鉾会所の吉井英雄さんは「あの絵葉書を作られたのがよかったのではないでしょうか」と述べ、次のように続けた。
「お守りや扇子、手拭いと並んで置いても、違和感なく溶け込んでましたので、あっという間になくなりました。他の山鉾(やまほこ)からもすぐに追加要請があったほどです。残念ながらもう在庫切れでしたが」
「デジタル一辺倒で、無味乾燥なQRコードなどだけを貼らせてくれなどと言われていたらNGだったかもしれません」
新型コロナウイルスの流行前は、紙のチラシが手配りされていた。それをデジタル化したことで「ゴミ削減にもつながった」と話すのは、京都市産業観光局観光MICE推進室の担当者だ。
「観光客は土地勘がなく、通りの名前も分からないし、案内に苦労していた。今回、Stroly様の機能を活用したことで、多くの方に利用いただけ、現地で案内する関係者(警察)や利用者からも非常に好意的な声をいただいている」

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デジタルマップを作るという案は、高橋さんと夫の高橋徹さんが、京都の国際電気通信基礎技術研究所ATRに勤めていた時に思いついた。
しかし当時はスマートフォンもなく、WiFiもやっと導入され出したばかり。
「WiFi網を使って何かイベントをできないかということで考えたのが、当時大ブレイクして子供がみんな持っていた任天堂DSの活用です」と言うのは、2010年に東映太秦映画村の社長だった山口記弘さん。
「映画村内WiFi網を使った位置ゲーム『七人の悪』を高橋夫妻にお願いし開発してもらいました」
その6年後、高橋夫妻は独立し起業。映画村は今もクライアントの1つになっている。
現担当者の洲崎哲嘉さんは、「インバウンドのお客様にショーの内容や江戸の街並みという特異な施設を理解いただくのに、スマホにより多言語での紹介が可能となった。イベントもシーズンごとに変更しているので、ペーパレスにつながり、SDGの観点からもメリットを感じています」と話す。

Strolyは現在、1万近くのデジタルマップを提供。その中には、東京都が実証実験として開発を依頼した新宿エリアの観光マップや、北海道・十勝のお薦めチーズマップ、海外から発注を受けたものもある。
ユーザーには無料でサービスを提供。観光や運送分野のクライアントが年契約で費用を払う。
「すでに紙、サインボード、ウェブサイトの地図はあるけれど、インタラクティブじゃないので、それをデジタル化してGPSを使い最新情報を足します」と高橋社長。
「起業しようと考え出した2015年には、この業界に女性はほとんどいなかったので、手探りでコミュニティーに入っていきました」と言う。
「実は日本では相談相手が見つからず、アメリカのシリコンバレーで『Women's Startup Lab』を創業して女性起業家を育成している堀江愛利さんに連絡したんです」
その後、起業家をサポートする大阪イノベーションハブの支援を受け、ベンチャーキャピタル(VC)の大和企業投資がリードインベスターとなった。2017年には、京都市スタートアップ支援ファンドの第5号投資先となった。

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男性と比べ、女性の起業家が資金調達に苦労するのは日本だけではない。アメリカでも昨年のスタートアップ投資の98%が男性CEOの会社に対して行われたとされる。
背景にはさまざまな要素がある。ただ言えるのは、起業家と投資家の関係は、出会いに左右されるということだ。
「自分のような立場の人間が大きな金額の小切手を書く必要があるのだと理解した」
これはテニス選手のセリーナ・ウィリアムズさんの言葉だ。2014年にベンチャーキャピタルの「セリーナ・ベンチャーズ」を創業した。
「類は友を呼ぶ。流れを変えるには、私のような人間がもっとしかるべき立場に立って、『自分にお金を返す』必要があるのだ」
高橋社長も同意する。「意思決定を行う人の多数が男性である以上、女性起業家が提示する問題を理解できないことも多い」

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日本で女性活躍推進が政策となって早7年。リーダーの30%を女性にするという目標の期限だった2020年はとうに過ぎているが、その比率は今、たった15%でしかない。世界平均の31%の半分以下だ。金融庁によると、女性が代表を務める国内VCはたった1%。
その数少ない女性代表の1人が、ゴールドマン・サックス証券で日本副会⻑などを務めたキャシー松井さん。女性活躍が日本の経済活性化につながるという「ウーマノミクス」で有名だ。
昨年、グローバル・ベンチャーキャピタルファンドMPower Partnersを、2人の女性パートナー村上由美子さん、関美和さんと共に立ち上げた。
「現時点では、日本で会う起業家の大半は男性だ」と松井さんは言う。「しかしスタートアップは本来、イノベーションを通じて、世界を変えるようなテクノロジーを作ろうとしているはず。人口の半分を省いてしまったら、マラソンを半分の力で走ろうとするようなもの」

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高橋社長の女性起業家としての成功は、日本ではまだ珍しいことだ。スタートアップのエコシステムにジェンダー・ダイバーシティ(多様性)をもたらすには、まだ課題も多い。
彼女に若手起業家へのアドバイスを聞いてみた。
「とりあえずエコシステムに飛び込んでみること。誰かを知ることは簡単。そこからはネットワークを使ってビジネスを広げるのみ!」
伝統文化のデジタル化の裏では、人との接点が大きな役割を果たしていた。









