【解説】 ジョンソン英首相、その地位はどれくらい安泰なのか
ニック・アードリー、BBC政治担当編集委員

画像提供, PA Media
イギリスのボリス・ジョンソン首相は、与党・保守党議員による信任投票を乗り切り、党首と首相の地位を守った。しかし、議員の4割が不信任票を投じたという事実は、ジョンソン首相がまだ危機から脱していないことを意味する。保守党の反首相派と、ジョンソン氏の忠実な支持者たちは、それぞれ次にどんな動きを見せるのだろうか。
ジョンソン氏はこれまで、党内を盛り上げてきた。党大会でジョンソン首相が群衆の気持ちを動かすのを見たことがある人なら、同氏が活動家に与える影響も見ることになるだろう。
しかし、7日にイギリス議会に集まった保守党議員には、こうした盛り上がりはほとんど見られなかった。
確かに、ジョンソン首相は6日に信任投票に勝利した。しかし、それで保守党が前に進めると思っていたジョンソン氏の希望は、議員の41%がジョンソン氏の退任を望んだという事実と結果によって消滅してしまった。
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6日の朝、議会に足を運んだある議員は「これは良くない」と嘆いた。
反対派は予想よりもはるかに多く、保守党内の分裂が露呈した。
不信任票を投じたある大物議員は、「内閣は首相に出て行けと言うべきだが、閣僚たちは弱すぎるからそうしない。首相が閣僚を弱体化させた」と語った。
では、次はどんな動きが考えられるだろうか?
2度目の信任投票
理論的には、ジョンソン首相は向こう1年間、再び信任投票にかけられることはない。
保守党の党首選を取り仕切る「1922年委員会」の現行の規則では、対象者が信任投票で勝利してから12カ月は、次の信任投票は行えないことになっている。
だが、誰もが納得しているわけではない。
ある保守党議員は私に、「ジョンソン氏が向こう1年間は安全だという見通しは、誰も信じていないと思う」と語った。
同委は実際、テリーザ・メイ前首相時代にこのルールを変更し、メイ氏が1回目の信任を得た数カ月後に2回目の投票を行うことを検討していた。
反対派はすでに、ジョンソン氏の今後について再度投票を強行する方法について話している。
「(1922年委員会の議長である)サー・グレアム・ブレイディーには、ルールを変えるよう大きな圧力がかかるだろう」と、首相に批判的な党幹部は言う。
信任投票手続きの変更が実現する保証はない。委員会の情報筋は、冷静な時期が必要だと話している。
しかし、この先には大きな政治的落とし穴もあり、それで考えが変わる可能性もある。
有権者との試練の時
保守党議員の目下の話題は、6月末に行われる2つの補欠選挙だ。
保守党は23日、ウエストヨークシャー州ウェイクフィールドとデヴォン州ティヴァートン・アンド・ホニトンで防衛戦に挑む。最大野党・労働党は、2019年の総選挙で奪われたウェイクフィールドを取り戻そうとしている。この選挙区はかつて、労働党の北部の支持基盤「赤い壁」の一角だった。
ティヴァートン・アンド・ホニトンでは、野党・自由民主党が議席を狙っている。こちらは南部の保守党の支持基盤「青い壁」を崩そうという魂胆だ。
保守党の幹部らは、これらの補欠選挙に負けることで、ジョンソン首相の指導力にさらなる危機が訪れることを恐れている。
一方、私が話した反首相派の幹部は、権力のバランスをジョンソン氏から遠ざけるため、十分な数の保守党議員の考えを変えさせることに集中したいと話した。
6日の信任投票で首相を支持した議員のうち30人を説得できれば、ジョンソン首相を罷免できるというのがその考えだ。
中には、補欠選挙で首相が足を引っ張っていると示すことができれば、説得の助けになると主張する議員もいる。
別の反首相派議員は、もし両方の補欠選挙で有権者から「罰」を受ければ、党内で新たな懸念の渦が生まれると述べた。
しかし、別の意見もある。
首相を批判している議員の中には、次へ進みたい、今回の補欠選挙でも考えは変わらないという人もいる。
ナイジェル・ミルズ議員はBBCの取材に対し、「投票はきのう終わった。決定を下した」と話した。
だが、多くの議員は保守党が前進できるとは思っておらず、次の危機は何だろうと考えているというのが、重要な点だ。
下院特別委員会の調査
それから、新型コロナウイルス対策のロックダウン中に首相官邸などでパーティーが開かれていた問題、いわゆる「パーティーゲート」がある。この問題もまだ終わっていない。
下院の特別委員会は今後、ジョンソン首相が議会をミスリードする発言をしていたかを調査することになっている。イギリスでは、閣僚が議会をミスリードした場合、辞職・解任理由になる。ミスリードとは、虚偽の情報を事実であるかのように提示し、誤った方向へ導くことを意味する。
特別委の報告は秋になる予定だ。
特別委が、ジョンソン氏が故意に議会を欺いていたと結論づければ、より多くの国会議員が新しいリーダーの必要性に納得するかもしれない。さらに、ロックダウン中に首相官邸で何が行われていたのか、新たな証拠が得られるかもしれず、これも首相にとっては打撃になるだろう。
ある野党関係者は、「委員会が彼を引きずり下ろすのを待つしかないかもしれない。(中略)このままではゴタゴタが続くだけだ」と話した。
反首相派は勢いづいたのか?
また、ジョンソン首相の権威についても、より広い疑問がある。
支持派が大きく過半数を超えているとはいえ、争点となる採決や議論を呼ぶ政策に関しては、自党の議席を振り返って様子をうかがわなれればならなくなった。
退陣を望む人たちを味方につけるのは難しいだろうか?
今後数週間は、ジョンソン氏に統治方法を変えさせようと圧力をかける取り組みが行われるだろう。
ある閣僚経験者は、首相は「くだらない文化的摩擦を断ち切る」必要があると指摘した。
ジョンソン氏は情勢を変えられるだろうか?
「できるが、時間が足りない」というのが議員らの意見だ。
別の議員は、ジョンソン首相は政策でもっと保守的になる必要があると述べた(多くの人にとって、それは減税を意味する)。内閣改造を行い、さまざまな意見を取り入れることを求める声もある。
内閣に対する疑問
政府内部にも、変革を求める声はある。
ある閣僚は私に、「我々には、事態を理解したことを示す余地がある。(中略)物事を変える必要がある、何よりも首相自身を」と語った。
だが、この人物も楽観的なわけではなく、「みんなまだ避難モードで、人々に列に並ぶように言っている」と述べた。
ジョンソン氏は信任投票の結果を「決定的」と説明した。だが、党内で同じことを個人的に言った人はほとんどいなかった。
ある議員は、「(労働党党首の)キア・スターマーなら結果を選ぶことができた。首相は、先に進むにはもう十分だと思うだろう。反首相派は、『最後のひと踏ん張り』を考えているはずだ」と結論付けた。
保守党は分裂したままだ。内閣に対する疑問も続いている。









