取材開始と同時に仏大統領から電話も ゼレンスキー氏単独インタビューの舞台裏

クライヴ・マイリー、、BBCニュース(ウクライナ・キーウ)

Volodymyr Zelensky being interviewed by Clive Myrie
画像説明, ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領(右)はBBCのクライヴ・マイリーのインタビューに応じた

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は14日、首都キーウでBBCの単独インタビューに応じた。重装備の兵士が警備する部屋で取材を開始しようとすると、たちまち大統領の電話が鳴った。フランスのエマニュエル・マクロン大統領からだった。取材にあたったBBC記者たちが、舞台裏の様子を明らかにする。

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クライヴ・マイリー、BBC記者・司会者

検問所で私たちのパスポートを念入りに確認した後、兵士たちは入ってもよいと手で合図してくれた。ここには、ロシアの侵攻に対抗するレジスタンス本部として使われている建物がある。私たちはその敷地の中に入った。

有刺鉄線や地雷、機関銃が建物を取り囲み、至る所に重装備の兵士が配置されている。私がこれから会うのは、ロシアに狙われている人物なのだ。

クレムリン(ロシア政府)はウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が死に、ゼレンスキー政権がロシアの傀儡(かいらい)政権に変われば、大喜びするはずだ。ところが、ウクライナはこの戦争が始まってから50日もの間抵抗を続け、世界を驚かせている。

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私たちの機材を2組の金属探知機に通すと、建物の中に案内された。長い廊下が続き、数メートルおきに土嚢(どのう)が積み上げられている。上の方の土嚢には自動小銃の銃口が入りそうな小さな穴が開いている。

「モダン」な椅子を

ウクライナ語で「シチュエーション・ルーム」(指令室)と書かれた真鍮(しんちゅう)のプレートがついた扉まで、大統領補佐官が案内してくれた。部屋の中には、壁一面の巨大なプラズマスクリーンや、人間工学に基づいた背もたれとキャスターが付いたはやりのオフィスチェアが置かれ、モダンな印象だ。

ただ、1つ問題があった。キャスター付きの椅子に座ってのインタビューは、時に厄介だ。質問に答えようと考え込んだ際に椅子ごと左右に動いてしまうので。

そこで、キャスターが付いていない椅子を用意してもらえないか尋ねてみた。大統領補佐官からは「うーん」、「見てみます」という返事が返ってきた。

補佐官はシチュエーション・ルームを一度離れ、椅子を2脚持って戻ってきた。かなり古めかしい、模様のある茶色の木製の椅子だった。「それで十分」だと私は伝えたが、この首席補佐官が口元をゆがめているのがわかった。

「いや、これじゃだめだ」と補佐官は言った。「モダンなコンピューターとプラズマスクリーンがあるこの部屋だと、この椅子はあまりに時代遅れに見えてしまう。この部屋をモダンなイメージにしたいんです」。結局、もっと現代風な見た目の椅子が2脚用意された。

椅子をめぐるやり取りは、現代のウクライナにまつわる多くのことを浮き彫りにしていたと、私は思う。冷戦終結以降、活気に満ちた若い世代は西側から影響を受けてきたし、ウクライナと西欧を結ぶ格安航空ライアンエアーによって可能性は広がった。ゼレンスキー政権は自分たちが形式張らずに(ロシアとは)異なる姿勢で、話をする用意ができていることを、私たちに知らせたいようだった。

その時、ホールを歩いてくる数人の足音が聞こえた。部屋に兵士2人が入ってきた。そしてその後ろに大統領が立っていた。

Volodymyr Zelensky shaking hands with Clive Myrie
画像説明, BBCのクライヴ・マイリーと握手を交わすウォロディミル・ゼレンスキー大統領(右)

仏大統領から電話、「ちょっとかけてもいい?」

大統領とあいさつを交わしていると、補佐官が大統領に携帯電話を手渡した。そこには、フランスからのテキストメッセージがあった。「エマニュエル(マクロン仏大統領)か?」と大統領が尋ねると、補佐官は「そうです」と答えた。

「私たちは連絡を取り合っていて、彼はいつも電話をかけてくるんです」と、大統領は私に説明する。「ちょっと電話をかけてもいいですか?」。

「もちろんです」と、私は答えた。フランスの大統領にすぐに電話をかけ直すべきか、それとも後にすべきか。そんなことを聞かれて、私は驚いてしまった。

それがウォロディミル・ゼレンスキーという人物の特徴のひとつだ。本当に自然に、親しみやすく、人を引き付ける魅力の持ち主なのだ。

ブチャでの残虐行為、和平交渉の可能性「遠のく」

しかしインタビューではその後1時間、大統領が怒り、負の感情で揺さぶられる様子が見て取れた。

ロシア軍が数週間にわたり占拠していた、キーウの北西約25キロの町ブチャを訪れた時のことを思い返したからだ。ロシア軍の撤退後、町の教会近くでは集団埋葬地が見つかり、路上には複数の遺体が横たわっていた。

私は彼に「プーチンのことを戦争犯罪人だと思うか」と尋ねた。ロシア軍と、その文民の指導者とつながりのある者は皆、戦争犯罪人だというのが、ゼレンスキー氏の答えだった。

「何があったかを全て踏まえて、あなたはこの人たちと交渉のテーブルに着き、平和について話し合えますか?」と、私は尋ねた。

「(和平交渉の)機会は遠のきつつある」と、ゼレンスキー氏は話した。主にブチャやボロジャンカでのロシア軍による残虐行為が、その見解の裏にあるという。

ゼレンスキー氏は今さら言うまでもなく、元コメディアンで元俳優だ。しかし、彼と過ごした1時間のインタビューの中で私が目の当たりにしたのは、精神的に疲れ果てた人の姿だった。自国民がいかに悲惨な目に遭っているか、その事実を前に深く苦しんでいる男の姿だった。

ゼレンスキー氏はしばしば、第2次世界大戦でイギリスを勝利に導いたウインストン・チャーチル元英首相に比較される。戦争の暗黒の日々を通じて、彼がどのような指導力を発揮したか、これから多くの人が記憶することになると。

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ジョエル・ガンター、BBC記者

重装備の兵士、厳重警戒、仏大統領からの電話

Zelensky received a call from the French president as the interview began
画像説明, インタビュー開始直後にマクロン仏大統領から電話がかかってきた

ウォロディミル・ゼレンスキー大統領と面会するには、携帯電話はもちろん、位置情報を発信するようなものは一切持ち込めない。それほど、ロシアから狙われている彼の身の安全が懸念されている。

ロシアの侵攻開始から50日目の朝、私たちは彼と面会した。厳重なセキュリティチェックを受け、首都にある要塞化された政府庁舎の暗い廊下を、重装備の兵士に付き添われながら歩き、ゼレンスキー大統領のシチュエーション・ルームへたどり着いた。

ゼレンスキー氏がやって来るとすぐに、私たちは会話を中断した。フランスのマクロン大統領から電話がかかってきたのだ。ゼレンスキー氏は、「BBCの記者と一緒だからかけ直すよ」とマクロン氏に伝えていた。2人は仲が良いのだと、大統領は話した。

ボリス・ジョンソン英首相やジョー・バイデン米大統領とのやりとりは、もっとフォーマルなものだったとしつつ、武器の供与に感謝していると、ゼレンスキー氏は話した。「(英米は)助けようとしてくれているし、実際に助けてくれています」、「ですが、私たちにはもっと、もっと素早い、もっと迅速な対応が必要です」。

動画説明, ゼレンスキー氏、ロシア産エネルギーめぐりドイツとハンガリー批判 BBCインタビュー

ゼレンスキー氏が話題にしたかった最も喫緊の問題は、ロシアが毎週のように大金を得ている原油輸出についてだった。侵攻をめぐり各国が対ロ制裁を敷く中、欧州諸国は今なおロシア産原油を購入し続けている。彼は「他人の流血から金もうけしている」と指摘した。

インタビューが終わると、ゼレンスキー氏はその場にいた全員にありがとうと繰り返した。そして、もう行かないといけないんだと話した。大統領には、やることがたくさんあるのだ。