【解説】 ロシアのメディア戦略に亀裂か 国営テレビ職員の「反戦」抗議
ヴィタリー・シェヴチェンコ、BBCモニタリング
ロシア国営テレビ「チャンネル1」は、クレムリン(ロシア政府)のメディア戦略で重要な役割を担っている。国内で2番目によく見られているチャンネルで、看板ニュース番組「ヴレーミヤ」(時間)は何百万人もの国民が視聴している。
政府与党の主張とずれた内容が放送される余地は、通常ない。
そのため、マリナ・オフシャニコワ氏がゴールデンタイムの放送で司会者の後ろに走り込み、「戦争を止めろ!」と書いたポスターを掲げたのは、過去に例のない瞬間だった。クレムリンに対する反対意見が、国中の居間に届いた。
父親がウクライナ人、母親がロシア人のオフシャニコワ氏は、反戦動画を別に投稿したことで、3万ルーブル(約3万3000円)の罰金を科された。
彼女の抗議行動は、さまざまな意味で異例だ。
まず、チャンネル1の視聴者は、ロシアのウクライナ侵攻を「戦争」と呼ぶことに慣れてすらいない。政府はメディアに「特別軍事作戦」と表現するよう指示。ウクライナを「非武装化、非ナチ化する」のが作戦の目的だとしている。
オフシャニコワ氏の抗議が、ウラジーミル・プーチン大統領の支持者らに向けられたこともある。多くのロシア人は今も、減少が続く独立系ウェブサイトやソーシャルメディアではなく、国営テレビを主なニュース源にしている。

画像提供, Marina Ovsyannikova
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今回のような抗議行動は、並外れた勇気が必要だ。ロシアではこの10日前、ウクライナでの出来事についてクレムリンの見解に異を唱える人に、最長15年の禁錮刑を科することができるとする法律ができていた。
人権団体「OVDインフォ」によると、侵攻が始まって以来、反戦の抗議をした約1万5000人が拘束されている。ただ、オフシャニコワ氏ほど、多くのロシア家庭にメッセージを届けた人はいない。
チャンネル1で短時間の露出があった以外、国営メディアは抗議行動を無視している。クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官は、オフシャニコワ氏の行動をフーリガンのようだと一蹴した。
ロシアの独立系ウェブサイトは標的にされるのを恐れ、オフシャニコワ氏のポスターにぼかしを入れるなどして、今回の件を伝えた。
例えばノーヴァヤ・ガゼータは、ポスターの「プロパガンダを信じるな」の1行だけを判読可能にした。

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一方、ソーシャルメディアでは事情が異なる。反プーチン大統領の姿勢を示したこの瞬間は、暗いロシアメディア界における一筋の光明と受け止められている。
「マリナ・オフシャニコワはロシアの英雄だ!」と、野党政治家イリヤ・ヤシン氏はツイートした。
「真実の5秒が、何週間にもわたるプロパガンダの泥を流し去る」と、別の野党政治家レフ・シュロスベルグ氏は述べた。
ウクライナの作戦は戦争でも侵略でもないと、ロシア国民に納得させようとしているクレムリンのメディアマシンで表面化した亀裂は、オフシャニコワ氏の抗議だけではない。

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別の大手テレビ局NTVのベテラン司会者リリア・ギルデイエワ氏が辞職したとのニュースが、何時間か後に飛び込んできた。
「まず私は(ロシアを)去った。簡単にはそうさせてくれないと思ったからだ。それから辞表を出した」と、彼女は有名ブロガーに語った。










