【解説】 対ロシア制裁、なぜアジアでは意見が分かれているのか ウクライナ侵攻
大井真理子、アジアビジネス担当編集委員

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ウクライナ侵攻を開始してから2週間で、ロシアは世界最多の経済制裁を科される国となった。しかし、それに参加しているアジア諸国は片手で数えられるほどだ。
中国はロシアを批判することを拒否し、経済制裁にも参加しないと表明。また、国連総会が緊急特別会合でロシアを非難し即時撤退を求める決議案を採択した際には、中国に加え、インド、パキスタン、ヴェトナム、バングラデシュ、スリランカ、モンゴルが棄権した。
オーストラリア、日本、韓国、台湾はロシアに対する西側諸国の制裁に参加したが、4カ国を合わせてもロシアの国際貿易高の8%にしか当たらず、その影響力は小さい。
シンクタンク「政策・アドヴォカシー・ガバナンス研究所(IPAG)」のサイド・ムニエ・カスル教授は、「ロシアの貿易高の18%を占める中国とインドが制裁に参加しない限り、あまり影響はないだろう」と指摘する。
一方のウラジミール・プーチン大統領は、8年前にロシア軍がウクライナのクリミア半島を併合し、国際的な制裁が始まって以来、何年も経済制裁への準備を進めてきた。
「2014年以降、ロシアは米ドルへの依存から脱却するため、ドル建てで保有する外貨の比率を減らし、金や中国人民元で保有している」


中国がロシアを非難しない理由
中国政府がロシアへの非難に消極的なのは、戦略的な理由からだ。
ロシアにとって中国は最大の貿易相手国だ。ウクライナ侵攻の数週間前にも、中国はロシアの天然ガスを追加購入すると発表。また病害を理由に制限していたロシア産小麦輸入は、全面解禁に踏み切った。
米ドルではなく、人民元で取引をするロシア企業も増えている。
シンガポールの元国連代表部⼤使で、駐ロシア⼤使だったビラハリ・コーシカン氏は「中国には3つの目的がある」と言う。
まず、中国は主権、領土の保全、不干渉といった国際的原則に敏感だ。コーシカン氏はこれについて、「チベット、新疆ウイグル自治区、台湾の3つの単語で説明できる」と述べた。
「ロシアのウクライナ侵攻はこの原則を過度に侵害しているが、中国には2つ目の目的がある。中国にとって、ロシアほどの戦略的パートナーは世界のどこにもいない」
そして最後に、「両国は西洋型国際秩序への抵抗がある」とコーシカン氏は指摘する。
「しかし、ロシアと比べると中国はその秩序に組み込まれており、市場としてはロシアより欧米や日本の方が大事だ。だから中国共産党は、対ロ経済制裁への巻き添え被害を受けないために、事態の鎮静化を促している」

インドは誰の味方か
中国同様、国連総会でロシア非難を回避したインドとヴェトナムにとって、ロシアは最大の武器提供国だ。また、パキスタンのイムラン・カーン首相は、ロシアとのガスパイプライン契約のため、先月ロシアを訪れたばかりだ。
コーシカン氏によると、「インドはソ連時代の武器を多く保有しているため、それを使えるようにしておかなくてはいけない。その理由は中国だ」という。
インドはロシアと緊密な関係にある一方で、中国への対抗を念頭にした日本、アメリカ、オーストラリアとの安全保障同盟「クアッド」の一員でもある。
同国のパンカジ・サラン元駐ロシア大使はツイッターで、「インドは誰の味方かって? 自分たちの味方だ」と発言している。そしてこの考え方は、多くのアジア諸国のロシア対応の背景にもなっている。
アジア諸国はこれまで、貿易摩擦から人権問題に至るさまざまな問題について、誰の味方をするか表明してこなくてはならなかった。しかしこと経済面においては、実利を重んじる傾向がある。
「世界最大の民主国家インドが、ロシアの侵攻を批判しないのは、自国の地政学的・経済的利益を国際秩序より優先している好例だ」とムニエ教授は指摘する。


ロシア、中国、西洋の板挟み
国連総会のロシア非難決議の結果は、アジアでの意見の分断を物語っている。
北朝鮮は、ロシアやベラルーシなどと共に決議に反対した5カ国の一つ。またミャンマーは、国軍によるクーデターが起きる前に着任した民主派のチョーモートゥン氏が大使を務めているため賛成票を投じたが、クーデター後もロシアから戦闘機や装甲車両などを提供されている国軍は、ロシア政府支持を表明している。
シンガポール国立大学のチョング・ジャ・イアン准教授は、その他の小さいアジア経済諸国は「ロシア、中国、西洋の板挟みだ」と述べた。
「基本的には、中国とロシアを批判すると罰されるので避ける傾向がある。今回のロシアの侵攻は実にひどく、独立国家の主権を脅かすという認識はあるため、支持はできない一方で批判もせず、沈黙している国が多い」
西側同盟国の中でも、北朝鮮問題でロシアと中国との協力が欠かせない韓国が、ロシア非難に慎重なのはそのためだという。
しかし中国と領土問題を抱えるアジア諸国には、ウクライナ紛争の行く末が中国の今後の動きに影響するのではないかという懸念もある。
「アジアの多くの国は、インド洋・西太平洋地域にアメリカと中国、両国の存在が必要だと思っている。その一方で、インドや東南アジア諸国は、中国とのバランスをとるためにロシアも必要だと思っている」と、米外交問題評議会のマンジャリ・ミラー氏は指摘する。
その結果、ロシア非難に慎重になっているが、さらにその裏側には、「中国はロシアの侵攻から何を学ぶのか」という問いがあると、ミラー氏は述べた。
「もし経済制裁の効果がなく、ロシアの動きが封じられなかったら、今後のインド洋・西太平洋地域や台湾での中国の領域侵害にどう影響するのか?」
原油価格が更に上がり、侵攻が長引き、残虐行為が積み重なった時、今は形勢を傍観している国々がいつまで沈黙していられるのか、注目が集まっている。









