大坂なおみ選手の会見ボイコットは、改革をもたらすのか

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テニスの大坂なおみ選手(23)が30日開幕の全仏オープンで記者会見に応じないと表明し、波紋が広がっている。
大坂選手は26日にツイッターの声明で、会見に応じないのはメンタルヘルス(心の健康)を守るためだと説明。会見をめぐって議論や変化が起こることへの期待感を示した。
テニスや他の競技の選手たちが大坂選手の決断をたたえる一方で、テニス組織の関係者は批判的な意見を述べている。
彼女の行動は変化をもたらすのか。テニス界やスポーツ界にどんな影響があるのか。
「選手には責任がある」
大坂選手は声明で、「組織側が『記者会見に出よ、さもなければ罰金を払え』と言い続け、組織にとって中心的な存在である選手たちの心の健康を無視し続けられると思っているなら、笑うしかない」とした。
これに対し、女子テニスのツアーを統括する女子テニス協会(WTA)は、心の健康は重視しており、支援提供の制度もあると説明。
「プロ選手には競技とファンに対する責任がある」とし、大会中はメディア取材に応じるべきだとした。
フランステニス連盟(FFT)のジル・モレトン会長も、記者会見拒否を「とんでもない間違い」だと断じた。
「受け入れられない。私たちは罰と罰金に関する法と規則に則って対応する」
さらに、全仏オープンのディレクター、ギー・フォルジェ氏も、大坂選手の宣言について、「あまりポジティブなメッセージを発信するものではない」と否定的な考えを示した。
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会見で涙する選手も
しかし、記者会見が選手の心に影響を及ぼしたと思われるケースは珍しくない。
セリーナ・ウィリアムズ選手(アメリカ)は今年2月の全豪オープンで、大坂選手に敗れた準決勝後の記者会見の会場を、涙を流しながら後にした。
2019年のウィンブルドン(全英オープン)では、準々決勝で敗退したヨハナ・コンタ選手(イギリス)が、大事なポイントで弱いのではないかと記者会見で問われ、不快感をあらわにした。
BBCラジオのコメンテーターも務めるネイオミ・ブローディ選手(イギリス)は、試合後30分以内にメディア取材に応じなければならないという規則について、変更を考えるべき時かもしれないと話す。
「大事な試合で負けた後に、気持ちを落ち着かせ、頭を整理し、人目につかないところで泣く時間がもう少しあればと思う」
金銭的な事情
陸上短距離のディナ・アシャー=スミス選手(イギリス)は長いメッセージを公表し、大坂選手への支持を表明した。同時に、記者会見はなくならないだろうとした。
「まともな質問をぶつけてくる自由な報道は必要だ」
この問題にはもちろん、金銭的な事情も絡んでいる。前出のブローディ選手はメディアについて、「テニスにとって大きな存在だ。私たちの収入にとっても、テレビ放映権は大きな存在だ」と述べた。
「ファンがそれら(報道)を目にしなかったら、テレビで見ようと思う人は減るかもしれない。そうなれば私たちの収入に影響が及ぶ」
トップ選手たちの反応
他のテニス選手たちは、大坂選手の決断をどう受け止めているのか。
男子世界ランキング1位のノヴァク・ジョコヴィッチ選手(セルビア)は、記者会見をとても不快に思うことがあるのは理解できると述べた。
「でも(記者会見は)テニスの一部であり、ツアー人生の一部であり、やらなければ罰金を払わされる義務だ」、「心の健康の問題はおそらく過小評価されている。(中略)もう少しよく話し合い、選手たちが気持ちよくいられるために、みんなで何をすべきか理解する必要がある」。
昨年の全仏オープン女子シングルスの覇者、イガ・シフィオンテク選手(ポーランド)も、特に試合に敗れた後は、記者会見は決して楽しいものではないと説明。しかし、総じて肯定的な見方を示した。
「大変かもしれないが、適切な支援があり、距離とバランスが保たれているなら、それも仕事のうちだと受け止めている」
「誰もがプロの選手ではないし、私たちがコートでやっていることをみんながわかっているわけでもないという点からも(記者会見は)大事だ。何をやっているのか話すのはいいことだ」
「適度なバランス」
全仏オープンの男子シングルスで13回優勝しているラファエル・ナダル選手(スペイン)は、「彼女(大坂選手)の決断を尊重する。彼女をアスリートとして、そして人間性の面からも敬意を表する」と述べた。
「個人的には、メディアが存在せず、ニュースや私たちの業績について記事を書く人たちがいなければ、アスリートたちはおそらく今と同じではないと思う。世界中でこんなに認識はされず、人気もなかっただろう」
「彼女のことは理解する。でも一方で、メディアはテニスのとても大事な一部だと、私は考えている」
イギリス女子ナンバー1のコンタ選手は、「彼女の意見に必ずしも反対ではない。彼女の主張には多くの真実が存在すると思う」と発言。
「適度なバランスを見つけるのが大事なんだろうと、個人的には思う」と話した。
他の選手は後に続くか
大坂はツイッターの声明で、記者会見では「不信感を覚える」質問を受けることが少なくないとし、自分に対して不信感を抱えている人たちの前には出たくないと述べた。
前出の陸上のアシャー=スミス選手は、記者の中には「選手の心理状態のひびを見つけようとしたり、時には作り出そうとしたりする」人もいると話した。
ブローディ選手も賛同する。「選手はがんばってポジティブに考えようとするし、メディアは答えるのが難しい質問をする。その質問は時として、選手が考えないように努力してきたことだったりする」。
記者会見を避けることで、大坂選手はメリットを得られるだろうか。仮に全仏オープンで好結果につながったら、他の選手たちも後に続くだろうか。
ブローディ選手も、「もし彼女が今週いいプレーをしたら、他の選手たちも彼女を見習ってウィンブルドンで同じことをするのだろうか」と疑問を口にした。

<分析>選手の負担とメディアの役割――ラッセル・フラー、BBCテニス担当編集委員
大坂選手の声明を読んですぐ、2019年ウィンブルドンの1回戦で敗退した後の、彼女の記者会見を思い出した。
彼女は全米オープンと全豪オープンのチャンピオンとして、ウィンブルドンに乗り込んで来ていた。ところが、ユリア・プチンツェワ選手(カザフスタン)にストレート負けした。
記者会見が始まって4分ほどたったころ、私は大坂選手に、ごく短期間で大スターになったことにうまく適応できているかと質問した。彼女は司会者に顔を向けると、泣き出しそうだと伝え、静かに会見室を去った。
私は今回、この4分間の映像を見直した。すべての質問は表現に配慮がなされていたし、あの場にいた全員が、当時21歳の若者にとってどれほど困難な経験なのかを十二分にわかっていた。
4大大会での負けは、時にひどく残酷だ。テニス界は、ベテランマネージャーがメディアにうまく説明してくれるようにはなっていない。説明責任は伝統的に、選手にある。
もしかすると、そのことが見直されるべきなのかもしれない。そして私たちメディアにいる者は全員、言葉のトーンに極めて自覚的でなくてはならない。
だが私たちは絶対に、困難な質問をする権利を持ち続ける必要がある。テニスは広報が必要だし、長期的に信用を維持するためには、選手たちが自分のソーシャルメディアだけを通してファンたちと交流することが認められべきではない。












