トランプ氏、G7の儀式よりもその場の勢いが好み 米朝首脳会談へ

ジョン・ソープルBBC北米編集長

US President Donald Trump impersonator Dennis (L) and North Korean leader Kim Jong-un impersonator Howard (C-R) pictured against the Singapore Flyer and Marina Bay as they pose for photographers in Singapore, 08 June 2018

画像提供, EPA

画像説明, シンガポールでポーズをとるこの2人はそっくりさんだが、実際の2人もこうなれるか

今週末、古い政治と新しい政治が実に見事に衝突した。

カナダ・ケベックでの主要7カ国首脳会議(G7サミット)では伝統的なもののやり方で、全員が署名できる文言を練り上げようと事務方や政治顧問たちが2晩にわたり苦しみ続けた。

私はカナダからシンガポールまではるばる移動するため、サミット会場を早めに出た。

ケベックを出発する時点では、誰もが合意は不可能だと思っていた。それなのに、なななんと、乗り換えのために私が香港に降り立ったときには、合意文書がまとまったと知らされた。成功だ。それにもかかわらずしばらくすると、ドナルド・トランプ氏が、いったん署名した文書への支持を取りやめるとツイートした。ジャスティン・トルドー氏が記者会見で発言したことのせいで。信じられない。

シンガポールでの手法はどうやら、別物になるらしい。新しい政治の世界だ。こちらの方がずっとトランプ氏の好みに合っている。

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その場の勢い

そもそも、シンガポールでの会談は多国間ではない(この大統領は多国間協議にアレルギーがある)。会談は二国間だ。一対一。2人だけ。頭と頭。目玉と目玉。キムとドナルド。あとは通訳か。

古い政治のやり方に慣れている人なら、いえいえそれはなりませんと言うだろう。書類ファイルを抱えた事務方の同席が必要だと。細かい文字でびっしりの、付箋がはりまくられた書類が入ったファイルと、ピンクの蛍光ペンを手にした事務方がいなければならないと。

細かな内容は何週間も前から担当省庁同士で詰めていたはずだし、合意文書案は両首脳が向き合う前に、すでに整っていたはずだ。古いやり方なら。

そして、金委員長とトランプ大統領を2人きりで同じ部屋に座らせておくなど、もちろんありえない。2人きり? まったくあり得ない。

Kim Jong-un and Donald Trump arrive separately in Singapore on 10 July 2018

画像提供, Reuters/Getty Images

画像説明, シンガポールに到着した金正恩委員長とドナルド・トランプ大統領(10日)

映画「プリティ・ウーマン」のあの場面を覚えているだろうか。リチャード・ギア演じるエドワード・ルーカスが、買収交渉の席から弁護士を追い出して、財産を奪おうとしている相手に自分だけで向きあうと言った時の、弁護士のがくぜんとした表情を(自分はあの映画を見すぎかもしれない……)。覚えてなくても、ともかく想像してみて、そしてそれを1000倍にしてみてもらいたい。

言いなりには

しかし、あえて言うが、従来の政治手法ではここまでたどり着けなかった。私たちが今こうしているのは、トランプ氏が剣を振り回して伝統的な外交手法を切り裂いたおかげだ。

金氏に首脳会談をしようと呼びかけられて45分もしない内に、米国大統領は応じていたのだ。

動画説明, 米朝首脳会談 大きな飛行機と走るボディガード

もちろんどこかには弁護士が大勢待機して、文案をじっと検討することになるはずだ。事務方もいれば、顧問もいるだろう。しかしみんな、延々と手持ち無沙汰のまま待たされるはずだ。少なくとも今回は。

ワシントンを出発する直前、私はホワイトハウスのウェストウィング(執務棟)で高官級の大統領側近のオフィスにいた。この人物は、首脳会談は5分で終わるかもしれないが、2日続くかもしれないと話した。すべては、2人が意気投合するかどうかにかかっていると。

両首脳は2人とも事務方の言いなりには決してならない、強い意志の持主なのだそうだ。つまり、予想外のことを予想するようにと。常に。

トランプ氏は、たいてい5秒もあれば誰かと仲良くなれるかどうか分かるものだと言う。自分たちの時代に平和は訪れるのか、それとも会談は決裂したので空港に直行するのか。政府高官たちで控え室でそわそわしながら知らせを待つ様子が、容易に目に浮かぶ。

サミット劇場

トランプ大統領は、首脳会談の準備はさほどしてこなかったと話す。その必要はないのだと。

それでもなお、朝鮮半島の非核化をどう定義するか、検証方法はどうなるのか、どれくらいの期間で実現するのか、見返りとして米国はどの程度の経済援助や安全保障や制裁解除を提供するのか、そして、そして……。こうした諸々はどれも頭をかきたくなるほど、複雑な問題だ。

A dipstick poll set up to measure journalists' preference for food choices linked to Mr Trump and Mr Kim at the dining hall of the media centre, 10 June 2018

画像提供, Reuters

画像説明, 首脳会談のメディアセンターでは、食事を選ぶ際に「今日はトランプな気分? キムな気分?」と投票することができる

首脳会談の見た目は、決して軽々しい話ではない。具体的な形について、相当な熟慮が重ねられたはずだ。両首脳がまず最初に会うのはどこで、カメラの位置はどこで、背景は何になるのか。屋内での撮影はどうなって、屋外ではどうなるのか。

トランプ氏は見世物が大好きだ。リアリティ番組「アプレンティス」に長年登場していた以上、見た目がいかに大事か理解している。なので、今回の会談は単なるオーバーな撮影会で終わるのか? いや、違う。これはとてつもない、異例の、歴史的な出来事だ(「歴史的」は確かに使われ過ぎている)。これはものすごいことだ。

昨年9月の時点では、核戦争になるならないがもっぱらの話題だった。それが今では、平和の可能性を話している。

もちろん、これは長いいばらの道を行く旅路の始まりに過ぎないかもしれない。だとしても、少なくとも始まるのだ。

果たして従来の政治手法で、ここまでたどり着いただろうか。

両首脳が意気投合しますようにと願うしかない。まともな反応は、それしかない。