ロシアとアメリカなど多数の受刑者を交換 アメリカ人記者など

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ロシア政府とアメリカ政府などは1日、複数の受刑者を交換した。ロシアでの収監から釈放された人の中には、アメリカ人ジャーナリストのエヴァン・ガーシュコヴィッチ記者や、元米海兵隊員ポール・ウィラン氏、ロシアの反体制活動家ウラジーミル・カラ=ムルザ氏、ノーベル平和賞を受賞したロシアの人権団体「メモリアル」共同代表のオレグ・オルロフ氏らが含まれると、アメリカのジョー・バイデン大統領が発表した。
その引き換えに西側諸国からロシアに送還された中には、ロシア情報機関の関係者も含まれる。米政府幹部によると交換には、今年2月に北極圏で獄死したロシアの野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏も含まれる予定だったという。

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ガーシュコヴィッチ記者、ウィラン氏、アメリカ政府が出資するラジオ自由ヨーロッパのアルス・クルマシェワ記者の3人は1日深夜、ワシントン近郊のアンドリューズ統合基地に飛行機で到着した。
飛行機を降りたガーシュコヴィッチ記者は、待ち受けたジョー・バイデン大統領と握手した後、カマラ・ハリス副大統領と抱き合った。
続いて、ウィラン氏とクルマシェワ氏も次々とタラップを降り、大統領と握手したり、家族と再会を喜びあったりした。
ハリス副大統領は記者団に、「素晴らしい日」だと話した。

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トルコ・アンカラで交換
ガーシュコヴィッチ記者らが帰国する半日以上前、トルコ国家情報機構(MIT)は受刑者24人と未成年者2人の交換を仲介したと発表し、アメリカ、ロシア、ドイツ、ポーランド、スロヴェニア、ノルウェー、ベラルーシの計7カ国がかかわると明らかにした。首都アンカラの空港にはロシア政府機が長時間にわたり駐機した。
未成年者2人を含む10人がロシアへ送還され、13人がドイツへ、3人がアメリカへ送還された。受刑者交換には、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のガーシュコヴィッチ記者、ウィラン氏のほか、ベラルーシで収監されていたドイツ国籍のリコ・クリーガー氏、ロシアの反体制政治家イリヤ・ヤシン氏が含まれていたと、トルコ政府は確認した。
ロシアへ送還された未成年者2人とは、スロヴェニアで最近スパイ罪で有罪となったアルティオム・ドゥルツェヴとアンナ・ドゥルツェヴ夫妻の子供たちだという。
トルコ大統領府は、受刑者全員が飛行機を降り、トルコ治安当局の監督下で安全な場所へ移動したのち、それぞれの目的地へ向かう飛行機に乗ったと明らかにした。
ロシアへ帰還する8人は、アメリカ、ドイツ、スロヴェニア、ノルウェー、ポーランドの刑務所で収監されていたという。
WSJ はこの後まもなく「X(旧ツイッター)」で、「WSJ記者エヴァン・ガーシュコヴィッチは自由になった」と発表。同紙によると、ガーシュコヴィッチ記者のほか、アメリカ政府が出資するラジオ自由ヨーロッパのアルス・クルマシェワ記者と、昨年4月に収監された反体制派活動家ウラジーミル・カラ=ムルザ氏も釈放された。
ガーシュコヴィッチ、ウィラン、クルマシェワ各氏はアンカラ経由で、アメリカへ帰国する。
カラ=ムルザ氏をはじめ数人のロシア人反体制派とドイツ人12人は、アンカラからドイツへ移動した。
ケルン・ボン国際空港に到着した人たちを出迎えたオラフ・ショルツ独首相は、「多くの人がまさか実現すると思わなかった」ことで、「非常に感動的だった」現地メディアに話した。
ガーシュコヴィッチ記者の家族は、釈放を受けて声明を発表。「エヴァンの釈放を私たちは491日待っていました。今日の気持ちを説明するのは難しい」、「いま何より大事なのは、エヴァンの世話をして、一緒になることです。どの家族もこんな目に遭ってはならないので、きょうはポールやアルスの家族たちと、安心と喜びを共有しています」とした。そのうえで、バイデン大統領はじめアメリカ政府関係者やドイツのオラフ・ショルツ首相、さらに「エヴァンと私たち家族全員を最初から大切にしてくれた」ウォール・ストリート・ジャーナルとダウ・ジョーンズの関係者に感謝した。

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バイデン氏、同盟の重要性強調
トルコ政府からの交換実施発表から間もなく、アメリカのジョー・バイデン大統領も声明を発表。「本日、ロシアで不当に収監されていた、アメリカ市民3人とグリーンカード(永住者カード)を持つ1人が、ついに帰国する」と発表し、その名前を「ポール・ウィラン、エヴァン・ガーシュコヴィッチ、アルス・クルマシェワ、ウラジーミル・カラ=ムルザ」と明らかにした。
大統領によると、ほかにロシアで収監されていたドイツ人5人とロシア人7人を含む、計16人の釈放を交渉によって実現したという。
「中には不当に何年も収監されていた人たちもいる。全員が、想像もつかない苦しみと不安を耐え抜いた。この人たちの苦悩は今日、終わった」とバイデン大統領は述べた。
バイデン氏はさらに、「この厳しく複雑な交渉を通じて、この成果を実現するために協力してくれた同盟諸国に感謝する。そこには、ドイツ、ポーランド、スロヴェニア、ノルウェー、トルコが含まれる。信用できて頼りになる友人をこの世界に持つことが不可欠だと、強力に示す事例だ。我々の同盟関係はアメリカをより安全にしている」と感謝した。

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続いてホワイトハウスで記者会見したバイデン氏は、「今日はとても良い日だ」と述べ、ロシアに収監されていた16人と、西側で服役していた8人が釈放されたと発表。今回の受刑者交換の実現は外交と友情の成果だと述べ、諸外国との同盟関係の重要性をあらためて強調した。また、記者の質問に答えて、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と話をする用意はあると述べた。
大統領は、カラ=ムルザ氏について「友人ジョン・マケインの葬儀で一緒に棺を担いだ」のだと紹介。また、今日はクルマシェワ氏の娘ミリアムさんの誕生日だと明らかにし、同席したミリアムさんを紹介したうえで、「ハッピー・バースデー」と歌った。「何より大事なのは家族だ」とも述べた。
受刑者交換に合意したことで、今後さらにロシアがアメリカ人を拘束する事態にならないかという記者の質問には、「特定の場所には行かないように勧告する」と答えた。
カマラ・ハリス米副大統領は「X」で、「ロシアで不当に拘束されていた」人々の釈放を喜び、「この人たちのひどい苦難が終わり、間もなく家族と再会すると知って、私は大いに安心しています。不当に拘束されている、あるいは人質にされているすべてのアメリカ人が帰国するまで、大統領と私は、働くのをやめません」と書いた。
釈放されたのは

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ロシアとアメリカだけでなく複数の国がかかわる大規模な受刑者交換の実現について、数日前から観測が飛び交っていた。ロシア国内で収監されていた複数の反体制派や記者が刑務所から移送され、移動先がわからなくなっていた。
ロシアで受刑者がひそかに移送され行方が分からなくなるのは珍しくないが、複数の著名な受刑者が一斉に行方不明になるのは異例だった。
ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は7月30日、爆発物を仕掛けたとしてテロ罪などで死刑判決を受けていたドイツ国籍のクリーガー氏に恩赦を与えた。これも、大規模な受刑者交換の前触れではないかと言われていた。

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ガーシュコヴィッチ記者は昨年3月、ロシア・エカテリンブルクで取材中、米中央情報局(CIA)のために情報を集めていた容疑で逮捕され、今年7月にスパイ罪で有罪となり、警備の厳しい刑務所での禁錮16年を言い渡されていた。アメリカ政府は、非公開で行われたこの裁判は「でたらめ」だと批判していた。
元米海兵隊員のウィラン氏は、ロシアを訪れていた2018年12月に逮捕され、スパイ罪で拘束されていた。

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アメリカ政府が出資するラジオ自由ヨーロッパのクルマシェワ記者も釈放された。同記者はアメリカとロシアの二重国籍で、昨年6月にロシア国内で、ロシア軍について虚偽情報を拡散した罪で逮捕された。
クルマシェワ記者の同僚たちによると、記者は昨年10月、ロシア中部カザンで家族のもとを訪れていた際に、「外国の代理人」と登録しなかったことを理由に逮捕された。

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ロシアとイギリスの二重国籍を持つカラ=ムルザ氏は昨年4月、ウクライナでの戦争を批判したことに関連した罪で、禁錮25年の刑を受けた。
その後、シベリアの刑務所に収監されていたものの、移送され、さらに今年7月には刑務所の病院施設に移されたといわれ、その健康状態が懸念されていた。

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ロシア反体制派政治家のヤシン氏は2022年6月に逮捕され、ウクライナ・ブチャでの住民殺害をユーチューブで話題にしたことがロシア軍に関する虚偽情報の拡散罪にあたるとされ、同年12月に禁錮8年6カ月の判決を受けていた。
ロシアのウクライナ全面侵攻後に「軍の信用を失墜させた」罪で禁錮2年半の判決を受けた、ノーベル平和賞を受賞したロシアの人権団体「メモリアル」の共同代表、ロシアの人権活動家オレグ・オルロフ氏も釈放された。

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WSJによると、ロシアに帰還する情報機関関係者には、ドイツ当局がロシア連邦保安庁(FSB)の将校と特定したヴァディム・クラシコフ受刑者が含まれた。同受刑者はベルリンの公園でロシア反体制派を2019年に殺害した罪で、ドイツで終身刑を言い渡され服役していた。
ドイツ誌シュピーゲルによると、クラシコフ受刑者はドイツからアンカラへ向かった。
ロシアへ帰還する8人は、アメリカ、ドイツ、スロヴェニア、ノルウェー、ポーランドの刑務所で収監されていた。
その中にはアメリカで収監されていた3人も含まれる。
ヴァディム・コノシュチェノク受刑者は、ロシア情報当局の将校だとみられ、アメリカ製の精密兵器などをロシアへ密輸しようとした疑いでエストニアで逮捕された。
ウラディラフ・クリューシン受刑者は、ハッキングやインサイダー取引の疑いで2021年にスイスで拘束され、アメリカ最大規模のインサイダー取引事件に関連して禁錮9年の刑に服していた。
ロマン・ヴァレリエヴィッチ・セレズネフ受刑者は、アメリカの金融機関から巨額の資金を詐取したサイバーハッキング集団の首謀者として、禁錮14年を言い渡されていた。
スティーヴ・ローゼンバーグBBCロシア編集長は、受刑者交換の交渉は水面下で長いこと続いてきたと説明。西側とロシアの間のチャンネルがまだ生きていることが明らかになった一方、プーチン大統領は複数の西側ジャーナリストを拘束することで、引き換えに望むものを手に入れたと、編集長は話した。
ナワリヌイ氏も交換予定だった

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受刑者たちの釈放と交換が実現したのち、米ホワイトハウスのジェイク・サリヴァン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は記者会見し、ロシアとの受刑者交換の交渉段階では、今年2月に北極圏で獄死したロシアの野党指導者ナワリヌイ氏も交換される受刑者に含まれていたと述べた。
サリヴァン氏は、アメリカ政府が「パートナーと協力し、ナワリヌイ氏も含まれる取引の作業を進めていた」ものの、「残念ながら彼は亡くなってしまった」と記者団に話した。
サリヴァン氏は、ナワリヌイ氏が「亡くなったまさにその日」に自分はガーシュコヴィッチ記者の家族と面会したのだと明らかにし、「この悲劇的な知らせを受けてもなお、大統領は絶対に(受刑者交換を)を実現すると決意しており、今日という日にたどり着くまで昼も夜も働くつもりだ」と記者の家族に伝えたのだと述べた。
「その作業はそれから数カ月続き、今日このように結実した」とサリヴァン補佐官は話した。














