欧州は「戦う準備を」と英首相、ミュンヘン安全保障会議で 英とEUの連携強化にも言及

壇上で演説するスターマー氏。背後の壁には、ステージの正面からの映像が映し出されている

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画像説明, キア・スターマー英首相(14日、ミュンヘン)
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イギリスのキア・スターマー首相は14日、ミュンヘン安全保障会議で演説し、ヨーロッパは自分たちの住民や価値観や生活様式を守るため、戦う準備をしなくてはならないと述べた。

スターマー氏は、防衛上の責務に関して、ヨーロッパ大陸は「自らの足で立たなければならない」と強調した。また、イギリスと欧州連合(EU)の間に、経済関係を含め、より深い連携と協力を求めた。

そのうえで、ロシアの脅威に対抗し安全保障を強化する取り組みの一環として、イギリスが空母打撃群を北極圏およびハイノース(極北)に展開すると明らかにした。ハイノースは、地球の最北部を意味する用語で、北極圏およびその周辺地域を指す。

スターマー氏によると、この取り組みにはアメリカやカナダ、その他の北大西洋条約機構(NATO)加盟国も加わるという。

さらに、ウクライナをめぐる将来の和平合意後には、ロシアの再軍備が「加速するだけだ」と指摘。ヨーロッパは「侵略を抑止」し、必要であれば戦う準備を整えなければならないと付け加えた。

「我々はハードパワーを構築しなければならない。なぜなら、それがこの時代の通貨だからだ」と、スターマー氏は述べた。

NATOは1949年、ソヴィエト連邦(当時)による欧州での勢力拡大阻止を目的に結成された。今では複数の東欧諸国を含む計32カ国が加盟している。

NATO条約第5条は、一つの加盟国への武力攻撃を同盟全体への攻撃とみなし、同盟国が他の同盟国を防衛すると定める。NATOの根幹をなすこの原則をめぐり、アメリカのドナルド・トランプ大統領は以前、欧州の加盟国がこれを順守するかどうか疑問だという見解を示していた。

スターマー氏はこの日の演説で、トランプ氏の疑念を払拭しようとし、イギリスは「これまでと同じように今も圧倒的」に第5条を重視していると強調した。

「疑う余地はない。求められれば、イギリスは今日にも、皆さんを支援する」と、スターマー氏は述べた。

空母が湾に入ってくる様子

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画像説明, イギリス海軍の空母「HMSプリンス・オブ・ウェールズ」。写真は昨年8月に日本で撮影されたもの

これに先立ち演説した欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、スターマー氏を「揺るぎない同盟相手で友人」だと評価。EUとイギリスは共に、「内部から我々の結束を弱めようとする外部勢力」の脅威に直面していると述べた。

一方で、ヨーロッパはアメリカから「ショック療法」を受けたのだと言い、防衛に対して欧州はこれまでより大きな責任を負う必要があると強調した。

「ヨーロッパはいっそう積極的に取り組み、自分たちの責任を担う必要がある」と、委員長は述べた。

フォン・デア・ライエン氏はその後、ソーシャルメディア「X」への投稿で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領への圧力強化を呼びかけ、「今こそロシアが負う戦争の代償を、かつてないほど高くすべき時だ」と述べた。

英首相官邸は、スターマー氏とフォン・デア・ライエン氏が14日にミュンヘンで会談したと発表。「ヨーロッパは一段の責務を担い、よりヨーロッパ的なNATOの実現に向けて取り組む必要がある」との認識で一致したと明らかにした。

壇上に横並びに置かれた椅子に座り、会談する黒いスーツ姿のスターマー氏と、青いジャケットを着たフォン・デア・ライエン氏。椅子の間に置かれたテーブルには水の入ったボトルなどが置かれている

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画像説明, スターマー氏とフォン・デア・ライエン欧州委員長(14日、ミュンヘン)

スターマー氏の労働党政権は、2020年1月のイギリスのEU離脱(ブレグジット)以降の関係を「再構築する」取り組みを進めてきたが、これまでは単一市場に戻らないと約束してきた。

しかしスターマー氏は今回、政策転換を示す形で、EUとイギリスの現在の関係は「目的に適していない」と発言。その結果として「譲歩」が生じると認め、政策転換を示唆した。

EUとの「より緊密な経済的整合性」についてスターマー首相は、聴衆に対し「双方にとって有益なら、ほかのどういう分野で単一市場に近づけるか、検討する必要がある」と述べた。

「ここで得られるものは、より大きな安全保障、イギリスとEU双方にとってのより強い成長だ。それが防衛費拡大を促し、ヨーロッパにおける産業再生の波の中心にイギリスを据える機会につながる」

スペインのペドロ・サンチェス首相は、「協調的かつ狙いを定めた方法」でヨーロッパの防衛能力を強化する必要があると発言。また、「プーチンを止める」必要性を訴えた。

デンマークのメッテ・フレデリクセン首相は、北極地域における安全保障に、ヨーロッパはより集団的に取り組む必要があると述べた。

一方、フィンランドのアレクサンデル・ストゥブ大統領は、NATO加盟国が第5条を守るかどうか、ロシアがその決意のほどを試すとは思わないと発言。現時点でロシアからNATOに対する「直接の脅威」があるとは、考えていないと述べた。

国内での危機乗り越え

スターマー氏は先週、国内で辞任の危機を乗り越えたばかり。

同氏は先に、アメリカで性犯罪で有罪となったジェフリー・エプスティーン元被告(故人)と関係があることで知られるマンデルソン卿を駐米大使に任命した判断が誤りだったと認めた。

これを受けて多くの労働党議員が、首相を支持し続けるべきか自問する事態となった。スコットランド労働党のアナス・サルワル党首はさらに踏み込み、首相の辞任を求めるに至った。

14日に、国内の課題で弱みを抱えているのではないかと問われたスターマー氏は、ミュンヘンに集まった各国の指導者や政治家らに対し「いや、その指摘は受け入れない。私は週の始めよりもはるかに強い立場で週を終えた。それは非常に望ましい状況だ」と答えた。