トランプ関税受け中印首脳が握手、会談成果をBBC特派員らが解説

ナレンドラ・モディ氏と習近平氏が、青とオレンジのきらめく背景のステージ上でカメラに向かって笑顔を見せている。モディ氏は白いクルタ(南アジアの民族衣装)の上に青いベストを重ね、金色のポケットチーフを着けている。習氏は紺のスーツに赤紫のネクタイをしている

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画像説明, インドのナレンドラ・モディ首相(左)と中国の習近平国家主席(1日、天津)

中国の習近平国家主席とインドのナレンドラ・モディ首相が8月31日、中国・天津で会談した。両首脳は、長年にわたる国境紛争などによる緊張状態を経て、現在では両国の信頼関係は深まっているとした。

両首脳は、港湾都市の天津で上海協力機構(SCO)が開幕したのに合わせて会談した。この首脳会談とSCOサミットから見える中印関係、そして両国とアメリカのトランプ政権との関係を、BBCのインド編集長と中国特派員が解説する。

インド:中国とアメリカの間で揺れる外交政策

ヴィカス・パンデイ、BBCインド編集長(デリー)

たった数カ月前、インドとパキスタンの軍隊は、短期間ながらも死傷者を伴う衝突を起こしていた。この衝突には、第三国の中国も間接的に関与していた。パキスタン軍は、中国製の戦闘機やレーダーシステムなどの装備を多用していたのだ。

インド陸軍の幹部によると、それ以外にも中国はパキスタンに対し、インド軍の位置に関する「リアルタイムの情報」を提供」していたという。

インド政府は中国を公に非難しなかった。しかし、果たしてインドは中国との関係正常化へと進み続けるべきなのか、これを機に大勢が疑問を抱いた。

しかしそれから半年もたたないうちに、両国間の和平交渉は、米首都ワシントンで下された決定によって急速に進展することとなった。

トランプ米政権は、インドがロシア産原油の購入を継続していることを理由に、インドからの輸入品に対して50%の関税を課す措置を講じた。トランプ政権は、これはインドへの「制裁」だと説明している。

信頼する同盟国からの衝撃的な圧力を受けたインド政府には、明確な選択肢が二つあった。

一つ目は、圧力に屈してロシア産原油の購入を停止することだった。しかし、インドはこれを拒否した。ロシアが「全天候型」の同盟国だというのが主な理由だった。それに、圧力に屈するなど、力強い指導者というイメージを維持してきたナレンドラ・モディ首相にそぐわないからだ。

二つ目の選択肢は、アメリカに屈せず自分たちの姿勢を維持し、他の機会を模索するというものだった。インドは今のところ、この道を選んだように見える。

加えて、インドの隣国は世界第2位の経済大国で、世界的な製造拠点なのだから、まずは近場で何とかするというのが、現実的な判断だった。

こうした文脈の中でモディ首相は8月31日、天津で中国の習近平国家主席と会談した。

両国が発表した声明は詳細に乏しかったが、計28億人の人口を抱える両国の利益のために、お互いの違いを乗り越える努力を続けると約束した。

この会談は直ちに成果を生んだ。両国間の直行便の再開と、ビザ(査証)発給手続きの簡素化だ。

しかし、「象と龍」の共存を約束する以上に、両国が有意義な形で交流できるようになるためには、依然として大きな障害が残されている。

最初の課題は、直近の歴史によるものだ。

モディ首相は2014年の就任以来、インドと中国の関係に個人的に力を注いできた。2018年までに5回中国を訪問している。

しかし、2020年の国境での衝突動きは急停止した。次にモディ首相が中国を訪れるまでに、2018年から7年もかかった。

両国関係が今後進展するのかどうかは、両国が国境問題にどのように対処するかにかかっている。

現在も、合わせて数万人規模の部隊が係争地に展開している。一方、状況の緩和に向けて、文民および軍の指導者による協議が続いている。

オレンジ色のターバンを巻き、白い上着を着た男性がドナルド・トランプの写真を2枚掲げ、カメラに向かって怒鳴っている。男性の後ろには、「インドに課された関税を撤回せよ」などと書かれた看板を掲げる人々がいる

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画像説明, アメリカによる50%の関税に対し、インドでは怒りの声が上がっている

首脳会談後に両国がそれぞれ発表した声明は、国境での平和維持のほか、「互いの相違点を争いに発展させない」と強調する内容だった。

インドにとっては、中国との990億ドルを超える貿易赤字が懸念材料となっている。

また、両国は依然として、多くの分野で互いに高い関税や輸入税を課している。

中国側は、人口14億人のインド市場が中国製品に向けて開放されるよう望んでいる。しかしインド政府の方は、貿易赤字への対応がない限り、中国への市場開放を警戒するはずだ。

中国への接近は、モディ首相が昨年、ロシア連邦タタールスタン共和国の首都カザンで習主席と会談したことから始まり、トランプ政権による関税措置によって加速されたかもしれない。しかし、インドにとっての根本的な現実は依然として変わっていない。

モディ首相と習主席の会談は、インドの「戦略的自律」政策の一環として受け止められているものの、同時に、インドが抱える地政学的課題が増えることにもなる。

インドは今年後半に、日豪米と組む「クアッド」首脳会議の開催を予定している。この枠組みは、インド太平洋地域における中国の影響力に対抗するものとして広く認識されている。

トランプ大統領が出席するかは不明だが、仮に出席して中国に対して何かしら批判的な発言をした場合、インドと中国が再構築しつつある協調関係が直ちに試されることになる。

インドはまた、反中で反ロシアと見なされる複数の多国間フォーラムにも参加している。

今後数カ月間において、インドが戦略的自律をどのように展開するかが、インドと中国の関係の方向性を大きく左右することになる。

現時点では、米印関係がこれまでで最も低調なのは明らかだ。トランプ大統領の貿易担当顧問、ピーター・ナヴァロ氏は8月末に、ロシア・ウクライナ紛争を「モディの戦争」と呼んだ。

インド政府はまた、5月のインド・パキスタン間の停戦にトランプ大統領が何かしら役割を果たしたという言い分を一貫して否定しており、そのせいでトランプ大統領のいらだちは続いている。

それでもインドはアメリカに対して報復関税を課さず、今後の交渉に向けて扉を開けたままにしている。なにしろ、アメリカはインドにとって最大の貿易相手国なのだ。

中国との関係を深めることで、アメリカとの交渉においてインドは有利になるのか、それともその逆か。

この問いはおそらく今後数カ月間、インド政府とその周辺が繰り広げる地政学的議論において、中心的な課題になるのだろう。

中国:インドとの接近は絶妙なタイミング

白いクルタ(南アジアの民族衣装)や、ジーンズとシャツ姿の男性たちが、習近平氏の肖像画と中国国旗を印刷した紙を燃やしている

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画像説明, 中国とインドの関係は、2020年のガルワン渓谷での衝突で緊張が高まったが、その後はやや収まっている。写真は2020年撮影

スティーヴン・マクドネルBBC中国特派員(天津)

習近平国家主席がナレンドラ・モディ首相と会談した際、中国とインドの関係について、お気に入りの表現を使った。「龍象共舞」、つまり両国は協力し合うべきだと。

習主席はまた、「この変革の時期」にこそ、世界最多の人口を抱える両国が友人となり、良き隣人であることが重要だと付け加えた。

モディ首相の訪中は、トランプ米大統領によるインド製品への最大50%の関税措置と重なった。これは実に絶妙のタイミングだった。

このトランプ関税はインド経済に大打撃を与える。それだけに、インド政府は他の貿易相手国を模索することになるだろう。

習主席は、「目の前を見てくれ」と言うかもしれない。中国は、長年にわたる緊張関係の末に損なわれた中国・インド関係の再構築を目指しているからだ。

両国の公式発表を見れば、モディ首相の天津での上海協力機構(SCO)サミット出席は成果を上げたように見える。

モディ首相が習主席に対して述べた内容は、中国側の発表よりも具体的だった。

現在、中国とインドが緊張関係を修復するための好機が訪れている。

習主席は、トランプ大統領による関税攻勢がインドをアメリカから遠ざけていることも、この経済大国が新しい協力相手を必要としていることも理解している。

とはいえ、依然として多くの障害が残されている。

インドの主要ライバル国パキスタンを中国が支援していること、中印間のあらゆる形の交流が停滞していること、両政府による(長年の)激しい言い争いがアジアの大国同士の間に疑念の空気を生み出していること、そして、ヒマラヤ山脈地帯における国境紛争が双方の国民感情を刺激していることなどだ。

しかし、最後に挙げた国境問題については、すでに緊張が緩和されつつあることが今回の会談で確認されたようだ。

中国国防部の報道官は8月25日、係争中の国境地帯での衝突を回避するために行われた、中国とインドの代表者による協議の成果を強調した。

この報道官は、「双方に利益をもたらす協力」について言及し、両国の国交樹立75周年を祝う姿勢を示した。

習主席は、モディ首相が現在、中国を訪問していることの象徴的な意味を十分に理解している。両首脳が握手をして並んで立つ姿は、インドに対するトランプ政権の関税措置が発動される中で、強力なプロパガンダの手段となり得る。しかも、今回は多国間会議の場でそれが行われたことが、その重要性をさらに強めている。

上海協力機構(SCO)にはモディ首相と習主席に加え、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領、北大西洋条約機構(NATO)加盟国のトルコ、アメリカの主要同盟国サウジアラビア、アメリカの主要な敵対国イラン、さらにカタール、エジプト、パキスタンなどの首脳が参加している。

そして、こうしたすべてが、北京で大規模な軍事パレードが行われる直前のタイミングで展開されているのだ。