【解説】 マドゥロ氏が信頼した副官、トランプ氏のために働けるのか


ピンクのトップスを着たロドリゲス氏が、演壇に立ちマイクに向かって口を開いている。背景にはヴェネズエラ国旗が映っている

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画像説明, ヴェネズエラの暫定大統領となったデルシー・ロドリゲス副大統領は、マドゥロ大統領の拘束を「誘拐」だと非難した(資料写真)

ヴァネッサ・ブッシュシュローター・ラテンアメリカ編集長、BBCニュース・オンライン

ドナルド・トランプ米大統領の3日の記者会見の放送にチャンネルを合わせた人の多くは、米軍がどのようにヴェネズエラのニコラス・マドゥロ大統領を夜明け前に急襲し、拘束したのかについて、劇的な詳細を聞けると期待していただろう。

しかし、人々がもっと驚いたのは、マドゥロ氏の身柄を確保した今、ヴェネズエラは「安全、適切かつ賢明な(政権)移行ができるようになるまで」アメリカが「運営する」と、トランプ氏が発表したことだった。

トランプ氏はさらに、マルコ・ルビオ米国務長官がマドゥロ政権のデルシー・ロドリゲス副大統領と話をしたと、予想外の説明をした。ロドリゲス氏についてトランプ氏は、「ヴェネズエラを再び偉大にするために私たちが必要だと考えていることの実行を基本的にいとわない」と述べた。

しかし、当のロドリゲス氏はその後の記者会見で、マドゥロ氏の拘束を誘拐だと非難。ヴェネズエラが植民地になることはないと強調した。

相反する言葉が飛び交うなか、多くの人は今、誰がヴェネズエラを掌握しているのかと疑問に思っている。

ヴェネズエラの憲法では、大統領が不在の場合、副大統領が職務を引き継ぐことになっている。

そのため、ヴェネズエラ最高裁がロドリゲス氏を大統領代行にしたのは、表面的には理にかなったステップのように見える。

だが、ヴェネズエラ情勢に注目しているほとんどの人は、アメリカの介入直後の状況は違ったものになるだろうと予想していた。

アメリカなど多くの国々は、マドゥロ氏を正統性のあるヴェネズエラ大統領として認めていない。そして、2024年大統領選挙について、不正があったと非難している。

マドゥロ氏は、ヴェネズエラの選挙管理委員会(CNE)によって大統領選で当選したと発表された。CNEは政府に忠実な人々が多数を占める。

しかし、CNEは詳細な投票結果を明らかにしなかった。一方、反政権側が収集し米カーター・センターが検証した投票集計表のコピーによると、対立候補のエドムンド・ゴンサレス氏が圧勝していた。

白い服を着たマチャド氏と、黒っぽいジャケットを着たゴンサレス氏が手をつなぎ、その手を高く上げている

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画像説明, エドムンド・ゴンサレス氏(右)は、大統領選への立候補を禁止された反体制派指導者マリア・コリナ・マチャド氏(左)に代わって立候補した(2024年7月29日、カラカス)

そうしたことから、アメリカなど数十カ国はゴンサレス氏を次期大統領として承認した。

元外交官で知名度の低いゴンサレス氏は、国民に人気の反体制派指導者マリア・コリナ・マチャド氏が支持した。マチャド氏はマドゥロ政権関係者によって大統領選への立候補を禁止され、代わりにゴンザレス氏が候補になっていた。

選挙が終わると、治安部隊が野党勢力の弾圧に乗り出した。ゴンサレス氏はスペインに亡命し、マチャド氏はヴェネズエラ国内で身を隠した。

両氏らは過去1年半、マドゥロ氏の退陣を要求。諸外国(特にアメリカ)には、それを支援するよう訴えてきた。

マチャド氏は、ノーベル平和賞を受けたことで知名度が一気に上がった。ヴェネズエラの「独裁政権から民主主義への公正かつ平和的な移行を達成するための闘い」が評価されての受賞だった。

ヴェネズエラの隠れ家からノルウェー・オスロまで受賞のために危険な旅に出たことで、マチャド氏に対する注目と評価は高まった。「マドゥロ後」のシナリオがあるとすれば、彼女が母国に戻り、ゴンサレス氏とともに権力の座に就くことになると、多くの人が予想した。

マチャド氏はマドゥロ氏の拘束後、「自由の時が来た」と宣言する文書をソーシャルメディアに投稿。

そこには、「いま、私たちは任務を遂行し、権力を掌握する準備ができている」と書いてあった。

ところがトランプ氏は、マチャド氏には国を率いるに足りる「支持も尊敬も」国内で得ていないと断定。記者団を驚かせた。

今回の攻撃後、自分のチームはマチャド氏と話をしていないと、トランプ氏は説明。一方で、ルビオ長官とヴェネズエラのロドリゲス副大統領が話したと述べた。

トランプ政権はなぜ、少なくとも今のところ、マドゥロ氏の忠実な側近を支持しているのか――。その答えは、トランプ氏の次の発言から読み取れるかもしれない。

トランプ氏は、ロドリゲス氏が、「あなたが望むことは何でもする」と言ったと話した。「彼女には実際、そうするよりほかにない」と付け加えた。

動画説明, 【検証】ヴェネズエラに対するトランプ米大統領の動き 主なポイントは

ヴェネズエラでは今なお、マドゥロ氏の側近が実権を握っている様子だ。そのため、現政権の誰かが後任になった方が、最もスムーズな権力移行につながると、米政府側は考えた可能性がある。

アメリカのビル・クリントン政権とバラク・オバマ政権で国家安全保障担当の高官を務めたマラ・ラドマン氏は、「(米政府側は)現地に乗り込んで国の日常業務を引き継ぐのではなく、後見人のような立場に立つ取り決めをまとめられると考えている」と解説。こうしたアプローチは現代では例がないと述べた。

トランプ氏は記者会見で、アメリカは「必要なら第2の、はるかに大規模な攻撃を仕掛ける用意がある」と述べた。この発言は同氏が、ロドリゲス氏にはアメリカの言いなりになる以外の選択肢がないと考えている理由を説明していると思われる。

マドゥロ氏(右)が演台に立って発言している。写真左隣にはシリア・フロレス氏、そのさらに左隣にロドリゲス氏が並んでいる。3人は虹のプリントが入ったおそろいのトラックスーツを着用している

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画像説明, ロドリゲス副大統領(左)はたびたび、マドゥロ大統領(右)や妻シリア・フロレス氏と並んでイベントに登場した(2023年12月3日、カラカス)

マドゥロ氏が拘束され国外に移送されてから数時間後、ロドリゲス氏はマドゥロ氏の側近の有力者らに囲まれていた。これは、彼女がその有力者たちの支持を得ていることを示している。

彼女のそばにいたのは、兄で国会議長のホルヘ・ロドリゲス氏、ディオスダド・カベジョ内相、ヴラディミル・パドリノ国防相、ドミンゴ・エルナンデス・ラレス軍最高司令官といった面々だった。

このことは、マドゥロ氏拘束によって側近同士の権力争いが起こり、政情が不安定化するのではと懸念する米政府関係者らにとっては、望ましいことだろう。

一方で、ロドリゲス氏がアメリカに向けて発したメッセージは、アメリカの耳にはあまり心地よいものではなかっただろう。

彼女は、「ヴェネズエラには大統領は一人しかおらず、その名前はニコラス・マドゥロだ」と主張。マドゥロ氏の拘束を「誘拐」と呼んだ。

そして、「私たちは二度といかなる帝国の植民地にもならない」と強調。ヴェネズエラを「守る」と誓ったのだった。

トランプ氏はロドリゲス氏のことを、「アメリカの言いなりになることをいとわない」と評した。しかし当人の発言は、そういう印象を与えなかった。とはいえ、愛国的な発言をしたのは、マドゥロ氏の最も忠実な支持者らを引きとめておくためだったのではないかとの見方もある。

ルビオ氏は4日の米CBSの取材で、トランプ氏がロドリゲス氏を支持していることや、彼女の発言について問われると、アメリカが評価対象にするのはロドリゲス氏の行動であって、発言ではないと答えた。

「いろいろな人がどういう決断をするのか、私がもう知っているかって? いや、知らない」とルビオ氏は述べた。ロドリゲス氏がアメリカと協力するつもりかどうか、自分はトランプ氏ほどには確信していない様子をうかがわせた。

一方でルビオ氏は、アメリカがロドリゲス氏の率いる暫定政権に対して圧力をかける意思があると強調。

「私にはっきりわかっているのは、もし(暫定政権が)正しい決断をしなければ、アメリカは自分たちの国益を確実に守るためにさまざまな手段を講じるということだ。実施中の石油関連の制裁措置もそれに含まれる」と述べた。

ルビオ氏は米ABCのインタビューで、ヴェネズエラで新たな選挙が実施されるべきだとの考えも示した。

同局の番組「ディス・ウィーク」で、「政府は(権力の)移行期間と実際の選挙を通じて誕生する。(ヴェネズエラには)これまでなかったことだ」と述べた。

ルビオ氏はまた、「現実感」も強調。「ニコラス・マドゥロが拘束されてから24時間たったのに、なぜ明日、選挙が予定されていないのかと、みんなから聞かれる。ばかげている」と言い、新しい選挙を実施するには時間がかかるという考えを示した。

トランプ政権1期目で国家安全保障担当の大統領補佐官としてマドゥロ氏を失脚させる計画に携わったジョン・ボルトン氏は、今回の米軍の作戦とマドゥロ氏の拘束を歓迎した。

しかし、今では著名なトランプ批判者となっているボルトン氏は、ロドリゲス氏がアメリカに屈する可能性は低いとBBCに説明。政権が中国、ロシア、キューバの後ろ盾をまだ得ているだけになおさらだとした。

「ここで取るべき合理的な行動は、マドゥロ政権の残党を倒し、自由で公正な選挙が実施されるまで、反体制派に政権をもたせることだ。(ヴェネズエラには)選挙を準備する間、暫定政権を運営できる人材がいる」

新たな選挙の話が出ていることは、マチャド氏やゴンサレス氏だけでなく、両氏を支持して投票し、その票が尊重されるべきだと訴えてきた多くのヴェネズエラ国民も失望させるに違いない。

反体制側は以前から、選挙を実施する主要機関がマドゥロ氏の支持者で固められている間は、自由で公正な選挙は不可能だと主張してきた。それらの機関の改革には時間がかかる。

したがって、短期的には、ヴェネズエラはロドリゲス氏とマドゥロ氏の側近らによって統治される可能性が高そうだ。トランプ政権の期待に応えている間は、ということではあるが。

それがいつまで続くかは、トランプ氏の要求とマドゥロ氏のベースをなしている利益との間に、ロドリゲス氏が「黄金の中間点」を見いだせるかどうかにかかっている。

彼女はたちまち、板挟みになるのかもしれない。