タイ議会、第1党党首の首相指名投票を取りやめ 議員資格の一時停止で
デレック・ツァイ(シンガポール)、サンヤラット・ドクソネ(バンコク)

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5月に行われたタイの総選挙で下院第1党となった、前進党のピタ・リムジャロエンラット党首(42)の首相への道が閉ざされた。支持者からは怒りの声があがっている。
タイの憲法裁判所は19日、ピタ氏の議員資格の一時停止を決定した。これにより、ピタ氏は議会からの退出を余儀なくされた。
その後、議会はピタ氏に対する2回目の首相指名投票を行わないことを決定した。
5月の総選挙では、多くの有権者が、軍が支援する現政権への拒否を示し、ピタ氏率いる前進党が第1党となった。
しかし、ピタ氏は今月13日に行われた1回目の首相指名の投票で、上下両院の過半数を獲得できなかった。
憲法裁判所は今後、ピタ氏が長らく閉鎖されていたメディア企業の株を所有していたことを理由に、国会議員の資格を剥奪されるべきかを判断することになる。
ピタ氏は「再び会う時までさよならだ」と述べ、党議員から拍手を受けながら議場を退出した。
米ハーヴァード大学を卒業し、テック企業のトップを務めていたピタ氏は、王室を侮辱することを禁じた刑法112条の改正を含む大幅な改革を公約に掲げて総選挙で勝利した。そのため、選挙で選ばれていない上院議員や、ピタ氏は王室にとって脅威だとする保守派と対立することになった。

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議会の外では、前進党の支持者らが選挙の意味に疑問を投げかけていた。
ある男性はAFP通信の取材に対し、「なぜ国民に選挙に行けと言うのか? 自分たちの家族から誰かを選んで首相にすればいいのではないか?」と語った。
別の女性は、「ピタ氏は何も悪くない。正しいことしかしていない」と話した。
議場から退出する前、ピタ氏は裁判所が最終的な決定を出すまでは議員としての公務を停止すると話した。
また、総選挙での勝利について言及し、「タイは変化しているし、5月14日以降、同じではない」と語った。
「国民は勝利半ばで、まだ半分の道のりがある」
困難な闘い
ピタ氏が首相になるには、上下両院の計749議員の過半数の支持を得る必要があった。
第1回の指名投票では、324票と、必要とされる375票に51票届かなかった。選挙で議員が選ばれる下院では過半数を優に超えたものの、上院で支持を得られなかった。
上院議員249人がピタ氏を支持する理由はほとんどなく、同氏は常に困難な戦いを強いられている。上院議員らは、軍部と王党派が不快に思う民主的な結果のブレーキ役として、2006年クーデター以降の軍事政権に選ばれている。
前進党は、10年近くにわたる保守派軍事政権を終わらせたいと考えている若者の支持を集めている。
前進党は、5月の総選挙で第2党となったタイ貢献党を含む7党と連立していた。だが、タイ貢献党が軍部との協力を否定しなかったため、多くの若い有権者は前進党を支持した。
親政府派は、5月の衝撃的な選挙結果を受け、ピタ氏の政権奪取を阻止しようとしている。
保守的な憲法裁には、ピタ氏に対する訴えが2件出されている。1件は株式に保有に関するもので、これによってピタ氏の議員資格は一時停止された。もう1件は、前進党が提案した王室侮辱罪に関する法改正について、タイの政治秩序全体を転覆させる試みであると主張している。王室侮辱罪ではこれまでに、王室を批判した数百人が刑務所に入れられている。
現在のタイの政情には前例がある。2019年の総選挙では、前進党の前身である新未来党が選挙法に違反したとして、憲法裁から解党を命じられた。
同裁判所はまた、2008年以降、2006年クーデターで失脚したタクシン・チナワット首相派の首相3人の就任を無効としている。
だがそのタクシン派の流れをくみ、憲法裁によるほぼすべての判決を受けてきた側のタイ貢献党が、今は連立相手の前進党に対する最新の判決から利を得ようとしているのは皮肉だ。
タイ貢献党と前進党の関係はよくない。タイ貢献党は、民主主義の擁護者としての立場を前進党から奪っているだけになおさらだ。
ピタ氏は選挙には勝利したものの、首相の座を断念するだけでなく、新政権にまったく居場所がないことを受け入れなければならないかもしれない。
追加取材:ジョナサン・ヘッド









