ベラルーシにワグネルの宿営地か、新たに数百のテント 衛星画像を分析
フランク・ガードナー、ジェイク・ホートン

画像提供, Planet Labs
ロシアの雇い兵組織ワグネルが隣国ベラルーシで設けた宿営地とみられる場所に、テントに見える数百の構造物が新しく設置されている様子が分かった。BBCが高解像度の衛星画像を入手・分析した。
ワグネルと代表のエフゲニー・プリゴジン氏は6月24日、ロシア国防省に対して武装蜂起し、ロシア南西部の軍事拠点を占拠して首都モスクワへ向かった。同日夜のロシア政府発表によると、ワグネルとロシア当局は、プリゴジン氏とワグネル部隊のベラルーシ移動を条件に反乱参加者を不起訴とする取引を交わしたとされる。
この取引を経て、ベラルーシ国内でワグネルの宿営地が拡大した可能性がある。
衛星画像は何を示しているのか
BBCが入手した衛星画像は、ベラルーシの首都ミンスクから約103キロ南東にあるアシポヴィシの町から約21キロ離れた場所にある、使われなくなった軍事基地で、人の出入りがある様子を示している。ロシア・メディアはこの旧基地がワグネル戦闘員の拠点になる可能性を指摘している。
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過去2週間の間に、300以上のテントのような構造物が設置されたことを、BBCヴェリファイ(検証)チームが確認した。
6月15日の衛星画像では、こうした構造物はいっさい見えない。一方、6月30日にBBCが入手した高解像度の衛星画像から、同じ基地で相当の建設作業が行われている様子が明らかになった。


新しい構造物がワグネルの宿泊用かどうかは確認できないが、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は未使用の基地を提供する用意があると発言していた。
ワグネルがベラルーシ国内にこうして駐留することで、ベラルーシの南に位置するウクライナは、北側国境の防衛強化に意識を向けなくてはならない。さらに、ベラルーシに国境を接する北大西洋条約機構(NATO)加盟国のポーランド、ラトヴィア、リトアニア各国も、ワグネルがベラルーシを足掛かりに妨害工作を仕掛けてくる可能性を懸念している。
しかし、実際には誰も、おそらくクレムリン(ロシア大統領府)でさえ、実際に何人のワグネル戦闘員がベラルーシに向かうのか、把握していないだろう。あるいは何人がロシア軍に入隊してウクライナと戦うのかも、さらに何人が制服を脱いで帰宅するのかも、把握されていない。
ワグネル関係者が使うメッセージアプリ「テレグラム」の複数チャットルームを、BBCヴェリファイは見続けているが、手掛かりはあまり得られない。ただし、ベラルーシ出身のワグネル戦闘員だと自称するブロガーは、ワグネルが「今も働き続けている」と書いていた。反乱未遂直後は、多くの戦闘員はロシア支配下にあるウクライナ東部のワグネル基地に戻ったと思われている。
なぜワグネルの動きは重要なのか
まず第一に、6月24日にわずか数時間のうちにワグネルは、ロシア南西部の主要都市ロストフ・ナ・ドヌを丸ごと支配下に置いた。続いて、重装備の車列を北上させ、モスクワまで残りわずか200キロというところまで進軍させた。その間に、ロシア軍機の撃墜さえ行っている。
プリゴジン氏が主張するように、これは意図されたものではなかったかもしれない。それでも、プーチン氏の支配に対する、これまでで最も深刻な挑戦だった。
要するに、世界最大の核弾頭保有国で、壊滅的な内戦を危うく引き起こしそうになったということだ。

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第二に、ワグネルはウクライナでの地上戦で、ロシアにとって最大の効果を発揮している軍事力だ。退役軍人と受刑者からなるワグネルの兵士は、たいていの場合、正規軍の兵士よりも高給取りで、モチベーションも高い。
第2次世界大戦でのスターリングラードの市街戦のような、苦しい接近戦をウクライナで何カ月も続けた挙句、ワグネルは今年5月、荒廃したウクライナ東部バフムート市をついに制圧。それによってロシアはようやく、勝利とも言えなくもないものを手にしたのだった。
プーチン氏はどうするのか
プーチン大統領はジレンマに直面している。ワグネルは反乱を起こした。将来的な脅威であり続けるのは、明らかだ。しかし一方で、ワグネルはウクライナ侵攻だけでなく、クレムリンにとっても極めて有用な存在でもある。
シリアやリビア、さらに複数のアフリカ諸国にワグネルは送り込まれている。行った先々で、クレムリンとは無縁だという振りをしながら、ロシアの戦略的な力や影響を世界中に広めてきた。ワグネルに数十億ルーブルの国費を投じていることをプーチン氏がついに認めたのは、ごく最近のことだ。
反乱が停止した後、クレムリンは、ワグネル戦闘員は7月1日までに正規軍への入隊契約を結ぶかどうか決めなければならないと発表した(ほとんどの者にとって、これは魅力的な見通しとはいえない)。正規軍に加わらないならば、戦闘員は自宅へ戻るか、プリゴジン氏の亡命先とみられる隣国ベラルーシへ向かうことになる。
プリゴジン氏はどこにいるのか
ワグネルの指導者は職業軍人ではない。組織犯罪に関与した罪で数年間服役した元犯罪者で、ホットドッグの屋台を経営していたこともある。戦闘服姿でワグネルのテレグラム・チャンネルに登場し、ロシア軍指導部は無能だと、罵詈雑言を浴びせるのを楽しんできた。
しかしここ数日は、オンライン上で沈黙を守っている。所在も分かっていない。

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私たちは、プリゴジン氏に関係のある航空機が今週、ベラルーシの首都ミンスクに着陸したことを、飛行追跡データで確認している。ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は27日、プリゴジン氏が同国に到着したことを認めた。
この航空機はその後、サンクトペテルブルクとモスクワを経由してロシアに戻った。


BBCヴェリファイはさらに、ロシアの新聞が掲載した男性の画像についても調べている。ロシアの新聞は、これが6月29日にサンクトペテルブルクでヘリコプターに乗り込むプリゴジン氏の姿だと主張している。
これと同じヘリコプター(機体の登録番号で同じものと確認)を、今年5月26日にプリゴジン氏が使用しているところが写真に収められている。
画像には、野球帽をかぶり、医療用マスクを着けた人物がヘリコプターに乗り込む様子が映っている。身元を特定するのは非常に難しい。
プリゴジン氏の左手の指は一部が欠けているが、最新の画像に写る人物の指は無傷のようにみえる。同氏の所在をめぐる謎はさらに深まった。
侵攻への影響は
BBCヴェリファイはワグネルの反乱以降、ウクライナ軍が領土を奪還したかどうか、証拠を探してきたが、これまでのところ前線に大きな変化はみられない。
「ロシアは今、守勢に転じているため、(反乱の)影響はないと思う」と、英キングス・コレッジ・ロンドンのロシア軍事専門家、マリーナ・マイロン氏は言う。
「ロシア正規軍がうまくワグネル部隊を吸収し、単一の指揮系統の下でワグネル部隊を再利用することができれば、ロシア側は必ずしも弱体化しない」
結局のところ、前線にいるロシア部隊の士気次第だ。ロシア国内で指揮官同士が争っているのかと、戦地にいる部隊が疑念を抱くようになれば、いずれそれは塹壕(ざんごう)内の士気に深刻な影響をもたらすかもしれない。
ワグネル自体が終わったわけではない。しかし、ロシア軍からほぼ独立して活動する時代は終わりを迎えた。ロシア政府に兵器を引き渡し、カリスマ性のあるプリゴジン氏がトップからいなくなれば、もはや以前のような部隊ではいられなくなる。それはウクライナ政府にとって、いくらかの安心材料になるだろう。
(追加取材:ダニエレ・パルンボ、ポール・ブラウン、ベネディクト・ガーマン)









