英下院、対EU通商協定の一部を破棄する法案を可決 国際法違反の批判も

Larne port

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イギリス下院は27日、2019年に欧州連合(EU)と交わしたEU離脱後の通商協定の一部を破棄する法案を、295対221の賛成多数で可決した。

保守党政府が提出した「北アイルランド議定書法案」は、国境を接している英・北アイルランドとEU加盟国アイルランド間の通商について定めた「北アイルランド議定書」を変更する内容になっている。

この法案についてはEUのほか、ブレグジット(イギリスのEU離脱)交渉中に首相だったテリーザ・メイ議員(保守党)などが、国際法違反だと批判していた。EUはこの件について、すでに法的手段に出ている。

しかしリズ・トラス外相は、北アイルランド議定書によって生じた問題を「修正」するにはほかに道がなかったと説明した。

北アイルランド議定書では2021年1月のブレグジット以降、北アイルランドとEU間の通商に支障が出ないよう、税関など国境管理措置を設けないと定められている。しかしこれにより、北アイルランドと残りのイギリスとの間にEU法にのっとった税関が必要になっていた。イギリス政府や北アイルランドのユニオニスト(親英派)政党はこれを不服として、議定書の改定を模索していた。

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トラス外相は下院で、EUが2019年のEU離脱協定の協議において、北アイルランド議定書と呼ばれる部分について「柔軟性」を十分に示さなかったことが、この法案の正当性につながると指摘した。

また、同法案は北アイルランドの「状況の悪化」によっても正当化されており、EUがEU離脱協定の変更を否定したため、イギリスには「他の選択肢はなかった」と付け加えた。

その上で、北アイルランドの平和維持のために結ばれた1988年の「ベルファスト合意」を維持するためにも、議定書の変更が必要だと主張した。

トラス氏はさらに、内閣はこの法案の通過によって、5月の統一地方選以来保留されている北アイルランドの権力分立が再開されることを期待していると述べた。

北アイルランドでは5月初めの議会選挙で、第1党がナショナリスト(親アイルランド派)のシン・フェイン党に変わった。シン・フェイン党をはじめとするナショナリスト政党や中道派は、ブレグジットの影響を軽減するために必要だとして北アイルランド議定書を支持しており、ユニオニスト政党と対立している。

北アイルランドでは、ユニオニスト政党とナショナリスト政党が連立で自治政府を運営する。しかし、最大のユニオニスト政党で、総選挙で第2党となった民主統一党(DUP)は、北アイルランド議定書をめぐる合意が形成されるまでは、新政権には参加しないとしている。

Theresa May

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画像説明, ブレグジット交渉中に首相だったテリーザ・メイ議員は、この法案が国際法に違反し、イギリスの評価を傷つけるとして、反対した

27日の審議では、メイ前首相が北アイルランド議定書法案はその目的を達成できないだろうと批判を述べた。

メイ氏は、必要性の法原則によってこの政府案の内容は認められるという見解を疑問視し、「必要性とは緊急性を意味するが(中略)この法案の内容には緊急性がまったくない」と指摘した。

「緊急立法として提出されたわけもはない。議会を通過するには数週間どころか数カ月かかるはずだ」と、メイ前首相は述べた。

その上で、この法案は「違法」だと自分は判断したとして、「世界の前でイギリスの立場を損なうものだ」と述べ、法案を支持しないと表明した。投票結果にメイ氏の名前はなかったため、同氏は棄権したとみられる。

下院の北アイルランド委員会で委員長を務めるサイモン・ホアー議員(保守党)や、アンドリュー・ミッチェル国際開発相も、この法案はイギリスの国際的評価をおとしめるものだと批判した。

最大野党・労働党は法案に反対した。デイヴィッド・ラミー影の外相は、法案はイギリスの同盟諸国に歓迎されないし、生活費高騰の危機が起きている最中にEUと貿易戦争が起こる危険性があると指摘。EUと交渉を続ける方が良いと述べた。

政府は早期成立を目指す

ボリス・ジョンソン首相は先に、北アイルランド議定書に関する法案が年内に可決される可能性があるとの見方を示している。

主要7カ国(G7)首脳会議のためドイツ南部を訪れているジョンソン首相は、BBCの取材に対して、政府の計画は「それなりに速やかに」進むだろうと述べた。

イギリス政府は7月半ばから始まる議会の夏休み前に、この法案が下院を通過することを目指していた。

しかし、法案は上院で厳しい反対にあうことが予想されている。ホアー議員は、最終的な議会通過は来春になるだろうと話した。

下院が法案を通過したことで、EUからの反発も始まっている。EUはイギリスでこの法案が成立した場合には法廷での闘争を再開するとしている。