ロシア、軍の「偽情報」報道に刑罰 BBCなど西側主要メディアはロシアでの活動を中止

BBC New Broadcasting House, London

画像提供, Getty Images

画像説明, ロンドンのBBC本社ニュー・ブロードカスティング・ハウス

ウクライナ侵攻を続けるロシアのウラジーミル・プーチン大統領は4日、ロシア軍に関する「偽情報」の拡散を最高15年の実刑で処罰するという改正刑法に署名、成立させた。ロシア議会は3日、この法案を満場一致で可決していた。これを受けて、BBCやCNNなど西側の主要メディアはロシア国内での活動を中止した。

プーチン氏はさらに、ロシアへの制裁を呼びかけた者を罰金・懲役刑の対象にする法案にも署名した。

それ以前にもロシア国内に残る独立系メディアは、ロシア政府が「特別軍事活動」と呼ぶものを「侵攻」、「戦争」と呼んだことを理由に次々と閉鎖に追い込まれた。独立系テレビ「ドシチ(TV Rain)」のスタッフは4日、生放送中にスタジオを退出し、放送を停止した。

TV Rain Studio

画像提供, TVRain

画像説明, ロシア政府の圧力を受け放送を中止する前に、放送中にスタジオを出た「ドシチ」のスタッフ

こうした事態を受けてBBCは4日、ロシア国内での活動中断を余儀なくされた。

BBCのティム・デイヴィー会長は、「ロシア連邦内におけるBBCニュースの記者と支援スタッフ全員の作業を一時的に中断するしかない」とした上で、「ロシア語のBBCニュース・サービスはロシア国外から、活動を継続する」と述べた。

ロシアのウクライナ侵攻開始以来、オンラインのBBCロシア語サイトのアクセス数は過去最多に達していた。

会長は「スタッフの安全は何より大切で、ただそれぞれの仕事をしているだけで刑事訴追される危険に、スタッフをさらすつもりはない」として、スタッフの勇気と決意とプロ意識をたたえた。

さらにデイヴィー会長は、「BBCニュースを利用する数百万人のロシア人」を含め全世界の観客に正確な情報を提供し続けると約束。「ウクライナをはじめ世界各地のジャーナリストが、ウクライナ侵略について報道し続ける」と述べた。

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ロシア国営通信RIAによると、これに先立ちロシア国内では、BBCの各種ウエブサイトのほか、ドイツの公共放送連合体による国際放送ドイチェ・ヴェレ、ロシアの独立調査報道メディア「メドゥーザ」、米政府系「ラジオ・リバティー」など複数のメディアが制限されていた。

米CNNとブルームバーグ・ニュースも4日、ロシア国内での活動を中止すると発表した。

RIAによると、ロシア政府はさらに、国内でフェイスブックのアクセスも禁止した。

BBCはこの事態を受けて、ロシア当局の検閲を回避してサイトに接続する方法や、匿名通信システム「Tor(トーア)」を経由してBBCニュースのミラーサイトに接続する方法を発表したウクライナ語ロシア語でも情報を提供した。

BBC Tor access
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「白鳥の湖」で放送中止

ロシア政府のメディア監督機関「通信・IT・マスメディア監督サービス」は独立系テレビ「ドシチ」に対して、「過激主義を先導し、ロシア市民に害を加え、公共の秩序と安全を大々的に見出し、抗議行動を推奨した」と追及を重ねていた。

4日の最終放送で、チャンネル創設者のひとり、ナタリア・シンデイェヴァさんが「戦争反対」と述べると、スタッフはスタジオを後にした。

テレビ局はその後、ロシアの作曲家チャイコフスキー作の「白鳥の湖」のバレエ映像を流し始めた。

旧ソヴィエト連邦時代、「白鳥の湖」は、政府首脳の訃報の際に使われていた。ソ連崩壊につながった1991年のクーデターの最中にも、「白鳥の湖」が放送されていた。

「ドシチ」のティホン・ジャドコ編集局長は2日にロシアを出国。自分の安全が懸念されたからだと説明した。

同チャンネルのアナウンサーで元報道部長、エカテリーナ・コトニク氏はBBCに対して、「最大の問題は、私たちは報道のプロとして多面的に、ウクライナ情勢を客観的に報道していたことだった」と話した。

コトニク氏も、ロシア政府が成立させた改正刑法のため、ロシアを出国せざるを得なかった。ロシア軍について「偽情報」を拡散したら実刑15年と言う罰則について、コトニク氏は「ロシアの民主主義は終わった。あらゆる自由は失われた」と話した。

ラジオ局「モスクワのこだま」は1日に放送が中断され、3日には役員会が事業を全停止。ロシアのインタファクス通信は4日、社屋の賃貸契約は破棄され、ウエブサイトも閉鎖されたと伝えた。

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公式見解と異なる報道に刑罰

ロシアの国営テレビは、ウクライナの状況を「戦争」とは呼ばない。その代わり、ロシア軍による攻撃は軍事インフラを標的とした非軍事化作戦、あるいは「両人民共和国を防衛するための特別(軍事)作戦」と表現される。

ロシアのテレビ局は連邦政府の監督機関「通信・IT・マスメディア監督サービス」から、政府の公式見解に沿った報道をするよう、義務付けられている。

この監督機関はメディア各社に対し、侵攻を報道する際にはロシアの公式情報源のみを使うよう指示し、「宣戦布告」や「侵攻」に言及した報道を取り下げるよう指示してきた。

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ノーベル平和賞受賞ドミトリー・ムラノフ氏が編集長を務める独立系新聞「ノーヴァヤ・ガゼータ」は4日、政府が記者や市民を脅しているため、紛争に関するコンテンツをサイトから削除するとツイートした。

最近ロシアから出国したフリーランス記者、ミハイル・フィッシュマン氏は、「この戦争について、政府の公式見解から離れれば、それは実刑を伴う懲罰対象になった。ロシアの独立系報道の知り合いは全員、すでにロシアを出たか、いま必死になって出ようとしている」と話した。

動画説明, 「私たちの戦争ではない」、「世界に憎まれてしまう」 戦争に反対するロシア人の声
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「爆撃で市民が殺されていると言っても、母親は信じてくれない」

偽情報の取材を続けるBBCの記者たちは、激しい攻撃を受けている北東部ハルキウに住むオレクサンドラさん(25)に話を聞いた。オレクサンドラさんによると、モスクワに住む自分の母親は、ハルキウではロシア軍の砲撃で民間人が死亡しているのだと言っても信じないのだという。

攻撃が始まって以来、犬4匹とマンションの寝室にこもっているというオレクサンドラさんは、モスクワ在住の母親に爆撃された市内の映像を送っても、母親は信じないと話す。

Oleksandra sheltering with her dogs in her flat's bathroom in Kharkiv

画像提供, Oleksandra

画像説明, ウクライナ東部ハルキウに住むオレクサンドラさんは、モスクワ在住の母親がロシア国営メディアの報道しか信じないと言う

「私のことは心配しているけれど、(爆撃被害は)たぶん事故だろうし、ロシア軍が民間人をねらうわけがない、自国民を殺しているのはウクライナ人だと、うちの親は私に言う」とオレクサンドラさんは話した。

オレクサンドラさんは、自分の母親はロシア国営テレビが伝える内容を繰り返していると言う。

「自分の母親が、ロシアのテレビが言うことを一言一句、そっくり繰り返した時は本当に怖かった。(国営テレビは)ひたすら、国民を洗脳しているし、国民も国営テレビを信用している」とオレクサンドラさんは話した。

動画説明, ウクライナとの「戦争」と言わないロシア国営メディア 信じる国民と信じない国民
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「うちの両親は、ここで何かしらの軍事行動が起きているのは理解しているけれども、『ロシア軍はあなたたちを解放するため、そこにいるの。何も壊さないし、あなたに手出しはしない。ロシア軍は軍事基地をねらっているだけ』とか、私に言う」

BBC記者たちが2月28日にオレクサンドラさんを取材していた間、ハルキウへの砲撃は続いていた。

「沈黙がどういう音だったか、ほとんど忘れてしまった。ひっきりなしに砲撃が続いているので」と、オレクサンドラさんは話した。

しかし同じ日のロシア国営テレビは、ハルキウの住宅地への砲撃について何も伝えなかった。この日のハルキウでは、飲料水のため行列していた市民4人が砲撃で死亡した。