9/11の英雄の医療費基金、延長なるか 著名コメディアンが議会を糾弾

動画説明, 議会は「仕事をしなさい」 9/11救急担当の救済で人気コメディアン

2001年9月11日の米同時多発攻撃(9/11)の現場に急行した消防士や救命士の多くが、吸いこんだ粉塵などの影響で慢性病を患っているが、医療費を支援する連邦基金が期限切れで終了しそうになっている。支援活動を続けてきた人気コメディアンが連邦議会下院で、公聴会に欠席した議員たちを「恥ずべきことだ」と糾弾した翌日の12日、委員会は延長法案を可決した。

時事問題を扱う人気の政治風刺トークショー「ザ・デイリー・ショー」の前司会者で、その発言が今も注目を集める人気コメディアン、ジョン・スチュワートさんは11日、下院司法委の公聴会に出席。以前から支援してきた9/11の救命活動が原因で病気になった消防士や救命士たちを代表し、医療基金延長を審議する公聴会に多くの議員が欠席したことを、強い調子でなじった。

空席が目立つ委員会に向かってスチュワートさんは、警官や消防士、救命士たちがいかに果敢にテロ攻撃の現場に急行し、職務を果たしたかを強調した後、「あなたたちの無関心が、この人たちにとって何より貴重な消費財、つまりこの人たちの時間を奪っている」と糾弾した。

さらに「彼らは自分の仕事をした。勇敢に、潔く、不屈に、謙虚に」と声を詰まらせ、「あれから18年。あなたたちも自分の仕事をしなさい」と議員たちに畳みかけた。

スチュワートさんが時に涙で声をつまらせながら熱弁するこの映像は、ソーシャルメディアなどを通じて大きな注目を集めた。

被害者補償基金(VCF)を2090年度まで延長する法案を審議していた下院司法委は、スチュワートさんが証言した翌日、法案を可決し、下院本会議へ送った。

Retired New York Police Department detective and 9/11 responder Luis Alvarez, left, and Former Daily Show Host Jon Stewart, right are sworn in before testifying during a House Judiciary Committee hearing on reauthorization of the September 11th Victim Compensation Fund on Capitol Hill on June 11, 2019 in Washington, DC

画像提供, Zach Gibson/Getty Images

画像説明, 被害者補償基金の延長を求めて下院司法委公聴会に出席した、ニューヨーク市警のルイス・アルヴァレス元刑事(左)とジョン・スチュワートさん(11日、ワシントン)

被害者の医療費は連邦政府が基金を通じて2020年まで支払うことになっていたが、基金によると、医療費の請求件数が近年急増しているため、財源不足になる危険があるという。

なぜこの事態に

9/11の攻撃後、8万人に上る消防士や警官や救命士、建設作業員や清掃作業員が、被害者を助けようと現場に急行したと言われている。

その大勢は、空気中に飛散したアスベストや鉛、コンクリート粉末を浴び、塵肺(じんぱい)など様々な疾病を発症した。

米疾病対策センター(CDC)によると、攻撃の当日には救命士たちを含めてマンハッタンで約40万人が毒性物質を浴びたり、心身に外傷を負ったと推定されている。

攻撃から7年後の2018年9月の時点で、9/11が原因とされる病気による死者は約2000人とされた。昨年末の時点では、世界貿易センタービルへの攻撃そのもので死亡した人数よりも大勢が、毒性物質を浴びたために死亡したとみられている。

ニューヨーク市警の刑事だったルイス・アルヴァレスさんは11日の公聴会で証言し、9/11関連のがんの治療のため、自分は68クールにわたる化学療法を受けてきたと話した。

「この基金は極楽行きのチケットじゃない。我々が家族の生活を支えられなくなったとき、家族を支えるためのものです」と、アルヴァレスさんは強調した。

Lane Forman walks through the Contemplative Garden after touching his Star of David on the 9/11 memorial wall during the 17th Annual Massachusetts Commemorative Ceremonies on the Anniversary of September 11, 2001 in Boston

画像提供, MediaNews Group/Boston Herald via Getty Images

連邦議会の対応

被害者補償基金(VCF)は、9/11の直後に設置された。当初は、死亡した2880人以上と負傷した2680人の家族に、合計70億ドルを分配した。

2006年には、ボブ・メネンデス上院議員(ニュージャージー州選出、民主党)とキャロリン・マローニー下院議員(ニューヨーク州選出、民主党)が、救命担当たちの医療費を補償する「ザドロガ法案」を共同提案。共和党は成立を阻止しようとし、法案は2006年にはいったん否決されたものの、2009年に再提出された後、2010年末に可決され、バラク・オバマ大統領(当時)が翌年1月に署名した。これによって、VCFが復活した。

このザロドガ法案をめぐり議会が紛糾していた2010年12月には、スチュワートさんが自分の人気番組「ザ・デイリー・ショー」で問題を取り上げ、約20分の番組全編を使って法案の成立を訴えたこともあった。

スチュワートさんがこうして法案成立のために精力的に活動したことと、法律の成立とは無縁ではないという見方もある。

当初は、2016年10月まで被害者からの医療費請求を受け付ける決まりだったが、基金は期限は後に2020年12月まで延長された。

ザドロガ法に基づき連邦政府はVCFに73億4000万ドルを拠出。2019年5月31日の時点で、VCFは9/11によって負傷した、もしくは病気になった約2万2500人に計50億ドルを支払った。死亡した850人の遺族も含まれる。

基金は近く資金切れに

VCFを運営するルパ・バタチャリヤさんは11日、議会に対して基金の資金が近く枯渇すると証言した。

バタチャリヤさんによると、2018年には記録的な件数のの補償請求が基金に寄せられ、今年はすでに昨年を上回るペースだという。

2011年から2016年末までの5年間で受理した請求は約1万9000件だったが、2017年~2018年の請求件数は約2万件に上り、今年に入ってからはすでに7700件のの請求が提出されているとバタチャリヤさんは証言した。

こうした状況では、被害者や家族への支払いは7割も削減される恐れがあるという。

公聴会を開いた下院司法委は12日、VCFを常設化し、追加予算を認めるための法案を可決した。具体的な金額はまだ法案に含まれていない。

法案を提出したマローニー下院議員は、「ほかに選択肢がない。この法案は、『決して忘れない』という約束を、私たちが果たすためのものです。この基金を必要とする全ての人が、いつでも必ず支援を受けられるようにするまで、私たちは闘い続ける」と述べた。

The annual Tribute in Light marking the 17th anniversary of the attack on the World Trade Center is illuminated in lower Manhattan next to One World Trade Center in New York City on September 11, 2018 as seen from the Empty Sky 9/11 Memorial in Jersey City, New Jersey.

画像提供, Gary Hershorn/Getty Images

画像説明, 昨年9月11日に行われた「光の追悼式」