【検証】 ガザ地区の死者はどのように数えられているのか

BBCヴェリファイ(検証チーム)、BBCニュース

Palestinians carry a victim of an Israeli strike in Khan Younis, Gaza, 7 November 2023

画像提供, EPA

あらゆる紛争地帯で、死者数の集計は困難だ。パレスチナ自治区ガザ地区でも、それに違いはない。

戦闘が激化すると、状況は混乱していく。イスラエル軍による爆撃と地上での戦闘が続き、通信は遮断され、燃料は不足し、インフラはぜい弱になった。そうした中で、亡くなった人の数について正確な情報を得るのは、非常に手のかかる作業だ。

パレスチナ当局は、ガザ地区で通信が妨害されているため、最新の情報を得るのが「非常に困難」になっていると話す。

ガザ地区では、イスラム組織ハマスが運営する保健省が死者数の情報源となり、定期的にデータを公表している。それによると、10月7日にハマスがイスラエルを襲撃し現在の戦争が始まって以来、11月26日までに時点で1万4500人以上が殺された。うち少なくとも5500人が子供だという。

イスラエルはこの数字を公然と疑問視している。一方、イスラエル当局はハマスの襲撃による死者を当初1400人としていたが、その後1200人に修正した。

アメリカのジョー・バイデン大統領は、ガザ地区の統計を「信用していない」と発言した。一方で、世界保健機関(WHO)は、この統計を信じない理由はないとしている。

BBCヴェリファイ(検証チーム)は、ガザ地区での犠牲者がどのように数えられているのか、その詳細を検討した。

数について

ガザ地区の保健省はソーシャルメディアで定期的に死者数を報告しており、女性と子供、高齢者の内訳も載せている。死因は記載しないが、死者は「イスラエルの攻撃」の犠牲者だと説明している。

同省はまた、負傷者と行方不明者の人数も公表している。パレスチナ赤新月社は、がれきの下に埋まっている遺体もあると述べている。

保健省によると、死者数は医療従事者が記録したものが保健省に送られてる仕組みで、病院で死亡が確認された人しか集計されていない。爆発で亡くなって遺体が見つかっていない人や、すぐに埋葬された人は数に含まれていないため、統計は実際よりも少ない数になっているかもしれないという。

バイデン政権もこの点を、今月になって強調している。米国務省のバーバラ・リーフ次官補(中近東担当)は11月8日に連邦下院の外交委員会に出席した際、「率直に言って(死者数は)非常に多いと思うし、引用されているよりも多い可能性すらある」と発言した。

これはバイデン大統領自身の発言と対照的だ。バイデン氏は10月25日の時点で、「殺された人数について、パレスチナ人が真実を語っているとは思わない」と述べていた。ただし、自分がこう疑う根拠は明示しなかった。

バイデン氏のこの発言の翌日、ガザ地区の保健省は10月7日から26日までに殺害された人の名簿を公開した。名簿には6000人以上のフルネームと年齢、性別、そして身元の識別番号が記載されていた。

この名簿はどのように作られたのか? BBCはデータの収集や編纂(へんさん)に関わった人々や、名簿の重複を調べた学者に話を聞いた。

また、名簿にある死亡者数と調査した死亡者数を照合している独立調査団体「エアウォーズ」と、パレスチナ自治区における過去の紛争時に死者数を精査してきた国連も取材した。

死者はどのように数えられているのか

People search through buildings, destroyed during Israeli air raids in Khan Yunis, Gaza, 6 November 2023

画像提供, Getty Images

形成外科医のガッサン・アブ=シッターさんは、国際医療NGO「国境なき医師団」の一員として、ガザ市の病院で治療に当たっている。死者数の記録では、こうした人々が重要な役割を担っている。

アブ=シッター医師によると、病院の遺体安置所では、親族による身元確認が終わった死者の数を数えている。

これまでに登録された死者数は、実際に亡くなった人数よりもはるかに少ないと、アブ=シッター医師は考えている。

「ほとんどの犠牲者は、自宅で亡くなっている。そして、我々が身元を確認できない死者は、記録されない」

一方、パレスチナ赤新月社の広報担当者は、発見された遺体は「病院へ搬送し、記録する必要がある」と話した。

BBCはガザ地区保健省の名簿を調査するため、この名簿にある名前と、BBC報道に出てきた犠牲者の名前とを照合した。その中の一人、ミダト・マフムード・サイダム医師は、10月14日の爆撃で殺された。BBCはサイダム医師の元同僚に話を聞いた。

BBCが人工衛星画像を分析したところ、サイダム医師が亡くなった前後に、その居住地域が攻撃を受けていた。また、医師の名前と詳細が書かれた遺体袋の画像が、ソーシャルメディアに投稿されていた。

(上から)ミダト・マフムード・サイダム医師の写真、ガザ地区の保健省が公表した犠牲者名簿にあるサイダム氏の名前、ソーシャルメディアに投稿されたサイダム氏の名前が書かれた遺体袋の写真
画像説明, (上から)ミダト・マフムード・サイダム医師の写真、ガザ地区の保健省が公表した犠牲者名簿にあるサイダム医師の名前、ソーシャルメディアに投稿されたサイダム医師の名前が書かれた遺体袋の写真

調査団体エアウォーズは、同じような確認作業をさらに大規模に行っている。同団体は民間の死者を調査する一環として、保健省名簿にある名前と、爆撃地域を照合している。11月中旬の時点で、エアウォーズは調査した5地域について、名簿から72人の名前を見つけた。この中にはサイダム医師も含まれている。

エアウォーズはまた、サイダム医師の家族23人も亡くなっていること、その全員が保健省の名簿に載っていることも突き止めた。

統計を精査する

BBCはまた、国連と人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)にも話を聞いた。国連もHRWも、ガザ地区保健省による公表データを信じない理由はないとしている。

国連は、この保健省をガザ地区の犠牲者数の情報源としている。

国連は声明で、「保健省のデータを今後も、我々の報告に取り込んでいく。保健省データの由来は明確だ」と説明。「現在、国連による検証を毎日のペースで行うことは、不可能に近い」と述べた。

ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイのマイケル・スパガット教授(経済学)も、ガザ地区の保健省のデータを精査している。スパガット教授は、戦死者を調査している慈善団体「Every Casualty Counts」の会長を務めている。

Girl stands in the rubble in Rafah, Gaza, 31 October 2023

画像提供, Getty Images

同教授によると、保健省の名簿には重複がたった1カ所しかなかった。14歳男子の名前が重複していたという。

一方で、ひとつの事案については、人数の食い違いが依然として激しく議論されている。10月17日にガザ市のアル・アハリ病院で起きた爆発の犠牲者についてだ。

<関連記事>

保健省は当初、500人が亡くなったと発表し、その後471人に修正した。これに対し、アメリカの情報当局が推計した死者数はさらに少なく、「恐らく100~300人の範囲の、少ない方の数」だとした。イスラエル軍はこの件を、ガザ地区の保健省が「民間の死者数を水増しし続けている」という主張の根拠にしている。

BBCはガザ地区の保健省に繰り返し連絡を取っているが、現時点で返答はない。

スパガット教授は、ガザ地区での過去の紛争についても調査しているが、保健省の数字は精査しても特に問題がなかったという。

2014年の紛争で、ガザ地区はイスラエルに爆撃された。保健省発表の死者数と、イスラエル人権団体「B'Tselem」が別途集計した死者数を分析した結果、双方に全般的な一貫性があることを、教授は発見した。

ガザ地区の保健省は、2014年に2310人が殺されたと発表。B'Tselemのデータでは2185人だった。国連は2251人のパレスチナ人が殺され、うち1462人が民間人だったと報告している。イスラエル外務省は、この年の戦争で2125人のパレスチナ人が殺害されたとしている。

この範囲の食い違いは「ごく普通のこと」だと、スパガット教授は言う。病院で亡くなったものの、死因が紛争による暴力とは無関係だったと、後から判明する場合もあるからだ。

パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区のラマラにあるパレスチナ中央統計局のオラ・アワド=シャクシル局長は、ガザ地区から定期的に死者数のデータを受け取っている。

アワド=シャクシル局長によると、イスラエル内務省はガザ地区とヨルダン川西岸地区で生まれた新生児の識別番号を、実質的に管理している。この番号は、ハマスが運営する保健省の死亡者名簿に記載される識別番号と同じものだ。

イスラエルの人口登録局は、ガザ地区とヨルダン川西岸地区の当局が保管するファイルと、内容が一致するファイルを保管している。

BBCはイスラエル国防軍の報道官に、なぜガザ地区での死亡者数を疑問視するのか質問した。これに対し報道官は、この保健省はハマス機関のひとつで、同保健省が提供するいかなる情報も「注意して見る」べきだと答えた。しかし、保健省が公表するデータに一貫性がないとする証拠は提示しなかった。

BBCはまた、イスラエルの首相官邸に対し、10月7日にハマスに殺されたイスラエル人の数をどのように記録したか質問したが、回答はなかった。しかしその後、イスラエルは殺された人数を1400人から1200人に修正した。

イスラエル外務省のリオール・ハイアト報道官は、襲撃直後には多くの遺体の身元が確認できず、現在は「そうした遺体がイスラエルの犠牲者ではなく(中略)テロリストのものだと考えている」ため、死者数を修正したと説明した。

イスラエル政府は、民間人犠牲者の詳細な名簿を公表していない。しかし一部のイスラエル・メディアが、死者の名前や年齢、地域を集計している。

イスラエル警察は、民間人の遺体850人以上の身元を特定したと発表。残りの遺体については専門的な検視技術での確認作業を進めているという。

一方、イスラエル兵の死者については名簿が公表されており、ガザ地区内で戦闘中に死亡した48人がそこに含まれている。