【解説】 ゼレンスキー氏、西側の戦争疲れにどう取り組む
ジェイムズ・ウォーターハウス、BBCウクライナ特派員(キーウ)

画像提供, Getty Images
国同士の関係は親しく、交わした握手はがっちりとしたものだったかもしれない。それでも、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は今回の北米訪問で、アメリカやカナダの両政府を前に、懸命に努力する必要があった。
カナダの方が、相手としては楽だった。ジャスティン・トルドー首相は「必要なだけいつまでも」ウクライナを支えると約束したし、そのために超党派の支持を取り付けている。
対してアメリカは、資金力は豊富だが、その国内政治ははるかに複雑だ。
ゼレンスキー大統領はホワイトハウスから、3億2500万ドル(約481億円)の追加軍事支援を確保した。しかし、望んでいた240億ドルの大規模支援には及ばなかった。その大規模支援の案は、米連邦予算をめぐる連邦議会での対立に巻き込まれて膠着(こうちゃく)している。
大変なのはそれだけだはない。
ワシントンでゼレンスキー氏は、ジョー・バイデン大統領だけでなく、野党・共和党の幹部たちとも会談した。共和党内では、ウクライナ支援継続の意義を疑う懐疑的な声が高まっており、共和党幹部はそれを抑え込むのに苦労している。
「私たちは自由主義世界を守っている。それは共和党にも響くはずだ」。ウクライナ政府の顧問は私にそう言った。「戦争が始まった時の方が大変だった。あの時はカオス状態だったので」。
「今の私たちはもっと個別具体的な要求ができる。協力してくれる国々が何を持っていて、どこに保管しているか承知しているからだ。我々の大統領は複数の国で、国防大臣ができる!」
しかし、ウクライナにとって残念なことに、ゼレンスキー氏は複数の国の国防大臣ではないし、課題は山積しつつある。
「どうしてウクライナにいつまでも、白紙委任でなんでも渡すのか? 勝利とは何を意味するのか?」
この二つの疑問に、ゼレンスキー氏は国際舞台で答えようとしてきた。
だからこそ昨今の彼の取り組みは、以前のように支援を強く求める働きかけではなく、西側の支援が途切れないようにするための交渉に傾いているように見える。
しかも同じ週には、ウクライナ産の穀物をめぐり、最も忠実にウクライナを支えてきたポーランドと仲たがいしたばかりだ。
ロシアの海上封鎖を受けるウクライナは現在、陸路で穀物を輸出せざるを得ないが、ポーランドは安価なウクライナ農産物の輸入を禁止した。これを受けてゼレンスキー氏は間接的に、ポーランドが「ロシアを助けている」と非難したのだった。

ポーランドではこれに大勢が立腹した。アンジェイ・ドゥダ大統領はウクライナを、「こちらを引きずり込んで一緒に沈みかねない、おぼれている人間」にたとえた。
両国の対立は今では、沈静化へ向かっている。
どれほど経験豊かな戦時指導者にとっても、現在の状況は外交的にきびしい。
ポーランド、スロヴァキア、アメリカといった協力国は近く選挙シーズンを迎える。これが、さらに情勢を不透明にしている。ウクライナへの軍事支援をわきに置いて、国内問題を最優先にする候補者もいる。
「軍事支援と、有権者の満足のバランスをとらなくてはならない。このせいで、事態は本当に複雑だ」。ウクライナの外交シンクタンク「プリズム」のセルヒー・ゲラシムチュク氏はこう言う。
「ウクライナは協力国と欧州連合(EU)の状況を考慮しつつ、ありとあらゆる手法を駆使して、いかに自国利益を相手に働きかけるかを算段しなくてはならない」
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、民主主義国家につきもののこうした選挙をめぐる配慮を、気にする必要がない。
だからこそウクライナは、今のこの戦いは自分たちの主権のためというだけでなく、民主主義そのもののための戦いなのだと、そういう文脈で語ろうとしている。
「この戦争の道徳的側面は、とてつもなく大きい」と、上述のウクライナ政府顧問は話す。
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ソヴィエト連邦が崩壊した後、ウクライナ、ロシア、アメリカ、イギリスは1994年、「ブダペスト覚書」に署名した。ウクライナは自国領内に残る核兵器を放棄する、それと引き換えにロシア、アメリカ、イギリスはウクライナの領土的一体性を尊重し、安全を保障する――という内容だった。
しかし、2014年から9年間続くロシアの侵略行為を思えば、当時のこの約束は完全に破綻しているように思える。
ウクライナ政府は目下のことだけでなく、長期的な対外関係を見据えた動きもしている。ロシアの侵攻についてこれといった反応をしてこなかったブラジルや南アフリカといった国々とも、関係改善を目指している。
ただしこの外交戦略が、速やかに成果を出したとは言えない。
「前線での成功次第だというのは、その通りだ」と、ウクライナ政府顧問は言う。
ウクライナの反転攻勢について、各国のマスコミの取り上げ方が過度に単純すぎると、この政府顧問は言う。報道は戦果がきわめて限定的な前線の情勢にばかり注目し、クリミアやロシア軍艦へのミサイル攻撃が相次ぎ成功していることはあまり取り上げないと。
この戦争をめぐる政治は、戦いの進展とますます密接にからみあっている。それだけに、そのことがこれまでにないほど試されている。
追加取材:ハンナ・チョルノス、インサフ・アッバス、アンナ・ツィバ









