アルツハイマー病の新しい治療薬、病状の進行を約30%遅らせると
ジェイムズ・ギャラガー保健・科学担当編集委員

画像提供, Getty Images
私たちは、アルツハイマー型認知症を治療できる時代に入りつつあるのかもしれない。この1年以内で2種類目となる、アルツハイマー病の症状を遅らせる薬が発表された。
専門家らは、最近まで「不可能」と思われていた薬が手に入るようになる「変わり目」に差しかかっていると話す。
米製薬会社イーライリリーはこのほど、アルツハイマー病治療薬「ドナネマブ」が、病気の進行を3分の1ほど遅らせると報告した。
一方で、治験に志願して参加した被験者のうち、少なくとも2人、あるいは3人が、危険な脳浮腫で亡くなっている。
ねばねばした物質
ドナネマブは、先に報告された「レカネマブ」と同じ仕組みで働く。レカネマブは昨年、アルツハイマー病の進行を遅らせることが分かり、世界中で話題となった。
どちらの治療薬も、ウイルスを攻撃するのと同じような抗体でできており、アルツハイマー病の人の脳に蓄積される「アミロイドβ(ベータ)」と呼ばれるねばねばした物質を攻撃する。
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アミロイドは脳細胞の隙間に蓄積され、アルツハイマー病の特徴である「アミロイド斑」を形成する。
「アルツハイマー病の進行を変える治療薬を探そうと、格闘が何十年も続いてきたが、その闘いが変わりつつある」と、イギリスの国立神経学・神経外科病院で認知障害の臨床主任を務めるキャス・ママリー医師は話した。
「私たちは今、疾患修飾(病気の発症や進行を抑制する治療)の時代に入っている。緩和ケアや支援ケアではなく、長期的な病状管理を行うことで、アルツハイマー病患者の治療と生命維持を現実的に望めるかもしれない」
イーライリリーは臨床試験の詳細を全て発表していないが、いくつかの重要事項を報告している。
- 治験にはアルツハイマー病の初期段階にある1734人が参加した
- ドナネマブは月に1回、アミロイド斑がなくなるまで投与された
- 全体では、病気の進行は29%遅延した。研究チームがドナネマブに最も反応すると考えていた患者グループでは、35%の遅延がみられた
- ドナネマブを投与された患者は、最近の出来事について議論する、運転、趣味に興じるといった日常生活を、より多く維持できた
一方で、被験者の最大3分の1に、脳浮腫が共通の副作用として現れた。
多くの場合は、脳スキャンで発見できるものの軽症か無症状にとどまった。しかし1.6%に危険な脳浮腫があらわれ、これが直接の原因で2人が死亡。さらに3人目の被験者が、この症状の後に亡くなっている。
イーライリリーの副会長(神経科学研究調査担当)を務めるマーク・ミントン医師は、「ドナネマブには、他の衰弱性・致死性の病気に対する多くの有効な治療法と同様、深刻で命に関わるかもしれない関連リスクがあるものの、我々はドナネマブが提供できるかもしれない臨床的利益に勇気づけられる」と述べた。
同社は、向こう数カ月で病院での使用に向けた承認手続きを開始するとしている。
英ブリストル大学のリズ・クーサード医師は、「深刻な副作用」があること、長期的なデータが足りていないことなどを指摘した一方で、ドナネマブは「アルツハイマー病の患者が、病気と共により長く、健康に生きる」のを助けられるかもしれないと述べた。
「不可能と思われてきた」
脳内のアミロイドを標的とすることで病気の進行を遅らせる薬が2種類登場したことで、研究者らは数十年にわたる落胆と失敗の末に、正しい道筋を見つけたと確信した。
アミロイドを標的にするというアイデアは30年前に見いだされた。その先駆者の1人、英認知症研究所のジョン・ハーディー教授は、「2種類の薬があるのは、競争上良いことだ」と語った。
イギリス慈善団体「Alzheimer's Research UK」のスーザン・コルハース医師は、「たった10年前には多くの人が不可能だと思っていた、アルツハイマー病に対する治療法の第1世代が登場する、その転換点に差しかかっている」と述べた。
しかし、レカネマブもドナネマブも、脳へのダメージが少ないアルツハイマー病の最初期段階にしか効果がない様子。
もし両方の薬がイギリスで承認されたとしても、実質的な変化が起きるには、アルツハイマー病の早期診断に革命が必要だ。
実際にアルツハイマー病なのか、これらの薬が効かない他の認知症なのか、診断するために必要な脳スキャンもしくは髄液分析を受けている人は、今のところわずか1~2%にとどまっている。
また、レカネマブは1人あたり年間2万1000ポンド(約355万円)以上の費用がかかる。英国民保健サービス(NHS)はいずれ、これを支払う余裕があるかの判断を求められるだろう。








