ウクライナの負傷者リハビリ、そのコストと規模とは?

ジェイムズ・ウォーターハウス、BBCウクライナ特派員(リヴィウ)

Illya Pylypenko
画像説明, イリヤ・ピリペンコさんはウクライナ南部の戦場で、地雷によってけがを負った

イリヤ・ピリペンコさん(30)の戦争が突然終わったのは昨年9月初め、ウクライナが南部ヘルソン地域で長い徹底抗戦を続けていた時だった。

ピリペンコさんが乗っていた戦車が戦闘に出ようとし、地雷の上を走行した。意識を取り戻した時、ピリペンコさんは炎に囲まれていた。

「何をするべきかなんて考えなかった。生きたいから、自然と行動していた」と、ピリペンコさんは話した。

ピリペンコさんは這って脱出し、仲間の助けを得てその場から退避した。それ以来、やけど治療のために手術と皮膚移植を何度か受けた。また、右足のひざから下は、切除が必要だった。

それから6カ月がたち、ピリペンコさんはまだ、自分の人生を一変させたけがについて考えている。

「失望と希望、その両方を抱いている。治療の最も大変な段階は終わった。もうすぐ歩けると、夢見ている」

戦争が始まる前、ピリペンコさんはウクライナ中部ヴィンニツァで不動産エージェントをしていた。ランニング愛好家で、2021年にはフルマラソンを完走し、今後も大会に出る予定だった。昨年2月、ロシアの侵攻が開始した数日後に、軍に志願した。

「自分を過小評価してはいけないけれども、自分を憐れむ必要もない」とピリペンコさんは言う。「自分の人生はまだまだ続く。私は生きていて健康的だ。これで終わりじゃない」。

Illya is one of 11,000 patients who've been treated at the National Rehabilitation Centre here so far
画像説明, ピリペンコさんは、国立リハビリセンターで治療を受ける1万1000人のうちの1人だ
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リヴィウ総合病院は、けがをした兵士や民間人を受け入れ、その身体的・心理的な負傷の治療をしている。こうした病院が、ウクライナ全土に244カ所ある。

院内では、一般市民と軍服姿の男性たちが同じ場所におり、平時ではないことをうかがわせる。

建物の奥に進めば進むほど、いかにこれが平時ではないか、強く迫ってくる。廊下を埋め尽くしているのはほとんどが若い男性で、その大半が腕や脚を失っている。

ウクライナ保健省によると、大砲が攻撃の中心を占めるこの戦争で、最も多いけがは砲弾の爆発によるものだという。

世界保健機関(WHO)は、この戦争が起きる以前にすでに、ウクライナ国民の2人に1人が何らかのリハビリを必要としていると発表していた。ウクライナ東部では、2014年から8年にわたり紛争が続いていたからだ。新型コロナウイルスのパンデミックも、その一因だったという。

そしてロシアの侵攻により、ウクライナ全土でリハビリサービスの需要が劇的に高まった。

この病院にいる男性たちがリハビリ治療を受ける一流のジムは、外国の友好国や国内の支援者からの資金援助でまかなわれている。

Ukrainian men with injuries sit in the corridor of a rehab centre
画像説明, この病院で治療を受けている多くの男性は、腕や脚を失っている
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それでも、ウクライナの医療現場は疲弊している。

病院が民間人や兵士であふれているため、抗生物質への耐性が深刻な問題になっていると、保健当局は話す。

負傷兵の治療が優先されることから、がんの診断やメンタルヘルス(心の健康)部門も影響を受けている。

保健省で理学療法を担当するワシル・ストリルカ氏は、手術の中止やがん治療の遅れで亡くなる患者が増えていると認めた。

ストリルカ氏は、9年にわたるロシアの攻撃により、ウクライナは負傷兵の治療に慣れている一方、治療の質はさまざまだと話した。

「よいリハビリを提供する医師がいる病院もあれば、経験がなく、治療が不十分になる場所もある」

兵士たちは体幹トレーニングを受けながら、どこか遠い目をしており、そのまなざしはいかに過酷な戦闘を経験したのかを物語る。保健当局は、身体症状の治療が優先されるために、国民全体にメンタルヘルスの危機が広がっていると指摘している。

そんな中でも、充実した人生に復帰できると証明する人たちもいる。

Hlib Stryzhko, May 2022
画像説明, BBCが昨年5月に初めて取材した時、フリブ・ストリズコさんはまだ病院のベッドにいた
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首都キーウの凍える朝に、友人とジョギングをするフリブ・ストリズコさん(26)も、次のステップに踏み出した1人だ。

BBCは昨年5月に初めてストリズコさんを取材。当時、ストリズコさんはあごと骨盤を骨折し、病院のベッドに横たわっていた。

ストリズコさんは侵攻開始直後、南東部マリウポリの攻防戦で負傷した。その後、捕虜となったが、なんとか帰還したという。

ストリズコさんは5月の時点では、常に前線に戻りたいと話していた。しかし片目の視力を失い、軍での生活は終わりだと告げられた。

ストリズコさんは現在、退役軍人センターで働き、イベントや講習を運営している。

「私も長い間苦しんできた。残念ながら、私の知る限りでは、私の部隊はもう存在しない。あの部隊の同僚は、殺されるか捕虜になるかしてしまった」

「たとえ隊に戻らなくてもそれは裏切りではないと、そう気づいた」

Hlib Stryzhko
画像説明, ストリズコさんは現在、他の退役軍人のリハビリを助けている
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ストリズコさんは、フラッシュバックだけでなく、罪悪感や孤独感と向き合うのを助けてくれた心理学者に感謝していると言た。

「自分が生き延びた恐ろしい状況を全て、完全に受け入れる必要があった。これは大変だった。一方で、友人からの支援など、素晴らしいこともたくさんこの戦争で経験した。そのことも受け入れられた」

ウクライナ兵の治療のプロセスは、戦闘が続く中で、ますます難しくなっている。

しかしストリズコさんは、何があっても回復できるのだということを示してくれている。

追加取材:ハナ・コーナス、オルシ・ゾボズレイ