【解説】 菅義偉新首相、思いもよらず政権トップに

ルーパート・ウィングフィールド=ヘイズ、BBCニュース(東京

Yoshihide Suga (third from left) celebrates after winning the party leadership

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画像説明, 菅氏(右から2人目)は自民党総裁選に勝利し、首相の座を確実にした

安倍晋三氏は長年にわたって日本の首相を務めたため、世界の人々が彼の顔を覚え、名前の読み方すら知るようになった。では、「菅義偉」の読み方も皆が学ぶべきだろうか? 答えは簡単ではない。

1カ月前、現在の状況を予想した人はほとんどいなかった。そもそも安倍氏が、思い入れのある東京五輪の前に辞めるとは、誰も思わなかった。菅氏が後任になるなどと考えた人は、もっと少なかった。

71歳の菅氏は日本で、安倍氏のフィクサーとして知られる。裏で仕事をきっちり進める存在だ。

先日、自分のことをいい人だと思うかと問われた菅氏は、「仕事をしっかりする人にとっては、とてもいい人だ」と答えた。

菅氏が公に見せる顔は、笑顔がなく魅力的とは言えない政府スポークスマンのそれだ。気に入らない質問には回答を拒否。失言をしないことから、日本の記者たちの間では「鉄壁」と呼ばれている。

そんな菅氏がどうやって突然、首相になったのか。

東京で長年暮らすエコノミストのジェスパー・コル氏によれば、菅氏は自由民主党(自民党)の派閥の領袖たちによって選ばれた。舞台裏で影響力を発揮する彼らが、他にいい選択肢がないと考えたためだという。

「今回の選挙が自民党内の不透明な部屋で実施されたのは明らかだ」とコル氏は言う。「今回の首相選出に一般国民の声は反映されなかった」。

「つまるところ党内の評価は、選挙で勝ってなんぼだ。彼はプレッシャーを感じている。自分が首相にふさわしいことを、自民党と国民に証明しなくてはならない」

Mr Suga was nicknamed "Uncle Reiwa" after unveiling Japan's new era name

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画像説明, 新元号を発表した菅氏は「令和おじさん」と呼ばれる
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菅氏に政治手腕があるのは明らかだ。官房長官を誰よりも長く務めた。タフさ、自律性、複雑な官僚組織への理解度にも定評がある。だが、それらが選挙の勝利につながるのだろうか?

上智大学の中野晃一教授は否定的だ。

「彼はメディアを含めた敵ににらみを利かせ、裏取引で圧倒し、官僚を見事に操る政治手腕があるからこそ権力を握った」と中野氏は言う。

「だがあまり雄弁ではないので、1年以内にある総選挙では、党の顔としては不適格だ」

菅氏が雄弁とは言えないことは、14日の自民党総裁選勝利後の会見でも見て取れた。重々しく、意味ありげに途切らせながら話す中で、こう誓った。

「役所の縦割り、既得権益、先例主義、こうしたものを打倒していきたい」

菅氏を個人的に知っているというコル氏は、菅氏に簡単にダメ出しをすべきではないと話す。

「彼は朝5時に起き、腹筋運動を100回やり、新聞全紙を読む男だ」

「朝6時半にはビジネスマンやアドバイザー、民間のエコノミストらとの会合を始める。スポンジのように吸収し、日本のために仕事をしようと思っている。政府の一員となることに伴う派手さには、まったく興味がない」

Yoshihide Suga

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画像説明, 菅氏は政治家にみられる派手さを嫌うと言われている
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派手さを避ける新首相の性質は、貧しい家の出身ということから来ている。

菅氏は雪深い東北・秋田県の小さな村で、イチゴ農家の長男として生まれた。2016年の人物紹介によると、田舎から出たいと思い続けていたという。

18歳で上京。段ボール工場で働いて学費をため、大学を出た。父が外相、祖父は首相だった安倍氏ら歴代首相の多くとは、経歴の点で大きく異なる。

菅氏の「出自」をめぐる物語はいい話だが、ときに容赦ない自民党内の派閥争いにおいては極めて不利に働く場合があると、中野教授は言う。

「菅氏は貧しい家の生まれゆえに、独自の権力基盤があまりない」

「彼はどの派閥にも所属していない。権力を握ったのは、安倍氏に目をかけられたからだ。党重鎮たちは緊急事態ということで彼を支持した。だがいったん緊急事態が終わり、重鎮たちが望み通りに行かないと感じ出すと、きっと権力闘争が起こるはずだ」

傍らでは、後継を狙う人脈豊富な若い世代が、菅氏がミスを犯すのを待っている、誤った方向に行きかねないことも多い。安倍氏の支持率は辞任表明前には30%に下落していたが、新型コロナウイルス対策への不満が大きかった。

Former premier Shinzo Abe

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画像説明, 安倍氏は16日に首相官邸を去った
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安倍氏の最大の実績は、日本の政治に長期的な安定をもたらしたことだった。彼が2012年に首相になる前の30年間で、19人が首相になった。その状況は「回転ドア」と呼ばれたが、またそのころの派閥争いと短命政権の時代に戻るのではないかと心配する声も出ている。

「長期政権の後に短命政権が続くケースのように思える」と、日本に詳しいハワイ大学のクリスティ・ゴヴェラ氏は話す。

「日本が短命政権の時代に入る可能性が高い。(首相交代が)10カ月ごとなのか2年ごとなのかは不明だ。毎年違う人にならないほうが、日本にとっては間違いなく利益がある」

こうした言葉は、菅首相にとって心強いものではない。彼は自らの能力を示す必要があるが、そうする時間はあまりないかもしれない。