【解説】 トランプ氏のアジア歴訪、関係国にはどんな得失が……BBC特派員が分析

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アメリカのドナルド・トランプ大統領がアジアを歴訪している。26日にマレーシアに到着し、27日以降、日本と韓国を訪れる。貿易が最優先の課題となるなか、高市早苗首相や中国の習近平国家主席との首脳会談も予定されている。トランプ氏と他の首脳らは、どんなことを期待しているのか。一方、落とし穴としてどんなことが考えられるのか。各地の特派員が解説する。
日本の新首相に早々の試練
シャイマ・ハリル日本特派員
トランプ氏は、日本で新たに首相となった高市氏を、「強さと知恵」にあふれた女性だと評している。
その高市氏が今週、トランプ氏との間で、安定して仕事を進める関係を築けるかどうかが、高市氏のリーダーシップと、変化する世界秩序の中での日本の位置づけにとって、早期の試金石となるだろう。
高市氏は国会での最初の演説で、防衛費の引き上げを約束。安全保障関連の負担を、アメリカとの間でこれまで以上に引き受ける意向を示した。
トランプ氏は以前、この点について発言している。今回も日本に対し、米軍の配備にもっと貢献するよう圧力をかけるとみられる。日本には米軍の国外駐留としては最多の約5万3000人が駐留している。

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両国はまた、石破茂前政権が交渉を進めた関税合意を最終的にまとめたい考えだ。
この合意では、日本車に対するアメリカの輸入関税を27.5%から15%に引き下げる。自動車大手のトヨタ、ホンダ、日産にとっては特にメリットが大きく、中国のライバルに対する競争力が高まる可能性がある。
高市氏は、赤沢亮正経済産業相を引き続き、アメリカとの貿易交渉のトップに据えており、継続性を重視している。
日本は関税引き下げの見返りとして、アメリカの医薬品や半導体の分野でのサプライチェーンの強化のために、同国に5500億ドルを投資する約束をしている。
トランプ氏はまた、日本がコメを含むアメリカの農産物の購入を増やすとしている。アメリカにとっては喜ばしい話だが、日本の農家は不安を感じている。
高市氏は、トランプが親密な関係を築いた故・安倍晋三元首相と近かったが、そのことが有利に働く可能性もある。
安倍氏がトランプ氏の信頼を得ようと、トランプ氏の私邸マール・ア・ラーゴで一緒にゴルフをしたのは有名な話だ。高市氏もこうした個人外交をまねるかもしれない。
トランプ氏にとって鍵は中国
アンソニー・ザーカー北米特派員
トランプ氏のアジア歴訪の主な狙いが、米財務省に関税収入が流れ込む仕組みを維持したまま、米企業に機会を提供する新たな貿易合意を結ぶことなのは間違いない。
世界規模の貿易ではいくつものプレーヤーが相手になるが、トランプ氏にとって成否の鍵を握るのは中国だ。トランプ氏は今回、アジア太平洋経済協力会議(APEC)に参加する傍らで、中国の習近平国家主席と2019年以来の会談を予定している。この会談は、トランプ政権2期目の残りにおける、米中関係の方向性を決め得るものだ。
トランプ氏が認めているとおり、中国からの輸入品に強硬に関税をかけ続けることは不可能だ。同氏は明言していないが、アメリカと、その最大の貿易相手国である中国との経済戦争が激化すれば、両国にとって、そして世界にとっても、壊滅的な結果となる。
中国とアメリカの関係が行き詰まるたびに米主要株価指数が急落するのは、この現実の裏付けだ。
トランプ氏は、韓国との合意をまとめ、日本で米製造業への新たな投資を確保できれば、いい気分で帰国できるに違いない。
だが、トランプ氏の最優先課題が、習氏を説得して、中国による米農産物の購入を再開させ、中国にレアアースへのアクセスに関する最近の制限を緩めさせ、米企業の中国市場へのアクセスを拡大し、本格的な貿易戦争を回避することなのは疑いない。
トランプ氏にとっては、それがすべてだ。
習氏の長期戦
ローラ・ビッカー中国特派員
習氏は、30日に韓国で予定されているトランプ氏との会談で、よりタフな交渉相手になることを目指している。
そのために、レアアースに関する中国の制限を習氏は利用している。レアアースなしでは、半導体、兵器システム、自動車、そしてスマートフォンさえ作れない。ここがアメリカの弱みであり、中国はそこにつけ込んでいる。中国はアメリカの大豆を買わないことで、アメリカの農家と農村部でトランプ氏の票田を形成している人々を苦しめているが、それと似ている。
習氏は、「トランプ1.0」で教訓を得ており、今回は関税の痛みを受け入れるようだ。理由の一つには、かつてアメリカは中国の輸出先の5分の1を占めていたが、もはやそれほど重要な市場でなくなっていることが挙げられる。

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それでも習氏は、アメリカとの経済的な闘いと、内政の課題との闘いの間で、うまくバランスを取らなくてはならない。一方のアメリカは、何が習氏にとって難題なのか理解している。若者の失業率の高さ、不動産危機、地方政府の債務の増加、消費に消極的な国民だ。
アナリストらは、トランプ氏が最先端人工知能(AI)向けの半導体の輸出開始か、台湾への軍事支援の後退に同意すれば、中国は合意へと動くかもしれないとみている。
しかし、そこにたどり着くのは容易ではない。両者の大きな違いの一つには、トランプ氏がしばしばさいころを振ってギャンブルをしているようにみえる一方で、習氏はもっと長いゲームをしていることがある。
つまり問題は、「トランプ氏はじっと待てるのか」なのかもしれない。
「和平」での主役
ジョナサン・ヘッド東南アジア特派員
トランプ氏のマレーシア滞在中の関心は、ただ1点と思われた。タイとカンボジアが和平協定らしきものに調印した式典で、彼のために特別に用意された主役を演じることだ。
国境をめぐる両国の見解の違いは解決されないままだが、何かを打ち出せという圧力を受けて、両国は国境の非武装化への合意で前進した。
どちらの国も、トランプ氏を失望させるわけにはいかなかった。まだ双方が爆撃や砲撃を行っていた7月、トランプ氏から関税交渉のを打ち切ると脅された両国は、即時停戦で合意したのだった。
東南アジア諸国連合(ASEAN)の他の加盟国は、トランプ氏がわずかな時間とはいえ東南アジアにいることで、アメリカとの関係が正常化することを望んだだろう。
ASEAN各国は経済を輸出に依存しており、この1年はトランプ氏の関税戦争で大きく揺れた。東南アジアの対米輸出は、トランプ氏が最後にASEAN首脳会議に参加した2017年以降、倍増している。
トランプ氏が去れば、首脳らは通常の仕事――首脳間で少しずつ融合を進める、静かで漸進的な外交――に戻ることができる。
議題には、トランプ氏が注目していない紛争も含まれる。ミャンマーの内戦だ。この内戦は、2021年の残忍なクーデターによって引き起こされて以降、ASEANのすべての会合に影を落とし続けている。
どうか文書に
スランジャナ・テワリ・アジアビジネス担当編集委員
世界の生産量の多くを占める、アジアの製造業が盛んな国々は、トランプ氏の関税措置から一息つけることを望んでいる。
合意に達した国があれば、まだ交渉に行き詰まっている国もある。ただ、協定に署名した国はない。
それゆえ、文書化すること、もしくは、少なくとも期待のもてる話になることが、各国で望まれている。

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例えば中国だ。トランプ氏と習氏が会談するのは進展の兆しといえる。だが、両首脳が解決を目指すべきことは、関税と輸出規制、そしてすべての根源となっている、AIと先端技術における優位性を争っている世界2大経済国による対立に至るまで、たくさんある。
こうした緊張が緩和されれば、それに巻き込まれているアジア各国に安堵(あんど)感がもたらされるだろう。例えば、東南アジアは最も身動きが取れない状態にある。アメリカのエレクトロニクス分野のサプライチェーンに深く組み込まれている一方で、中国の需要に大きく依存しているからだ。
対米輸出は過去10年間で倍増している。だが10~40%という関税は、ヴェトナム、インドネシア、シンガポール、タイの製造業者に打撃を与えている。
また、マレーシアに工場を持つマイクロン・テクノロジーのような米半導体メーカーに、マイナスの影響を及ぼす可能性もある。マレーシアは昨年、約100億ドル相当の半導体をアメリカに輸出した。これは、アメリカの半導体の輸入総額の約5分の1に当たる。
日本や韓国といった裕福な経済国は、異なるジレンマに直面している。
こうした国々はアメリカの緊密な同盟国でありながら、予断を許さない状況に置かれ続いている。そして、関税や投資に関し、取り決めを確定させたいと思っている。アメリカを重要な市場とする両国の自動車メーカーは、混乱を乗り切ろうと苦労している。
金正恩氏の気配を感じながら関税を語る
ジェイク・クォン・ソウル特派員
韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領にとって、喫緊の課題は「トランプ関税」だ。
しかし、トランプ氏が北朝鮮指導者の金正恩(キム・ジョンウン)総書記に会うために国境地帯を訪れるかもしれないとの憶測が飛び交うと、大方の関心は一時そっちに移った。
李氏は8月に訪米した際、米大統領執務室での時間のほとんどを使い、トランプ氏を「ピースメーカー(平和を作る人)」と持ち上げた。これに対しトランプ氏は、2019年以来会っていない金氏との会談に熱意を示した。その金氏は先月、トランプ氏のことを「好意的に」覚えていると述べている。
アナリストらは、金氏がトランプ氏と再び会談し、自分の核兵器開発計画の正当性を認めさせることを望んでいるとみている。ただ、首脳会談の計画が進んでいることを示すものは何もない。
いずれにせよ、李氏は貿易交渉に臨む。韓国の輸出品に対するアメリカの関税を25%から15%に引き下げる交渉は、韓国高官がたびたび訪米しているものの、停滞している。トランプ氏が韓国に、3500億ドル規模の対米投資を先行させるよう求めていることが、障害になっている。韓国は、自国の経済の約5分の1に相当する巨額投資は、財政危機を引き起こしかねないと恐れている。
しかし、韓国政府関係者らはここ数日、具体的な進展について希望をもっていると話している。そして、29日のトランプ氏と李氏の首脳会談が終わるまでに、協定に署名できることを望んでいる。









