米アカデミー賞、「アノーラ」が5部門受賞 ベイカー監督は一人4冠

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米アカデミー賞の授賞式が2日夜、ロサンゼルスで行われ、「ANORA アノーラ」が作品賞を含む5部門で受賞した。
ニューヨークのストリッパーが裕福なロシア人政治家の息子と恋に落ちるという波乱万丈のこの作品は、6部門にノミネートされていた。
このうち作品賞、監督賞、脚本賞、編集賞で、ショーン・ベイカー監督が4冠を達成。個人として初めて、1作品で4部門のアカデミー賞を受賞した人物となった。
さらに、新進俳優のマイキー・マディソン氏が、デミ・ムーア氏との競争を制して主演女優賞を獲得。スピーチで「夢がかなった」と語った。
マディソン氏は、「とてもあり得ない感じのことです。私はロサンゼルスで育ったけれども、ハリウッドはいつも自分からは遠いと感じていた。今日この部屋に立っていることが、本当に信じられない」と述べた。
さらに、「私は性労働者のコミュニテーィを称え、評価したい。これからも支援し、味方であり続けます(中略)このコミュニティーの女性たちと出会えたことは、この素晴らしい経験全体のハイライトの一つでした」と付け加えた。

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映画館を守ってほしいと呼びかけ
監督賞のトロフィーは、クエンティン・タランティーノ監督が授与した。タランティーノ氏は以前、マディソン氏を自分の映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」の端役に起用していた。
ベイカー監督はオスカー像を受け取りながら、「もしタランティーノさんがマイキー・マディソンをキャスティングしていなかったら、アノーラはあり得なかった」と話した。

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ベイカー監督は監督賞の受賞スピーチで選考委員に対し、「真の独立系映画を認めてくれたこと」に感謝したほか、映画館を擁護した。
「私たちが映画に恋をしたのはどこだ? 映画館だ」とベイカー監督は語った。「観客と一緒に映画館で映画を見ることは一つの体験だ」。
「そして、世界がとても分断されていると感じる時代において、これはこれまで以上に重要だ。これは家では得られない共同体験だ」
「現在、映画館での体験は脅威にさらされている。独立系の映画館は苦境に立たされている。私たちがそれを支援する責任がある」
監督はスピーチの締めくくりに、「これが私の戦いの叫びだ。映画製作者の皆さんには、大画面のために映画を作り続けてほしい。私もそうする。配給会社の皆さん、私の映画の劇場公開を最優先にしてほしい」と呼びかけた。
一度のアカデミー賞で前回、一人が4部門で受賞したのはウォルト・ディズニー氏だった。ディズニー氏は1953年に別々の映画4作品で、計四つのトロフィーを持ち帰った。
受賞後の取材でベイカー監督は、性産業は「最も古い職業」だが、「非常に不当な汚名」を着せられていると述べた。
また、性産業の非犯罪化を望んでいると述べ、自分の活動がその実現に向けて何らかの貢献ができることを期待していると付け加えた。

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主演男優賞は、「ブルータリスト」のエイドリアン・ブロディ氏が獲得。第2次世界大戦後に新しい生活を築くためにアメリカに移住したハンガリー系ユダヤ人建築家を演じた。
ブロディ氏がアカデミー賞にノミネートされたのは、2003年に「戦場のピアニスト」、最年少の主演男優賞を受賞して以来となる。
ブロディ氏は「演技は非常に繊細な職業だ。とても華やかに見えるし、実際にそういう瞬間もあるが、ここに戻ってくる特権を得たことで私が得たのは、物事の大局を見渡す視点だ」と述べた。
「キャリアのどういう段階にいようと、それまでに何を達成したとしても、すべて消え去る可能性がある。そして、この夜を特別なものにしているのは、その認識と、愛する仕事を続けられることへの感謝だ」
ブロディ氏は5分でいったんスピーチをさえぎられたものの、そのまま続け、「私は再びここに立ち、戦争の残るトラウマと影響、体系的な抑圧、反ユダヤ主義、人種差別を代表している」と語った。
「そして、より健康で、幸せで、包括的な世界を祈っている。過去が私たちに教えてくれることがあるとすれば、それは憎しみを放置しないことの重要性だ」
「ブルータリスト」は10部門にノミネートされていたが、撮影賞と作曲賞を含む3冠にとどまった。

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「リアル・ペイン 心の旅」で助演男優賞を受賞したキーラン・カルキン氏はスピーチで、「どうやってここに来たのか全くわからない。私はずっと演技をしてきた。それが私の一部だ」と述べた。
「リアル・ペイン 心の旅」は、祖母をしのんでポーランドを旅する二人のいとこを描いた作品。
カルキン氏は、同作品で脚本家兼監督を務めたジェシー・アイゼンバーグ氏に感謝し、「この映画をありがとう。あなたは天才だ。面と向かっては絶対に言わないし、もう二度と言わないので、今のうちに堪能してほしい」と笑いを誘った。
メキシコの麻薬王が性転換するスペイン語ミュージカル「エミリア・ペレス」は、今回最多の13部門にノミネートされていたが、2部門の受賞だった。
助演女優賞をゾーイ・サルダナ氏が獲得したほか、サルダナ氏が作中で歌った「El Mal」が歌曲賞を受賞した。
サルダナ氏は、「この栄誉に圧倒されている。リタのような女性の静かな英雄性と力を認めてくれたアカデミーに感謝している」と述べた。
さらに、「私の祖母は1961年にこの国に来た。私は移民の親を持つ誇り高き子供であり、ドミニカ共和国出身のアメリカ人として初めてアカデミー賞を受賞したが、私が最後ではないと確信している」と付け加えた。
期待作は多くの部門で受賞ならず
同名のミュージカル作品を映画化した「ウィキッド ふたりの魔女」も、10部門にノミネートされていたが、美術賞と衣装デザイン賞の2部門での受賞に終わった。
衣装デザイン賞に選ばれたポール・タズウェル氏は、同賞を受賞した初の黒人男性となった。
受賞スピーチでタズウェル氏は「この賞を非常に誇りに思う。『ウィキッド』を撮影したイギリスの皆さん、素晴らしい仕事をしてくれてありがとう。皆さんなしでは成し遂げられなかった」と感謝の意を表した。
同じく大きな興行収入を記録した「デューン 砂の惑星 PART2」は、音響賞と視覚効果賞の2部門を受賞した。
8部門にノミネートされていた、キリスト教カトリック教会の内情を描いた「教皇選挙」は、脚色賞のみの受賞だった。
脚本家のピーター・ストローン氏は、原作小説の作者に敬意を表し、「ロバート・ハリスさん、美しい本をありがとう。私たちは皆、あなたの肩の上に立っている」と述べた。
米歌手ボブ・ディランさんを描いた「名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN」はやはり8部門にノミネートされていたものの、どの部門でも受賞ならずだった。
イスラエル人とパレスチナ人の共作が受賞

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長編ドキュメンタリー賞は、中東で続く紛争についてパレスチナとイスラエルの映画製作者が共同制作した「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」に贈られた。
パレスチナ人ジャーナリストで活動家のバセル・アドラ氏は、アカデミーに感謝し、2カ月前に父親になったことを明かした。
「娘には、私が今経験しているような生活を送らないでほしい。コミュニティーが直面している、常に暴力や家屋の取り壊し、移住の恐怖に怯えることがないように」と、アドラ氏は話した。
また、この映画が「私たちが何十年も耐えてきた厳しい現実」を反映していると述べた。
イスラエル人ジャーナリストのユヴァル・アブラハム氏は、自分たちがこの映画を作ったのは「一緒にいることで私たちの声がより強くなるからだ」と語った。
また、「私は法律の下で自由だが、(アドラ氏は)そうではない」と述べ、アメリカの外交政策が「政治的解決への道を阻んでいる」と指摘した。
「なぜ私たちの存在が絡み合っていることが見えないのか(中略)生きるためには別の道がある、他に方法はない」とも、アブラハム氏は強調した。
同部門には、自身が受けた性暴力被害について正義を追求する伊藤詩織監督の「ブラック・ボックス・ダイアリーズ」がノミネートされていた。
短編ドキュメンタリー賞は「ザ・レディ・イン・オーケストラ NYフィルを変えた風」が受賞。同部門には、日本から山崎エマ監督の「小学校~それは小さな社会~」がノミネートされていた。
長編アニメーション賞は、洪水の後、生き残るために協力し合わなくてはならない動物たちを描いた「Flow」が獲得した。
短編アニメーション賞は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しむ年老いた元船長とその娘の暮らしを描いた「イトスギの影の中で」が受賞した。
イラン人監督のシリン・ソハニ氏とホセイン・モラエミ氏は、アメリカへのビザ(査証)取得が難航したため、ロサンゼルスに到着してからわずか3時間後に賞を受け取った。そのため、公衆トイレで正装に着替えなくてはならなかったという。
同部門には、東映アニメーション制作の「あめだま」がノミネートされていた。
国際映画賞は、議員を務める夫の失踪を調査するブラジル人女性の実話を描いた「アイム・スティル・ヒア」が受賞。このほか、短編実写映画賞は「私は人間」が、メイクアップ&ヘアスタイリング賞には、「サブスタンス」が獲得した。
「ウィキッド」や「007」の歌曲を披露

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受賞式は、シンシア・エリヴォ氏とアリアナ・グランデ氏による共演作「ウィキッド ふたりの魔女」のメドレーで幕を開けた。
また、ジェームズ・ボンドの映画「007」のトリビュートとして英歌手レイ氏、女性KPOPグループブラックピンクのリサ氏、米歌手ドージャ・キャット氏、米俳優マーガレット・クアリー氏が、パフォーマンスを行った。
俳優モーガン・フリーマン氏は、先週亡くなった米俳優ジーン・ハックマン氏への追悼を述べた。
フリーマン氏はハックマン氏を「親友」と呼び、「彼と共演したすべての人と同じように自分も、彼が寛大な演技者で、その才能が全員の仕事を高める人なのだと学んだ」とたたえた。
今年のアカデミー賞は、ロサンゼルスを壊滅させた山火事から2カ月後に開催された。式典では、ロサンゼルスの映像を含む映画クリップのモンタージュで始まり、「We love LA」というスローガンで締めくくられた。
式の後半では、ロサンゼルスの消防士らがその功績を称えてステージに招かれ、観客からスタンディングオベーションを受けた。








