【解説】米保守MAGA勢力、なぜ故エプスティーン元被告の資料を極めて重視するのか

大勢が集まる暗いパーティー会場で、25年前のトランプ氏とメラニア氏、故エプスティーン元被告とマクスウェル受刑者が並んでカメラに笑顔を向けている

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画像説明, (左から)2000年2月に一緒に撮影されたトランプ氏、この5年後に結婚したメラニア現大統領夫人、故エプスティーン元被告、マクスウェル受刑者

今年2月に米首都ワシントンの司法省を訪れた米右派活動家ジャック・ポソビエック氏は、故ジェフリー・エプスティーン元被告について、いよいよ何かしら回答が得られると考えていた。

しかし、ポソビエック氏らMAGA(アメリカを再び偉大に、の頭文字)運動の支持者に提示されたのは、公表済み情報の焼き直しに過ぎなかった。そしてトランプ政権は7月になっても、新情報の公開に消極的だった。そこでMAGA支持者たちは、一斉に反発した。

「もっと情報が出てくると、みんな言われていた。答えはあるので、提供すると。このエプスティーンの件の扱いは、あまりにお粗末で、信じられないほどだ。もっと違うやり方があったはずなのに」と、ポソビエック氏は7月7日にソーシャルメディアに投稿した。

そしてドナルド・トランプ大統領は今や、自分の支持基盤がその勢いの燃料にしてきた陰謀論から距離を取るのに苦労している。トランプ氏が10年前に共和党政治に飛び込んだ当初から、その支持基盤はさまざまな陰謀論を熱心に推進してきた。

ポソビエック氏は2016年、首都ワシントンのレストランを根城にした小児性愛者の秘密のネットワークがあるという虚偽を広めた。「ピザゲート」と呼ばれるこの陰謀論を広めたことで、ポソビエック氏はそれまでいたインターネットの片隅から抜け出して、脚光を浴びるようになった。そして、故エプスティーン元被告の人生と、その急死について当局は重要な事実を隠していると信じている。ポソビエック氏だけでなく、MAGA支持者の大勢が、そう信じているのだ。

2024年6月に保守派草の根運動の大会で登壇したポソビエック氏。壇上でこぶしを突き上げて叫んでいる

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画像説明, MAGA勢力の主張を声高に広めるポソビエック氏には、何百万人ものフォロワーがいる

性犯罪者として有罪判決を受けた元金融業者エプスティーン元被告は2019年、性的人身売買の罪で勾留中、ニューヨークの拘置所で自殺した。

保守派メディア「ブライトバート・ニュース」のアレックス・マーロウ編集者が司会する最近のポッドキャストで、ポソビエック氏は、MAGA支持層にとってこの件が何を意味するか説明した。同氏に言わせると、エプスティーン事件にまつわるあれこれは、MAGA層がいわゆる「ディープ・ステート」と呼ぶ、世界で暗躍する影の支配層が、いかに腐敗しきっているかを象徴しているのだという。

「(MAGAの)彼らは、特にエプスティーン個人のことを気にしているわけじゃない」と、ポソビエック氏は言った。「エプスティーンが政府や制度、我々の生活を支配する影の体制と関わっていたように見える、そのことをみんなは気にしている。その怪しい仕組みが実際、我々を支配する真の権力なので」。

MAGA支持層の一部は長年にわたり、エプスティーン元被告に関するおぞましくわいせつな詳細が書かれた資料を政府関係者が保有している、資料の中には著名人の名前が連なる「顧客リスト」がある、リストに連なる著名人たちは元被告が疑われた犯罪に参加したかもしれない――などと主張してきた。

トランプ氏はかつて、自分の支持者のそうした主張に迎合していた。昨年の大統領選では、エプスティーン元被告関連のファイル公開は「まったく問題ない」と言い、選挙後には「機密指定を解除するか」と尋ねられると、「ああ、そうするよ」と答えていた。

陰謀論的な考え方は、トランプ氏の政治活動の当初から、運動の一部として存在していた。トランプ氏が10年前に共和党から大統領を目指すと宣言した当時、党内に有力者は大勢いた。その中でトランプ氏は、当時のバラク・オバマ大統領はアメリカ生まれではないという虚偽の主張をしきりに拡散した。

しかし今では、その陰謀論の世界が跳ね返って、トランプ氏自身にかみついている。

エプスティーン元被告による犯罪は恐ろしく、そして現実のものだ。新情報が今後、明らかになる可能性も残されている。

しかしこの事件は、ピザゲート、さらには「Qアノン」といった、より大きな物語に取り込まれていった。「Qアノン」とは、トランプ氏の大統領1期目にインターネット上で拡散した巨大な陰謀論で、社会の上層部が児童虐待を行うエリート集団に支配されているという内容のものだった。この陰謀論は、「Q」と名乗る匿名の人物が投稿した暗号めいたメッセージを通じて広まった。

動画説明, 陰謀論を広める「Qアノン」とは何か? 止める方法は?(2020年10月作成動画)

この「Q」が、エプスティーン元被告について何度か暗号めいた投稿をしていたのだという。

「The Storm Is Upon Us: How QAnon Became a Movement, Cult and Conspiracy of Everything(嵐は来た:Qアノンはいかにして運動、カルト、そして全てについての陰謀になったか)」など、トランプ時代の陰謀論に関する著作のあるマイク・ロスチャイルド氏は、2017年後半から「Q」による複数の投稿にエプスティーン元被告が登場していたのだと話す。

「何世紀にもわたり児童を売買してきた『小児性愛エリート』というものが、世界には存在しているという発想で、エプスティーンはその主要人物の一人と見なされている。そしてQとトランプが、そのエリート層の暗躍をついに一気に終わらせるはずだったのだ」と、ロスチャイルド氏はBBCに説明した。

しかし、司法省で今年2月に開かれた会合以降、連邦捜査局(FBI)のカシュ・パテル長官やダン・ボンジーノ副長官など、エプスティーン元被告に関するうわさを長年あおってきた政権関係者たちが、新事実の大々的な公表について期待値を下げるかのように慎重な発言を始めた。

そして7月7日、司法省とFBIはメモの中で、エプスティーン元被告の死因は自殺で、「顧客リスト」の存在を示す証拠はないと発表した

大統領はこの件について「卑猥(ひわい)だが退屈だ」と述べ、問題がいつまでも蒸し返されるのは民主党のせいだと非難した。

トランプ支持者の多くは、大統領の意向に沿って、この問題から距離を置いている。しかし、ネット上で活動する一部の熱心なMAGA支持者たちは、今もなおエプスティーン事件に強い関心を持ち続けている。

元FOXニュース司会者のタッカー・カールソン氏を含め、MAGA支持者に影響力を持つ複数の人物は、エプスティーン元被告がイスラエルの治安機関に雇われていたと主張する。また、MAGA運動の過激勢力の間では、エプスティーン元被告を巡る陰謀論が、反ユダヤ主義的な方向へと流れることもある。

しかし、前出のロスチャイルド氏によると、MAGA界隈の大勢は、エプスティーン元被告がビル・クリントン元大統領や他の民主党関係者と、そしてトランプ氏の政敵たちと、どう関係していたのか、知りたがっているだけなのだという。そのような情報が存在するのかも不明だが、もし情報が存在するならば、それを知りたいのだと。エプスティーン元被告は、アメリカ二大政党のどちらの有力者とも、関係を築いていたからだ。

MAGA関係者はもう長年、エプスティーン元被告に執着してきた。執着の歴史が長い分だけ、トランプ氏は今、陰謀論を好む支持層をなかなか満足させられずにいる。

事態はその後、さらに展開した。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが17日、トランプ氏が2003年にエプスティーン元被告に「下品な」誕生日メッセージを送ったと報じたのだ。両者がかつて親しい関係にあったことは広く知られているが、トランプ氏はとっくの昔に縁を切ったと主張しており、この報道を受けてウォール・ストリート・ジャーナルの親会社とそのオーナー、記者2人を相手取り訴訟を起こした

一方で、トランプ氏は陰謀論者たちに積極的に迎合する姿勢も見せている。自分のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」では、「ジェフリー・エプスティーンに関する異常なほどの報道を受けて、私はパム・ボンディ司法長官に対し、裁判所の承認を前提に、大陪審の証言をすべて提出するよう求めた」と投稿したのだ。

さまざまな陰謀論に、大統領支持層の一部を動かす力があるのは疑いようがない。2021年1月の米連邦議会議事堂襲撃事件では、Qアノン支持者が目立っていた

米シンクタンク「公共宗教研究所(PRRI)」が昨年11月の選挙直前に行った調査では、アメリカ人の約2割がQアノン関連の主張に同意していると報告した。中でも特に注目されたのは、「アメリカの政府、メディア、金融界は、悪魔を崇拝する小児性愛者の集団によって支配されており、彼らは世界的な児童性的人身売買組織を動かしている」という主張だった。

この世界観を裏付けるのがエプスティーン事件だと、大勢が考えている。PRRIによると、Qアノン支持者の大多数はトランプ支持者で、その割合は80%に達している。

そしてその支持は、影響力にもつながっている。ピザゲートやエプスティーン元被告について陰謀論を唱えるポソビエック氏は、2月の司法省会合に出席したほか、最近ではピート・ヘグセス国防長官と一緒にヨーロッパを訪問したと報じられている。

ポソビエック氏がネオナチと面会した際の写真も撮られているが、本人は、自分は白人至上主義者ではないと主張している。同氏はBBCの取材には応じなかった。

そしてポソビエック氏は、エプスティーン事件はさらに広い陰謀論の世界と結びついているのだと主張する。

「これはコロナにも、ロックダウンにも、ワクチンにもつながっている」と、最近収録されたポッドキャストでポソビエック氏は主張した。アレックス・マーロウ氏主催のこのポッドキャストは、保守派の会合の場で収録されたもので、その会議では複数の登壇者がエプスティーン元被告に言及し、いっそうの情報公開を求めた。

「大勢がたくさんのことについて激しく怒っていて、この問題はそれに結びついている」のだとポソビエック氏は主張した。

かつてトランプ氏を長年支持したリッチ・ロジス氏は、MAGAを離れる運動「MAGA離脱」を立ち上げた。そのロジス氏によると、こうした荒唐無稽な理論が「MAGAコミュニティー内の大勢を結びつける絆」として機能しているのだという。たとえそれを疑っている人でも、その話題を通じて結びつくのだと。

ロジス氏によると、トランプ大統領がこのほどエプスティーン事件に関する支持者の懸念を一蹴したことで、一部の支持者は「困惑し、衝撃を受けている」という。

「トランプが約束を守り、誰がエプスティーンを応援していたのか明るみに出すはずだと、大勢が期待していた」とロジス氏は話した。

エプスティーン事件がトランプ氏にとって政治的な泥沼なら、支持者たちにも、特に発言力の大きいインフルエンサーたちにも、自分たちの怒りの矛先をどこに向ければいいのかという問題がある。インフルエンサーが大統領を標的にすれば、インフルエンサー自身が自分の支持者に反発されかねない。

「主なインフルエンサーの多くは激怒している」とロスチャイルド氏は言う。「彼らはトランプに怒りをぶつけたりはしないかもしれない。それでも、共和党全般に怒りを向ける可能性はある」。

トランプは今のところ、ボンディ司法長官を支持している。しかし、ボンディ、パテル、ボンジーノ各氏は、MAGAの陰謀論者たちがエプスティーン資料をさらに出すよう求め続ける限り、ますます圧力を感じるかもしれない。MAGAが求める資料が、実在するのかしないのかは別にして。