ハマス、米系イスラエル人の人質解放すると発表 トランプ氏の中東訪問を前に

白い帽子と白いシャツ姿の女性が、男性の写真が大きく印刷されたポスターを掲げている

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画像説明, 解放されると発表されたエダン・アレクサンダー氏の写真を掲げる同氏の祖母

ラシュディ・アブ・アルーフ・ガザ特派員、ヒューゴ・バシェーガ中東特派員

パレスチナ・ガザ地区のイスラム組織ハマスは11日、停戦に向けた取り組みの一環として、人質1人の解放を決定したと発表した。

解放されるのは、イスラエル系アメリカ人のイダン・アレクサンダー氏(21)。アレクサンダー氏は、ガザに残るアメリカ国籍の人質の中で、唯一の生存者とみられている。

アレクサンダー氏の解放は、ドナルド・トランプ米大統領の中東訪問を前に発表された。交渉に詳しいパレスチナ自治政府の高官によると、この動きは、トランプ氏の中東訪問を前にした善意の表明だとみられている。

この高官はBBCに対し、アレクサンダー氏の解放手続きの最終調整に向け、12日早朝にも、ハマスと仲介者との会合が予定されていると話した。身柄の引き渡しには、イスラエル軍の一時的な軍事活動停止と空爆の中断が必要とされている。

ハマスは今回の決定について、人道支援物資の搬入に向けた合意促進の目的もあるとしている。ガザ地区では、イスラエルによる封鎖が70日間続いている。

発表に先立ち、ハマス幹部はBBCの取材に対し、カタールでアメリカ政府高官と直接交渉していると明かしていた。

イスラエル首相府も、アレクサンダー氏の解放に関するハマスの意向についてアメリカ政府から知らされたと明らかにした。

トランプ大統領は、自分のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」でアレクサンダー氏の解放を追認。「画期的なニュース」で「善意の一歩」だと評価した。

抗議デモを行っている人々がさまざまなプラカード掲げている

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画像説明, イスラエル政府の人質解放の優先を求める抗議デモでも、アレクサンダー氏の写真が掲げられていた

アレクサンダー氏は、イスラエル・テルアヴィヴで生まれ、米ニュージャージー州で育った。2023年10月7日のハマスの攻撃時にはイスラエル軍の精鋭歩兵部隊に所属しており、ガザとの境界にいたところをハマスに拘束された。

2023年の攻撃で拘束された251人の人質のうち、現在もガザに残されているのは59人とされ、そのうち最大24人が生存している可能性がある。アメリカ国籍を持つ人質は5人とみられ、アレクサンダー氏は唯一の生存者と考えられていた。

ハマスは声明で、アレクサンダー氏の解放は停戦合意の実現と、食料・医薬品などの人道支援物資の搬入を目的とした取り組みの一環だと説明した。ガザでは、イスラエルによる完全封鎖が70日間続いている。ハマスは、戦争終結に向けた最終合意の実現を目指していると強調した。

イスラエル首相府も声明を発表し、アレクサンダー氏の解放に関するハマスの意向についてアメリカ政府から知らされたと明らかにした。また、今回の動きは「アメリカに対する(善意の)仕草」として行われたもので、今後さらなる人質解放に向けた交渉につながることを期待していると述べた。

イスラエル政府は「戦争の全目標を達成するという方針の下、交戦中であっても交渉は継続する」との立場を示している。

人質の家族らを代表する活動団体は、アレクサンダー氏の解放が「すべての人質の自由を確保する包括的合意の始まりでなければならない」との声明を発表した。

また、トランプ氏が「すべての人質の家族に希望を与えた」と評価する一方、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に対して「全員を連れ戻すよう」強く求めた。

空爆で破壊された街並みの中に、避難民のテントが並んでいる

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画像説明, ガザには70日間、支援物資が入っていない

ハマスはこれまで、戦争の終結を含む合意でなければ応じないとの立場を繰り返し示している。対するネタニヤフ首相は、この要求を一貫して拒否している。

ハマスとアメリカ政府との交渉は現在も続いており、複数の報道によると、トランプ政権内ではネタニヤフ首相の強硬姿勢に対する不満が高まっているという。ネタニヤフ首相は国内でも圧力にさらされており、戦争を政治的目的で長引かせているとの批判も一部で出ている。

トランプ氏の中東訪問を前に、イスラエル政府は、訪問終了までに合意が成立しない場合、ハマスに対する軍事作戦を拡大する方針を明らかにした。

この計画にはガザ全域の無期限占拠、パレスチナ人の南部への強制移動、民間警備会社による支援物資の配布管理が含まれている。

国連やその人道支援パートナーは、支援物資が「兵器化」される懸念があるとして、協力を拒否する姿勢を示している。一方、アメリカ政府は先に、人道支援を民間企業に委託する仕組みを準備中だと認めた

イスラエルのこうした動きは、国際社会からの批判を招く可能性があり、停戦交渉の行方にも影響を与えるとみられる。

イスラエルは過去70日間にわたり、ガザ地区への食料、医薬品、その他の人道支援物資の搬入を全面的に遮断している。複数の支援団体はこれが飢餓政策にあたると非難し、戦争犯罪に該当する可能性があると警告している。

イスラエル軍は3月中旬からガザへの空爆と地上作戦を再開しており、ハマスが運営するガザ保健省によると、それ以降に2720人のパレスチナ人が死亡した。

国連の報告によると、今年に入ってから子供の急性栄養不良が約1万件確認されている。また、食料価格は最大で1400%も高騰している。

イスラエル軍は、2023年10月7日のハマスによる越境攻撃を受けて、ハマス壊滅作戦を始めた。ハマスによる攻撃では、イスラエルの約1200人が殺害され、251人が人質に取られた。

ハマス運営のガザ保健省によると、イスラエルが作戦を開始して以降、ガザで少なくとも5万2829人が殺された。