【解説】アンドリュー・マウントバッテン・ウィンザー氏はここがどん底なのか

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ショーン・コクラン王室担当編集委員
スキャンダルが何週間も何カ月も何年も、ひいては何十年も続いた挙句、アンドリュー元王子のすべての称号と特権がついに、完全に剥奪(はくだつ)された。
王室の一員がその地位をこれほど徹底的に失うなど、現代において前例がない。
アンドリュー氏は、以前は自ら、自分の今後について声明を出していたが、今回はバッキンガム宮殿そのものからの発表だった。
これは、絆創膏(ばんそうこう)を一気に引きはがすような瞬間だ。王室としては、アンドリュー氏に関する悪いニュースが油膜のように延々と続き、あらゆることにねばついて影を落とすという事態を、これで遂に終わらせたいところだ。
自らの意志で称号を使っていないのだというのが、アンドリュー氏に最後まで残されていたわずかな尊厳のかけらだったが、それさえも取り上げられた。
ヨーク公爵、インヴァネス伯爵、キリレイ男爵といった称号は、強制的に取り上げられる。
残されているのは王位継承順位上の地位のみだが、下院図書館の新指針によると、それも英連邦諸国の同意が得られれば、イギリス議会が剥奪できる。
1年以上にわたる圧力の末、いわゆる「ロイヤル・ロッジ包囲戦」は終わった。アンドリュー氏はこれまで住んでいた王室の公邸ロイヤル・ロッジの賃借権を失い、イングランド東岸ノーフォーク州サンドリンガムにある王邸の敷地内へ移る。具体的な移転先は明かされていないが、ウッド・ファームではない。
サンドリンガム邸は国王が私的に所有している。このため、英王室の資産運営を担当する「クラウン・エステート」にアンドリュー氏が依存する状態は、これで終わることになる。

元妻サラ・ファーガソン氏は自分の住居を別途手配しているとされる。現時点では、アンドリュー氏とノーフォークで同居する予定はないと言われる。
これによってアンドリュー氏は、住まいも金も国王に依存することになる。そして、これも指摘しておく必要があるだろうが、チャールズ国王は弟アンドリュー氏の福祉に対する安全配慮義務を負うことになる。
今回の王室の発表により、イギリス議会が独自に動いてアンドリュー氏の称号を議決によって剥奪するという切迫した事態は、回避できるかもしれない。下院議員たちはこのスキャンダルについて、議会で討論すべきだとますます声高に主張していたし、下院の公共会計委員会は公的資金を守らなくてはならないと、強く働きかけていた。
しかし、この件について国民は本当に激怒していた。むしろその怒りを鎮めることの方が、王室にとっては難しい作業になるだろう。アンドリュー氏の無軌道な特権意識に、国民は心からいら立っていた。そこに醜悪な特権意識があるという感覚を払拭するには、称号を取り上げる以上の何かが必要になるはずだ。
10月30日に発表されたユーガヴの世論調査によると、王室の一員としてアンドリュー氏はかつてないほど最悪の不人気ぶりで、回答者の91%が彼を否定的に見ていた。
国民の深い不快感を、チャールズ国王は27日に直接耳にした。イングランド中部リッチフィールドを訪れた国王に向かって、集まった市民の一人が「いつからアンドリューとエプスティーンのことを知っていたのか」と野次を飛ばしたのだ。
王室に対しては、アンドリュー氏をめぐる長年の問題が、なぜ今まで放置されてきたのかという疑問が残る。不適切なビジネス関係、説明のつかない資金、性犯罪者ジェフリー・エプスティーン元被告との関係など、あまりに多くの問題が、何年も前から知られていた。問題が変われば登場人物は変わる。中国のスパイとされる人物や、独裁者の裕福な親族などが、次々と入れ代わり立ち代わり登場する。しかし、物語そのものは変わらない。
エプスティーン元被告との不愉快な関係は、アンドリュー氏が通商代表の役職を剥奪された14年前から、広く議論されていた。
アンドリュー氏は職を失い続けてきたが、それでも王侯貴族らしい豪華な生活を何年も続けていた。その様子を見て、世間の我慢は限界にきていた。あまりに傲慢で、国民の感覚からあまりにずれていると、そう思われていたのだ。
グーグルで簡単に検索しただけで、彼の資質を疑問視する記事が何十年も前から積み重なっていたのがわかる。そういう記事ではしばしば、シルクハットをかぶったアンドリュー氏の写真が使われている。まるで、ゲーム「モノポリー」の駒がゲームの盤上を抜け出して悪さをしているかのように。
国民の多くは、アンドリュー氏の話題にうんざりしているかもしれない。もう十分聞いた、もうたくさんだと感じている人もいるだろう。しかし、うんざりだという感覚のほかに、はっきりした責任追及を求める怒りの空気も確かに世間に広まっていた。
それでは、今後はどうなるのか。これを機に、芋づる式に、さらに範囲を広げて問題が明るみに出るのかどうか。
アンドリュー氏とエプスティーン元被告について、王室の誰が何をいつ、知っていたのか? 王室の資産や財政について、もっと透明性が必要なのか? ウィンザーの敷地内にはいったいあとどれだけ、住宅が隠されているのか? そして、アンドリュー氏について、今後どういう新しいスキャンダルが出てくるかもしれないのか?
しかし、アンドリュー氏の将来へのこの「焦土作戦」は、チャールズ国王が持つ予想外に厳格な一面を明らかにする可能性もある。
ウィリアム皇太子を含め、他の王室関係者も今回の決定にかかわっていたものの、自分の弟の将来について重大な決断を下したのは、国王自身だったとされる。評論家たちが何を大げさに語ったところで、国王にとってこれが簡単な決断だったはずはない。
今年初め、アンドリュー氏が2011年2月にエプスティーン元被告に送ったとされるメールが明らかになり、両者の接触が続いていたことが示された。これで世間の態度が取り返しのつかない形で変わったように思えた。アンドリュー氏は2019年11月にBBC番組「ニューズナイト」による単独インタビューで、2010年末の時点で元被告と絶縁したと表明していたが、この約束を破ったという印象を広く与えたのだ。
アンドリュー氏が王子としての栄誉を受け続け、王室の一員としてウィンザーで他の王族と一緒に華やかに暮らし続けるなど、もはやあり得ないことだと、そう思われるようになった。
代わりに国王は今回の声明で、虐待の被害者への共感を強調した。エプスティーン元被告と仲間たちの暗い心臓部には、被害者たちの物語がある。
ヨーク公爵アンドリュー王子がバッキンガム宮殿のバルコニーに立ち、笑顔で手を振っていたのは、そう昔のことではない。しかし彼は31日、生まれて初めて、「マウントバッテン・ウィンザー氏」という私人として、朝を迎えた。













