北朝鮮に越境の米兵は「無許可離隊」 米国防総省が見解

ケリー・アン(シンガポール)、ジーン・マケンジー(ソウル)

Travis King

画像提供, Reuters

画像説明, 米陸軍のトラヴィス・キング2等兵

米国防総省は20日、韓国から軍事境界線を越えて北朝鮮に渡ったトラヴィス・キング2等兵(23)について、「無許可離隊」とみなしていると説明した。

キング氏の状態や拘束されている場所に関しては、当局は何もわからないとした。

これに先立ち米政府は、「複数のチャンネル」を通して北朝鮮との接触を試みたが、何の反応も得られなかったとした。

キング氏は18日、厳重警備の国境地域で走って北朝鮮に越境した

亡命したのか、帰還を望んでいるのかは明らかでない。

米ワシントン拠点のニュースサイト「メッセンジャー」は、キング氏の越境時の行動に関する米政府の内部報告書を見たと報じた。

報告書には、キング氏が北朝鮮側の建物に向かって走って行った、と書かれていたという。

また、同氏はドアを強くたたき、返事がないので裏に回ると、バン型の車両に乗り込んですぐに走り去った、と記されていたという。

米陸軍長官は「深い懸念」

専門家らは、キング氏が下級兵士のためプロパガンダや情報収集での利用価値はわずかだとし、北朝鮮は解放するかもしれないとみている。ただ、今後については多くのことが不確実だとしている。

米陸軍のクリスティーン・ウォーマス長官は、キング氏とその処遇について「深い懸念」を表明している。アスペン安全保障フォーラムでは、「率直に言って、彼のことが心配だ」と発言した。

今回の危機は、北朝鮮を取り巻く国際情勢が緊迫する中で起こった。北朝鮮は近年、核弾頭を搭載できる強力ミサイルを何十発も試験発射しており、米朝関係は急速に悪化している。

米政府は国民に対し、北朝鮮では不当に拘束される恐れがあるとして、渡航を控えるよう勧告している

Travis King (wearing black shirt and black cap) on the border between the two Koreas, 18 July 2023

画像提供, Reuters

画像説明, 国境地域のツアーに参加していたキング氏(中央の黒い帽子、18日)
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キング氏は駐留していた韓国からアメリカに戻り、処分を受ける予定だった。

しかし、18日にソウル近郊のインチョン空港で護送の軍人と別れると、飛行機には乗らず、事前予約していたとみられる国境地域へのツアーに参加した。

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国境地域にある非武装地帯(DMZ)は、朝鮮戦争があった1950年代以降、両国を隔て続けている。同戦争では、アメリカは韓国を支援した。

戦争は休戦協定によって収まったが、両国は厳密にはなお戦争状態にある。韓国には米兵が数万人駐留している。

アメリカと北朝鮮は国交がないため、ピョンヤンにあるスウェーデン大使館が、アメリカの代理として交渉に当たることが多い。しかし、新型コロナウイルスの世界的な流行を受け、北朝鮮は国境を閉鎖し続けているため、スウェーデン大使館は現在、外交官が不在となっている。

国境地帯を管理する国連軍司令部と韓国軍はともに、北朝鮮軍との直通電話を有している。毎日、確認の電話をかけているが、北朝鮮側がいつも出るわけではない。

北朝鮮ではここ数年、たびたびアメリカ人が不法入国しているが、犯罪行為で有罪とされた場合を除いて、半年以内に解放されている。

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ソウルを拠点とする北朝鮮専門サイト「NKニュース」のアナリスト、ジェイムズ・フレットウェル氏は、北朝鮮がキング氏を、米軍批判のプロパガンダに利用するかもしれないと話す。

「キングは近いうち、北朝鮮の国営メディアに登場するかもしれない。ただ、彼への尋問と、おそらく実施されている新型ウイルスの隔離がどれだけ続くかに、大きく影響される」

一方、北朝鮮の動向を分析している米スティムソン・センター「38ノース・プログラム」のディレクター、ジェニー・タウン氏はキング氏について、「非常に理想的かつ説得力のある兵士の物語には、なりにくい」と指摘する。

「米兵が亡命し、とどまることを許されたケースは、かなり以前にもあった。(中略)しかしそうしたケースでは、(米兵らの物語に)政治的価値があった。時代背景も指導者も今とは大きく違っていた」

一部の専門家らは、米朝の関係が緊張状態にあり、二国間協議も行き詰まっていることから、北朝鮮がキング氏を拘束していても、得るものはあまりないと考えている。

ソウルの梨花女子大学のレイフ=エリック・イーズリー教授(国際関係学)は、「北朝鮮にとって、何らかの補償を引き出したうえで、無許可入国で米国民を追放する道を探ることは、理にかなっている」と話した。

「米兵が北朝鮮にプロパガンダ上の勝利をもたらして無事帰国し、パンデミック期間中に停滞していた対話と接触を再開する機会を米朝当局が得る。これが最善のシナリオだ」