ロシア、米ジャーナリストをスパイ容疑で逮捕 「国家機密を収集」と

画像提供, Reuters
ロシア当局は30日、アメリカ人ジャーナリストのエヴァン・ガーシュコヴィッチ氏(31)をスパイ容疑で逮捕したと発表した。ゲルシコヴィッチ氏は逮捕時、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)記者としてエカテリンブルク市で取材していた。
ロシア政府は、ガーシュコヴィッチ氏を「現行犯」逮捕したとしているが、WSJは同氏への疑惑を強く否定している。
米ホワイトハウスは「最も強い表現で」非難すると述べた。
アントニー・ブリンケン米国務長官は、ガーシュコヴィッチ氏拘束を「深く憂慮」していると述べた。米当局はすぐに同氏に連絡を取ろうとしたが、応答を得られていないという。
ガーシュコヴィッチ氏はロシアでの取材経験が豊富で、報道機関のモスクワ特派員の間でも知られた存在。BBCのスティーヴ・ローゼンバーグ・ロシア編集長は、同氏は素晴らしい記者で、強い信念を持ったジャーナリストだと説明した。
「国家機密情報を収集」とロシア当局
WSJによると、ガーシュコヴィッチ氏は29日夜、モスクワから1600キロほど東に位置するエカテリンブルクでの取材中に連絡が取れなくなった。
米当局は、ガーシュコヴィッチ氏の運転手がレストランで同氏を下ろし、その2時間後に同氏の携帯電話の電源が切られたとしている。
WSJは弁護士を雇い、エカテリンブルクのロシア連邦保安庁(FSB)事務所で同氏を探そうとしたものの、事務所からは情報はないと言われたという。
FSBは、「違法行為」を阻止したと述べている。また、ガーシュコヴィッチ氏は「アメリカの指示で活動していた」としており、「ロシアの防衛機関の活動について、国家機密とされる情報を集めていた」疑いがあるとしている。
FSBはガーシュコヴィッチ氏をモスクワのレフォルトヴォ地区裁判所に連行し、正式に逮捕した。5月29日まで勾留されるという。
ロシアメディアによると、裁判所には職員や訪問者が入れなくなっている。ガーシュコヴィッチ氏の弁護人も法廷内に入れなかったと述べている。
ロシアでは、スパイ行為は有罪となれば最大で20年の禁錮刑となる。タス通信によると、ガーシュコヴィッチ氏は容疑を否認している。

画像提供, AFP
ガーシュコヴィッチ氏は1年以上にわたり、WSJでロシア報道に携わってきた。それ以前はAFP通信や、ロシアの英語メディア「モスクワ・タイムズ」で執筆していた。
今週WSJに掲載された記事では、ロシアの経済低迷を取り上げ、ロシア政府がどのように社会福祉の歳出を維持しながら「膨れ上がる軍事費」をやりくりしているのかを報じた。
国際ジャーナリスト団体「国境なき記者団(RSF)」によると、ガーシュコヴィッチ氏はロシアの雇い兵組織「ワグネル・グループ」を取材するためにエカテリンブルクを訪れていたという。ワグネルはウクライナ東部での激戦に参加している。
WSJは声明で、ガーシュコヴィッチ氏と家族に連帯すると発表。「ウォール・ストリート・ジャーナルは、FSBからの申し立てを強く否定し、信頼できる献身的な記者、エヴァン・ガーシュコヴィッチの即時解放を求める」とした。
一方、ロシア政府のドミトリ・ペスコフ報道官は、「これはFSCの管轄であり、すでに声明が出ている」と述べ、「私から付け加えることがあれば、我々の知る限り、彼は現行犯逮捕された」と語った。
ロシア報道の難しさ
2022年2月のウクライナ侵攻開始以前から、ロシアからの報道は非常に困難になっていた。
政府から独立しているジャーナリストは「外国の代理人」とされ、BBCのロシア特派員だったサラ・レインズフォード記者は国外追放された。
侵攻開始後、ロシア政府は「フェイクニュース」や「軍をおとしめる内容」の報道を違法とした。これにより多くのロシア国民が、ソーシャルメディアで侵攻を批判したとして有罪となっている。
テレビ「ドシチ(TV Rain)」やラジオ局「エコー・オブ・モスクワ」、リベラル紙「ノーヴァヤ・ガゼータ」をはじめとする独立系メディアは、ほぼ全てが黙らされたり、閉鎖させられたりしている。西側メディアも、多くがロシアを離れた。
ロシア政治の専門家タチアナ・スタノヴァヤ氏は、ゲルシコヴィッチ氏の拘束は衝撃的だと話した。FSBの主張する「情報収集」は、単に専門家にコメント求めただけのことで、「アメリカの指示で活動」という部分も、WSJの編集長を指しているのだと指摘した。
一方、ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は、WSJの従業員がエカテリンブルクでしていたことは「ジャーナリズムとは全く関係ない」と発言。「外国特派員」という立場が「ジャーナリズムとは関係ない活動の隠蔽(いんぺい)」に使わるのはこれが初めてではないと話した。
ウクライナ侵攻開始から13カ月がたち、ロシアと西側諸国の緊張関係は高まっている。RSFは、「報復のように思える動きに警戒している」としている。
身柄交換はあるのか
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は地元メディアに対し、身柄交換の多くは刑期に入っている人物が対象だと発言。ガーシュコヴィッチ氏をめぐる協議は時期尚早だとの考えを示した。
ロシアでは現在も、アメリカ国籍の数人が拘束されている。
ウクライナ侵攻の数日前、米女子バスケットボール選手ブリトニー・グライナー氏が、大麻成分の入ったオイルを持っていたとして、モスクワの空港で逮捕された。グライナー氏は昨年12月、アメリカで服役中していたロシア人、ヴィクトル・ブート氏との身柄交換で釈放された。ブート氏は、ソ連崩壊後に何年も武器取引を行っていたことから「死の商人」と呼ばれ、世界で最も指名手配されている人物の1人だった。











