ロシア国営テレビで戦争を批判したジャーナリスト、フランスに脱出

ルーシー・ウィリアムソン、BBCパリ特派員

動画説明, 生放送中に「戦争反対」のプラカード ロシア国営テレビで(2022年3月)

昨年10月の夜、ロシアのウクライナ侵攻を批判した罪で裁判にかけられる1週間前、ロシア人ジャーナリストのマリナ・オフシャニコワさん(44)は幼い娘と共に、ロシアの国境を越えた。

ロシア国営テレビ「チャンネル1」の編集者だったオフシャニコワさんは昨年3月14日、ニュース番組の生放送中、原稿を読むアナウンサーの後ろで、「戦争反対。戦争止めろ。プロパガンダを信じないで。ここの人たちは皆さんにうそをついている」と書かれたプラカードを掲げ、「戦争反対! 戦争を止めて!」と声を上げた。

この抗議行動の前に、オフシャニコワさんは動画メッセージを録画。ウクライナで起きていることは「犯罪」で、侵略者はロシア、責任はウラジーミル・プーチン大統領1人にあると発言していた。

オフシャニコワさんは放送後、直ちに逮捕され、ビデオメッセージについて罰金3万ルーブル(約3万3000円)を科せられたうえで釈放された。その後、自宅軟禁となり、監視用の電子ブレスレットを着けられた。

オフシャニコワさんは今月10日、仏パリでの記者会見で、「弁護士に『逃げろ、逃げろ、刑務所に入れられる』と言われた」と話した。

オフシャニコワさんは、警察の動きが鈍いとにらんだ週末にモスクワを出発。乗り物を7回変え、最後は徒歩で国境に向かった。

「最後の乗り物がぬかるみにはまってしまった。携帯電話の電波もなかったので、星を見て方向を探った。とても危険でストレスのかかる逃亡だった」と、オフシャニコワさんは私に話した。

親子は国境付近を4時間近くさまよい、国境警備隊から隠れながら、最後には国境を越えることができたという。

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この逃亡劇の成功には、国際ジャーナリスト団体「国境なき記者団(RSF)」が関わっている。クリストフ・ドロワール事務総長に、オフシャニコワさんをどのように助けたのかを尋ねた。

「最初にオフシャニコワさんにメッセージを送ったのは、彼女がテレビであのプラカードを掲げた日だった。『助けがいりますか?私たちがここいいます』と送った」と、ドロワール氏は語った。

オフシャニコワさんは9月になって、仲介人を通じてRSFに連絡を取り、ロシア出国を助けてほしいと願い出た。

ドロワール氏は、「OKと答えた。(でも)彼女はモスクワで自宅軟禁されており、隣人も家族もプーチン支持者だ。彼女が逃げたと警察に通報できるし、オフシャニコワさんは電子ブレスレットを着けていた。逃げるのはとてつもなく大変なことだったが、彼女はやり遂げた」と説明した。

現在はパリに住むオフシャニコワさんは、まだ「もちろん、命の危険はある」と話す一方、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はウクライナでの戦争で、自分の指導力を危険にさらしていると思うと話した。

「国の支配層はすべて理解している」と、オフシャニコワさんは指摘した。

「国民はプロパガンダの泡の中で暮らしているが、支配層のエリートたちは自家用機やヨットや資産を失い、何もかも理解している。ウクライナの勝利が近づいたとたん、支配層はプーチンに巨額の請求書を突き付けるはずだ」

Marina Ovsyannikova at a press conference in Paris, France. Photo: 10 February 2022

画像提供, EPA

画像説明, ウクライナのジャーナリストやロシアの反体制派の中には、オフシャニコワさんに不信感を抱く人たちもいる

オフシャニコワさんは、3月のチャンネル1での抗議後「すぐにロシア連邦保安庁(FSB)に隔離され」、オフシャニコワさんの上司も捜査を受けたと話した。

また、オフィスで荷物をまとめている時、「同僚たちが完全に同情の目で私を見ていた」と、私に語った。

「みんな目を見開いて私を見ていて、さよならを言っていた。二度と私と会えないと思っていた」

オフシャニコワさんはその後、すぐにドイツに移動したものの、子供の親権を争うためにロシアに戻った。

7月にはモスクワのクレムリン宮殿近くでのデモに参加し、ロシア軍に関する「偽情報」の拡散を禁じる新法に違反した罪で起訴された。

この法律は、ウクライナ侵攻を「侵攻」と呼ぶことを禁止する。ロシアの国営報道機関は代わりに、「特別軍事作戦」という表現を使っている。

ロシア政府の標的になっているにもかかわらず、ウクライナのジャーナリストやロシアの反体制派の多くは、オフシャニコワさんに歴然と不信感を抱いている。オフシャニコワさんが昨年3月以前は、国営放送で政府広報に携わっていたためだ。

オフシャニコワさんは昨年夏、ドイツ紙ディー・ヴェェルトの取材でウクライナを訪れたが、多くのウクライナ人がこれに激怒し、即時解雇を求めた。