【解説】 オランダ総選挙で極右政党が勝利 欧州が揺れる

カティヤ・アドラー、欧州編集長

オランダ総選挙の結果、第一党となる見通しを喜ぶ自由党のウィルダース党首

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画像説明, オランダ総選挙の結果、第一党となる見通しを喜ぶ自由党のウィルダース党首

オランダの総選挙で極右政党のヘルト・ウィルダース党首が、予想外に大勝したおかげで、世界各国の報道機関は次々に強い調子の見出しを掲げた。

強硬右派で何かと物議をかもすウィルダース氏は、大衆的な人気を得ているポピュリストで、時には「オランダのトランプ」と呼ばれることもある。明るい金髪に染めてふくらませた髪型のせいもあるし、その苛烈(かれつ)な物言いのせいでもある。その極右党首の勝利を、欧州各国の右派ナショナリストたちはこぞって歓迎した。

ウィルダース党首は、イスラム教徒の移民とテロリズムを結び付ける公言を重ね、国内でモスクやイスラム教の聖典コーランを禁止するとも発言してきた。あまりに挑発的なその主張のため、2004年以来、警察の厳重警護を受けている。

ウィルダース氏は差別扇動の罪でいったん有罪となり、後に無罪となったものの、2009年にはイギリスへの入国を拒否された。

しかし欧州の極右勢力は、自分たちのものの見方が今では主流になりつつあると考えている。

「変化の風がやってきた!」。オランダの選挙結果を見て、ハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相は宣言した。オルバン氏もウィルダース氏と同様、反移民を主要テーマに掲げている。欧州連合(EU)に懐疑的な姿勢も同じだ。

ベルギーのフランドル独立を目指す極右リーダー、トム・ファン・グリーケン氏も、自国で同じような選挙勝利を望んでおり、「我々のような政党が欧州全体で、着実に歩を進めている」と素早く結論した。

オランダ北部フロニンゲン南東のテルアペルに集まった亡命希望者

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画像説明, 亡命希望者の増加で、オランダでは住宅不足が問題となっている。写真は北部フロニンゲン南東のテルアペルに集まった亡命希望者

それでは、今回の選挙結果はオランダ政治だけでなく、欧州全体の政治にどう影響するのか(こう書いている現在、EU官僚たちは後者をかなり心配している)。

ウィルダース氏の成功は、傍目の通りにはっきりしたものなのだろうか。

実際には、本人もこれほど多くの議席を得るとは思っていなかった。22日夜、開票結果の速報を見ている本人が思わず驚き大喜びする様子が、ソーシャルメディアで拡散された動画で見られる。

ウィルダース氏の自由党が、選挙当日の党本部として使うための部屋を予約したのは、本番のわずか3日前だったという。自由党が支持率を急速に伸ばしたのは、選挙期間の最終盤だった。

複数の要因が合わさり、オランダの有権者は自由党に引き付けられた様子だ。

  • ウィルダース氏は今回、移民流入制限、オランダが抱える住宅不足問題、医療制度改革の三つに焦点をあてた。他方で、投票日が近付くにつれて、反イスラム的な言動をトーンダウンさせていった
  • テレビ討論会では、手慣れた姿を見せて、競合する他の党首に見事に張り合った
  • 主要政党も今回の選挙で、移民問題を中心的なテーマにした。このため多くの有権者が、ならば移民問題を重視する政党の「元祖」に投票してみようと判断した様子だ。オランダ政界でこれまで最も長く、かつ大声で、移民問題を取り上げてきたのはおそらくウィルダース氏だからだ

加えて、ライバル政党の党首が意図せずして、ウィルダース氏の勝利を手助けした。

中道右派「自由民主国民党(VVD)」のディラン・イェジルゲス党首は選挙選の最中に、ウィルダース氏と連立する可能性を示した。そのおかげで、自由党が極右だというイメージが多少やわらいだのだ。それまでオランダの主要政党は、ウィルダース氏の政治的立場から、連立はあり得ないという姿勢を堅持していた。

Geert Wilders campaign poster

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画像説明, 総選挙を経て、自由党を中心とした連立政権ができるのかに注目が移っている

これは欧州全体にとって、何を意味するのか。

ウィルダース氏はオランダ議会第一党の党首になったかもしれないが、単独政権を作るだけの議席には程遠い。これからしばらく政治的駆け引きが続く。

連立する相手を見つけるため、自分の政策の一部について譲歩も致し方ないと、ウィルダース氏はすでに認めている。そして現時点では、次のオランダ首相がウィルダース氏になるのかもはっきりしない。

もし彼が次の首相になるのなら、EU首脳会議は今まで以上に緊迫と対立の場所になるはずだ。その理由はいくつかある。

ウィルダース氏はオランダのEU離脱を目指して、これまで激しく運動してきた。ほとんどの有権者がこれを支持していないことは、本人も表立って認めているが、それでも離脱の是非を問う国民投票を強行する可能性も十分にある。

欧州委員会は23日、心配していないとコメントした。(EUの母体の創立メンバーでもある)オランダが、EUの課題に引き続き「強力に参加」し続けることをEUは「頼みにしている」のだと、欧州委員会のエリック・マメル報道官は述べた。

それでもEU本部は、ロシアによる全面侵攻が長引くウクライナへの支援についてEU加盟国の連帯が続くのか、心配しているし、心配するべきだ。

ウクライナ支援には、かなりの資金がいる。

EU加盟国のハンガリースロヴァキアの首脳と同様、ウィルダース氏もウクライナへの軍事援助追加に反対している。

ウクライナのゼレンスキー大統領とオランダのルッテ首相

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画像説明, 退任するルッテ首相(右)は今年8月、オランダからF16戦闘機をウクライナに提供すると約束した。ウィルダース氏は、ウクライナへの軍事援助追加に反対している

ウィルダース氏は、何事にもオランダを優先したいと主張する。「オランダをオランダ人に返す」と。ドナルド・トランプ前大統領による「アメリカをまだ偉大にする!」というスローガンや、イタリアのジョルジャ・メローニ首相による「イタリアとイタリア人を第一に!」という呼びかけを想起させる物言いだ。

首脳会議の場では、メローニ首相らと共に、移民や亡命に関するEUの方針について強硬姿勢をとるだろう。彼はこれまでも「移民の津波」という言い方をしてきた。

しかし、ウィルダース氏の今回の勝利から、極右とか強硬右派とか懐古的ナショナリストとか大衆主義とか(呼び方はいろいろだし、包含的な呼び方を決めようという話でもない)、そういう政党が「欧州を制圧」しつつあると一部の論者が主張するのは、話を単純化しすぎだと私は思う。

ポーランドの右派ポピュリスト政党「法と正義」は、総選挙で敗れたばかりだ。夏に行われたスペインの総選挙でも、極右政党VOX(ボックス)の結果は予想を下回った。オランダでは、労働党と緑の党の共闘がかなりの良い成績を残した。

しかし、欧州ではどこを見回しても有権者にとって優先されるのは、移民と移民と移民、そして物価だ。

フランスでは、マリーヌ・ル・ペン氏が率いる極右政党「国民連合」が、議会選で躍進を繰り返している。ドイツでは極右野党「ドイツのための選択肢(AfD)」も、世論調査では安定して2位の支持率を確保しているし、時には1位になったりする。オーストリアでは右派の国民党が盛り返している。

こうした右派政党はどれも、移民反対の姿勢を声高に主張している。彼らは、たとえ政権党にはならないとしても、政治的圧力を醸成し、移民や安全保障について、主流派とみなされる他の政党(たとえばドイツの政権与党・社会民主党やフランスでエマニュエル・マクロン大統領が率いる政党「再生」など)を従来より右へ右へとその位置を変えさせている。

同じような展開はパターン化して、欧州各地で繰り返されている。

欧州委員会は、あまりあからさまにウィルダース氏を軽視しない方がいい。同様に、欧州全体にどういう政治的な風が吹いているのか、選挙での彼の勝利が何を物語っているのかも、あまり軽視しない方がいい。