Kポップアイドルのムンビンさんが死去、アーティストが受けるプレッシャーに再び注目

ワン・ファン&ク・ユナ(シンガポール、ソウル)

Moonbin of Astro, right, attend 26th High1 Seoul Music Awards at Jamsil Arena on January 19, 2017 in Seoul, South Korea.

画像提供, Getty Images

画像説明, ムンビンさん(右)は男性アイドルグループ「ASTRO」のメンバーだった。写真は2017年のもの

韓国の男性グループ「ASTRO(アストロ)」のメンバー、ムンビンさんが19日に死去したと、所属事務所が発表した。25歳だった。ムンビンさんの死は世界中のファンに衝撃を与え、こうしたアーティストが受けているプレッシャーに再び注目が集まっている。

ムンビンさんは歌手のほか、俳優やモデルとしても活動していた。ASTROのメンバー・サナさんとのデュオ・ツアーで、世界を回っている最中だった。

正確な死因はまだ調査中だが、警察はムンビンさんが「自ら命を絶ったようだ」と述べている。

韓国の芸能界ではしばしば、若い著名人が突然この世を去る。4月初めには、俳優のチョン・チェユルさん(26)が自宅で亡くなっているのが発見された。昨年8月には、俳優のユ・ジュウンさんが27歳で亡くなっている。女性グループ「f(x)」の元メンバーだったソルリさんは2019年、インターネット上で長期間いじめを受けた後、亡くなった。その1カ月後には、ソルリさんの親友だったKポップ歌手のク・ハラさんが自宅で亡くなった。

全員が自殺と認定されたわけではない。しかしムンビンさんの死により、競争の激しい韓国の芸能界に、あらためて厳しい目が向けられている。

スターへの険しい道のり

過酷な競争社会として知られる韓国は、先進国で最も若者の自殺率が高い。全体的な自殺率は下がっているものの、20代に限ると上昇傾向にある。

韓国で有名になると、北米や欧州でポップスターになるよりもはるかに大きな圧力にさらされることになる。音楽誌「ビルボード」のロブ・シュワルツ・アジア特派員は、こう指摘する。

競争は最初から激しい。若い韓国人の間で、芸能人は非常に人気の高い職種だ。2021年に韓国教育省が行った調査によると、小学生がなりたい職業のトップ10に「俳優、モデル、歌手」が入っている。

Kポップでスターになるには、多くの人が過酷な練習期間を経なくてはならない。そのために友人や同年代の仲間とのつながりをほとんど失うことになるし、その状態が何年も続くこともある。

ムンビンさんは、11歳の時に韓国版のテレビドラマ「花より男子」で子役を務めた。それでもASTROでデビューするまで、練習生として8年間を過ごす必要があった。ムンビンさんの妹で、女性グループ「Billie(ビリー)」に所属するムンスアさんは、デビューに12年間かかっている。

Balloons, flowers and Moonbin's photos
画像説明, ファンは風船や花を飾り、ムンビンさんを追悼している
Presentational white space

厳しい選考を何回も経て、ほんの一握りの練習生がデビューを果たす。そこに待つのは、すでにスターがひしめく業界だ。

シュワルツ氏は、韓国のスターたちが受けるストレスの根源は所属事務所からのコントロールとファン文化だと指摘する。

デビューしたての新人は、長期間の独占契約で自分のスケジュールや報酬が自分ではほとんどどうにもならないのが、かつてはありがちだった。新人はいわゆる奴隷契約に縛り付けられていたのだ。

最近では不条理な契約からの解放を裁判で勝ち取ったアーティストも、いることはいるものの、事務所とアーティストの関係は根本的には変わっていないとシュワルツ氏はみている。

「Kポップスターは、以前よりコントロールされていないという意味で、自分のことを自分で決められるようになった。(中略)事態は変わったが、必ずしも良くなったとは言えない」

ファンの熱狂ぶりが、韓国でSNSが非常に旺盛なことと合わさると、諸刃の剣になり得るとシュワルツ氏は言う。

「ファンはあらゆる動きを見ていて、髪についてまでコメントする。ファンは好きなタレントをまるで顕微鏡で観察しているみたいに、その一部始終を異常なほど凝視している」

デビュー後、スターは自分のファンだけでなく、社会全体からも注視される。格差社会が長く議論されてきた韓国では、世間の目に触れる公人に対して、通常よりも高い行動規範を要求しがちだ。

たとえば、飲酒運転は韓国の著名人にとって最悪の犯罪の一つとされ、そこでキャリアが終わることもある。俳優のキム・セロンさん(22)は、飲酒運転で衝突事故を起こし、世間から大きな批判を浴びた。

Kポップ文化の評論家ハ・ジェクン氏は、「韓国は他の国に比べ、著名人に求める倫理的済準が非常に厳しい」と語る。

「スターが少しでも『きちんとした』ふるまいから外れるようなことがあれば、世間は攻撃し始める。強い集団主義から発せられる社会的圧力は相当なもので、スターが世間のこうした攻撃を無視するのは難しい」

スティグマ

心の健康(メンタルヘルス)に問題を抱えながらこうした仕事をするのは本当に大変だと、業界関係者は指摘する。

BBCコリア語は2017年、ラッパーのスウィングスさんを取材した。複数の精神疾患で診断を受けたというスウィングスさんは、いかに厳しいことか話していた。

「まるで裸で表を歩いているみたいだった。『あいつは病気じゃなかったっけ、それなのにステージに上がってていいのか?』といろいろな人に言われる。私に何が起きているか、もちろん知らないのに」

Kポップ業界も、スターの精神的負担には気づいている。中には心身の健康のため、長い休養期間に入るアーティストもいる。

女性グループ「Twice(トゥワイス)」のジョンヨンさんは2020年以降、メンタルヘルスと首のけがを理由に、4回の休養を取った。ジョンヨンさんは今年3月に復帰を果たしている。ムンビンさんも健康上の理由で、2019年と2020年に休養期間に入っていた。

いくつかの事務所は、練習生やアーティストにセラピストとのセッションを設けている。韓国最大の検索サイト「ネイバー」は2020年に、エンターテインメント報道のコメント欄が害を与えかねない環境になったとして、これを廃止した。

しかし、根本的な変化の波がすぐ来るとは思えないという指摘もある。

シュワルツ氏は、「Kポップ業界は独自のもので、アイドルのために改善したいと誰もが思っている。でも、そのためにはどうしたらいいのか?」と問いかける。

「熱烈なファンはアイドルに執着している。スターが高いレベルで活動する、その機会を得るには、まるで顕微鏡にかけられるみたいにファンの凝視にさらされる。その悪循環が起きている気がする」と、シュワルツ氏は言う。

(追加取材:ジョエル・グイント)

Short presentational grey line

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