「私は敬虔なシク教徒で同性愛者」 英著名人、信仰と性的指向に矛盾はないと

アリーム・マクブール宗教編集長、BBCニュース

Jasvir and Nick on their wedding day

画像提供, Lex Fleming Photo

画像説明, ジャスヴィル・シンさん(左)と夫のニックさんの結婚式の写真

ジャスヴィル・シンさんは、イギリスで最も知られたシク(シーク)教徒の1人だ。そして、同性愛者でもある。シンさんはこの事実を、最近までほとんど明かしてこなかった。このことでシク教徒コミュニティーの人々と不和が生じたこともあったが、今は自分のセクシュアリティーについて声を上げたいのだと、シンさんは語る。

シンさんは目の前のテーブルに写真を並べ、深く息をついた。夫のニックさんと結婚した際の、喜ばしい瞬間を収めた写真だ。

「このことについて話すのが非常に物議をかもすことはわかっている」と、シンさんは言う。

「動揺して、いら立って、中には私に対して怒るような人が沢山いることはわかっている」

「でも隠すようなことは何もないし、私には常日頃から神が付いていると知っている」

シンさんは家族法の法廷弁護士であり、ラジオ4の番組「Thought For The Day(今日の一考)」で、シク教の相談役を務めている。先には、信仰コミュニティーをまとめ、弱い立場の人々の代表を務めたとして、大英帝国勲章コマンダー(CBE、司令官)の称号を得た。

しかしこうした活動の間に、シンさんは私生活をめぐる憶測にさらされ、時には脅迫まがいのことも受けた。その私生活こそ、シンさんが今、正面から話したいことだ。

「イギリスのシク教コミュニティーのほんの一握りから、声高な主張があった。同性愛者であることで殺害予告を受け取ったり、テレビに出演することは不信心だと批判されたりした。中には呼び出してきて、裸になれという人たちもいた」

シンさんは、自分の性的指向を隠そうとしたことはないが、公に話したことはなかったと言う。

Jasvir addresses meeting (Mayor of London Sadiq Khan stands in front row of audience)
画像説明, さまざまな宗教・信仰が集まるフォーラムで演説するシンさん。聴衆にはイスラム教徒のサディク・カーン・ロンドン市長の姿もある
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ソーシャルメディアで結婚式の動画が拡散された時、シンさんは声を上げる時だと思ったという。自分自身について自分の言葉で語り、困難に直面している同性愛者のシク教徒にメッセージを届けたいと。

「シク教が私の一部であるように、性的指向も私の一部だ。ターバンも、アイデンティティーも私も一部だ。こうしたものを、自分から切り離すことはできない。それが私だ」

シク教の家庭で育ったシンさんは、この宗教は平等という中心的な信条に非常に重点を置いていると話す。そして、自分の信仰と性的指向に矛盾を感じたこともないという。シンさんは、16歳の時の人生の転換点について話してくれた。

「中等教育修了一般資格(GCSE、高校卒業試験に相当)の結果を待っている間、インドに巡礼に行った。ヘムクンド・サーヒブという、ヒマラヤ山脈にある美しい牧歌的なグルドワラ(シク教の寺院)へと、父と一緒に3~4日かけて歩いた」

「険しい旅路の後に祈りをささげた時、異性愛者になりたいと祈っていた。ただ、人にいやな思いをさせたり、家族が恥と思ったりしないような生活がしたいと」

しかし、巡礼が終わっても自分の性的指向が変わらなかったため、シンさんは神からそのように作られたと思うようになったのだという。このことが、友人にカミングアウトする自信につながったと、シンさんは語った。

シンさんは、多くのシク教徒は違う考えだとしつつ、シク教の教えと聖典に、自分の信仰と性的指向との矛盾を見いだしたことはないと話す。

シク教の中心的聖典であるグル・グラント・サーヒブには、同性愛についての記述はないが、夫と妻についての指摘は存在する。

また、神の精神はすべてに行きわたるもので、人種や階級、ジェンダーに関係なく、すべての人に宿ると記されている。そのため、あらゆる立場のシク教徒が、同性愛や同性婚に対する自らの立場を裏付けるものとして、聖典を指し示すことができるのが現状だ。

しかしシンさんは最近になって、乗り越えられない障害に直面したという。それは、自分が望むような形で、そして他の人ならできるような形で信仰生活を送れないことを意味していたという。

「夫は白人で、イギリス人で、シク教徒の家には生まれていない。でも私の信仰を理解して、私の生活の一部として尊重してくれている。家族を作って、子供はシク教徒として育てたいと話していた」

「どんな結婚式にしたいかを細かく話し合ったが、悲しいことにグルドワラで式を挙げる方法がなかった。私のアナンド・カラジ(シク教の結婚儀式)の解釈では、そんな理由はなかったのに」

The Golden Temple of Amritsar

画像提供, Huw Evans picture agency

画像説明, アムリットサルのハリマンディル・サーヒブ(黄金寺院)は、シク教の総本山のひとつ
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しかし、イギリスを含む各地のシク教コミュニティーの考えは大きく違っている。

インド北西部パンジャブ州アムリットサルにあるシク教の総本山のひとつ、ハリマンディル・サーヒブ(黄金寺院)のアカル・タクト(最高指導者)は2005年、同性婚は認められないとの立場を再び示した。

イギリスのシク教代表機関であるシク教最高評議会のグルメル・シン議長も、「信仰の観点からは、この立場は揺るぎない。アナンド・カラジの儀式は、異性カップルのみが対象だ」と述べた。

シン議長は、シンさんをシク教の擁護者として知っており、尊敬もしているが、進化の早い社会にあっても、信仰の基本教義が変わり、シンさんがグルドワラで男性と結婚できるようになることはないと語った。

しかしシンさんは、シク教の宗教的な人物に受け入れられ、深く感動した瞬間があったと話す。それは昨年、結婚の届け出を控える中、婚約者と共にイギリス国内のグルドワラを訪れた時だったという。

「私たちは祝福をささげるため、ルマラ(経典を覆う布)を持っていた。グランシ(経典の管理者)は、私たちが一緒に入ってきたのを見て、私たちのためにアルダ(祈り)をささげると言ってくれた」

「特に祈ってほしいことはないかと聞かれたので、ただ健康を祈ってくださいと答えた。しかしグランシは、他に祈ってほしいことは本当にないのかと尋ねた。その時になって私たちは、お互いの手にメヘンディ(ヘナ)を施していることに気付いた。これは、結婚を控えている時によく行われるものだ」

「グランシが祈りを唱えたが、それは私たちの健康のためだけでなく、私たち2つの家族が一緒になるためのものだった。私にとっても、私たち2人にとっても、とても力強いものだった」

Jasvir and Nick outside the Taj Mahal
画像説明, シンさんとニックさん
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シンさんとニックさんはちょうど、新婚旅行でパンジャブ州をはじめ、インド各地のグルドワラを訪ねた後だった。

シク教徒の大半はパンジャブ州にルーツを持つ。そのためシンさんは、指導者の命令が、聖典よりもパンジャブ文化に大きく影響されていると感じている。イギリスのシク教機関はこれを否定している。

「残念ながら、信仰をあきらめた同性愛者のシク教徒や、髪を切り信仰から遠ざかるしかないと感じる人、グルドワラでの時間よりも内心の信仰にフォーカスする人を見てきた」

シンさんはイギリスで進歩的なシク教徒組織のトップを務めているが、シンさんを真の実践的シク教徒とはみていないコミュニティーも存在する。単にターバンを巻き、シク教の一部分に従っているだけだと。

「私の信仰は、人生の浮き沈みの中でも一貫している。信仰を捨てることはないが、自分のセクシュアリティーを恥と思うこともない」とシンさんは話した。

シンさんが声を上げた理由のひとつに、シク教徒に同性愛者のロールモデル(模範となる人物)がいなかったこと、特にパートナーがいたり、宗教心が強いと感じている人物がいなかったことがある。一方で、自分は比較的、恵まれた状況にいるとも感じているという。

「悲しいことに、同性愛者だと明らかにしたら家族から蹴りだされたシク教徒を知っている。ほかにも殴られたり、小児性加害者だと言われたり、多くの中傷を受けた人たちがいる」

「ターバンを巻いた家族からこうしたふるまいを受ければ、その行為と信仰がイメージとしてつながる。こうした経験から、ターバンを巻いている人とオープンに話すことすらできなくなるかもしれない」

Jasvir Singh in traditional Sikh clothing
画像説明, シンさんは自分が声を上げたことで、他の人々が自分自身に誇りを持てるようになればいいと話す
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シンさんは自分が声を上げたことで、他の人々がその人自身に誇りを持てるようになればいいと話す。

シンさんは、イギリスのシク教コミュニティーでは理解や受容が深まっていると言う。また、自身がある程度の反発を受ける覚悟がある一方で、誰かからうれしい驚きを得たいとも願っている。

「結婚式の動画が流出してSNSで奇跡的に拡散されたのを見て、ある高齢の親戚は初めて、私が同性愛者だと知った」

「彼女は90代だが、他の家族に『彼が幸せなら私も幸せだ』と話したそうだ。みんながここから学ぶことがある」