【分析】 南北共同連絡事務所の破壊、北朝鮮の狙いとは

Barbed-wire fence is seen at the Imjingak Pavilion, near the demilitarized zone (DMZ) on June 16, 2020 in Paju, South Korea.

画像提供, Chung Sung-Jun

画像説明, 非武装地帯(DMZ)近くの韓国・坡州にある臨津閣公園には有刺鉄線が設置されている(6月16日撮影)

北朝鮮が16日午後、南北共同連絡事務所を破壊するという脅しを完全に実行し、世界中で警戒が高まっている。

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は2018年、関係を改善しようと会談を行った。連絡事務所の設置は、この会談後の相次ぐ融和政策の1つだった。

両国は法的には、まだ戦争状態にある。

ドナルド・トランプ米大統領と金委員長の2019年会談を経て、北朝鮮が核兵器開発を放棄するのではないかと期待が寄せられていた。しかし、大々的に報じられた数回の米朝首脳会談からは、何も生まれなかった。

ここ数カ月間では、感染者は1人も出ていないと主張する北朝鮮国内の新型コロナウイルス感染の実態や、同国の経済状況をめぐり、様々な憶測が飛び交っている。

金氏の健康状態についてのうわさや、いざとなれば妹の金与正(キム・ヨジョン)氏が後任となるための準備が進められているのではないかといううわさも、しきりに渦巻いている。

では、なぜ北朝鮮は今このような行動に打って出たのだろうか。そして、これは何を意味するのだろうか。

私たちは、複数の北朝鮮ウォッチャーに急きょ、分析を依頼した。

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<分析>「北朝鮮が危機的状況を作り出そうとしているのかもしれない」――アンキット・パンダ、「Kim Jong Un and the Bomb: Survival and Deterrence in North Korea(金正恩と爆弾:北朝鮮における遺物と抑止力)」著者

初の南北首脳会談(2000年6月)から20年を迎えた直後に、共同連絡事務所が破壊された。南北の連携が過去にいかにうまく行かなかったか、2018年の進展がいかに急速にほころびつつあるのか、はっきり示す出来事だ。

北朝鮮側は、脱北者団体による活動(北朝鮮批判のビラ散布)が今回の決定の直近の原因だとし、連絡事務所を破壊するときわめて明確に通達していた。

私たちは今後数日のうちに、北朝鮮によるほかの措置を見ることになるかもしれない。挑発的な軍事演習や韓国領内に向けた砲弾の実射、あるいは2018年9月の軍事分野における南北の包括的合意を覆す措置などを。

一方で、こうした挑発行動の裏にある戦略的目的がどうかというと、多くのことが不明なままだ。北朝鮮は、4月の韓国総選挙で圧勝した文大統領に南北の経済協力事業の推進を促すため、危機的状況を作り出そうとしているのかもしれない。

これとは別に、今回や今後の挑発行為は、金正恩氏の妹・与正氏の正統性を補強しようという、北朝鮮国内の動きに関係するのかもしれない。先週末に共同連絡事務所の破壊が差し迫っていると宣言したのは、与正氏だったので。

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<分析>「金正恩氏の妹が中心になっている」――アンドレイ・アブラハミアン、ジョージ・メイソン大学(韓国・仁川校)教授

North Korean leader Kim Jong Un (L), alongside Kim Yo Jong, his sister and a senior official of the ruling Workers' Party, attends a meeting with South Korean President Moon Jae In

画像提供, Kyodo News

画像説明, 金与正氏(右)は正恩氏の後継者なのだろうか?

北朝鮮が韓国から譲歩を引き出したがっているのではないか、長距離ミサイルの実験をせずにアメリカの注意を引き付けたいのではないか、あるいは緊急会談を正当化するための序曲として危機的状況を作りたいのではないか――などの憶測がこの1週間で浮上している。こうして戦略的に説明しようとする説は、どれも全面的には納得できない。

北朝鮮の対外的な選択の多くは内政に関係するものだ。私たちは決して、何が起きているのか正確に把握することはできない。

金正恩氏の妹がこの緊迫状態の中心にいる。それはつまり、北朝鮮の敵に厳しい態度で臨める人物としての、与正氏の評価を磨き上げようとしているのかもしれない。

与正氏はそもそも、2018年の南北和解に密接に関係していた。与正氏を軽んじるなというメッセージを北朝鮮指導部は国内に向けて発信しており、国際社会もまたそのメッセージを受けとっているわけだ。

「韓国の文大統領がアメリカと手を切り、代わりに南北協力事業を推進する」という期待を北朝鮮が本当に諦めたのなら、おそらく失うものはほとんどないと考えているのだろう。

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<分析>「北朝鮮はトランプ氏に裏切られたと感じている」――ヴァン・ジャクソン、「On the Brink: Trump, Kim, and the Threat of Nuclear War(崖っぷち:トランプ、金と核戦争の脅威)」著者

North Korean leader Kim Jong Un and U.S. President Donald Trump inside the demilitarized zone (DMZ) separating the South and North Korea on June 30, 2019 in Panmunjom, South Korea

画像提供, Handout

画像説明, 2019年6月30日、トランプ米大統領は金委員長に招かれるかたちで北朝鮮側に足を踏み入れた。 この歴史的瞬間を境に事態は悪化した(南北軍事境界線のある板門店で撮影)

連絡事務所への攻撃の背景には、重なり合う3つの要素があるようだ。1つ目はトランプ米大統領との会談が失敗に終わり、北朝鮮指導者の金正恩氏が裏切られたと感じたことだ。金氏は懲罰的な経済制裁からの解放を確保できることを期待して米朝会談に臨んだが、何も得られなかった。

2つ目は、COVID-19(新型コロナウイルスの感染症)による中国との貿易制限と、制裁圧力の最大化を求めるアメリカの働きかけが増大したことによって北朝鮮経済がひっ迫し、制裁解除の必要性が高まったことだ。

そして3つ目は、金正恩氏の妹を正真正銘の権力者として確立する過程の途中にあり、北朝鮮のエリート層と軍国主義の古い世代の両方に、彼女の強さや能力を示す必要があることだ。正恩氏の体調不良を考慮して、後継者として与正氏を育てているのかは不明だ。

韓国を標的にするのには戦略的な理由がある。アメリカを直接攻撃すれば争いが激化する危険があるため、北朝鮮は戦争を引き起こす可能性がより低い、脆弱な標的として、韓国に狙いを定めたというわけだ。