【世界を揺るがす】 未来の交通はどうなる オンデマンド、シェアリング、全統合と全自動

マシュー・ウォール

Disruptors

運転手のいない自動運転車、相乗り(ライドシェア)の普及、交通システムの統合推進で、私たちの移動の仕方は変わるのだろうか。

今後数十年の間に、私たちが動き回る形は劇的に変化する。

自由と自律の夢あふれる象徴だった自家用車は、成功しすぎた。おかげで都会も郊外も道路は渋滞し、大気汚染は進み、私たちの健康は危険にさらされている。

米コンサルタント会社、シリコン・バレー・モビリティのスヴェン・バイカー氏が言うように、「牛乳をちょっと買うだけのために、全員が重さ2トンの車両に乗り込むなど、もはや持続不可能」なのだ。

世界の人口が増え続け、都市部とその周辺の人口が増え続ける今、人間の移動手段について急ぎ再考しなくてはならない。

動画説明, 【世界を揺るがす】2050年にはすべての車が自動運転に?

「移動の未来は今より自律性が増し、電気への移行が進み、連携と共有が進む」と、仏自動車大手ルノーのチーフデザイナー、ローレンス・ヴァン・デン・アッカー氏は言う。

大半の業界関係者は同意見だろう。加えて「統合とシームレス化が進む」と、付け加える人もいるかもしれない。自転車や徒歩というのも、大事な移動手段なのだと。

私たちの移動方法の変革は必要不可欠だ。主な動力は自動運転技術と電気になりそうだ。それでもなお、個々の移動手段をどうやって利用して所有するのか、都会と農村部で移動手段をどう共有するのか、今も激しい議論が続いている。

たどり着きたい目標の場所は見えていても、そこまでどうやって行ったらいいのか、行き方がまだ分からないのだ。

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オンデマンド・バス

動画説明, 【世界を揺るがす】オンデマンドの全自動バスがお出迎え すでに導入

スイス・シャフハウゼンでは、小さいシャトルバスが風光明媚なノイハウゼン・アム・ライフンファルをちょこまか移動して回り、地元の交通をかいくぐりながら乗客を乗せては下ろしている。

しかしこのバスには運転手がいない。それどころか、ハンドルさえない。

乗っている職員は運転手ではなく、乗客の質問に答えたり、一時的な道路工事など不測の事態にリモコン操作で対応できるよう、「顧客対応」スタッフだ。

「自動運転車はすでに実用可能で、これは未来プロジェクトではない。それを世界に示したかった」。バス運行会社、トラピーズ・スイスのペーター・シュネック最高経営責任者はこう話す。

「今の公共交通には、盲点がある。自宅から最寄りの交通ハブまでの移動に使える、公共交通の手段がないからだ。それだけに、我々のサービスは世界を揺るがす」

「移動行程の最初の1キロと最後の1キロについて、公共交通を強化するという発想だ。スマート化した街なら、マイカーが不要になる」

ほかにもノルウェーやスペイン、アメリカ、イギリス、イスラエル、シンガポールなど世界各地で、同じように運転手のいないバスやシャトルが運行している。

シュネック氏は、いずれ都会だけでなく農村部でも個人がオンデマンドで自動運転バスを自宅まで呼べるようになるという未来図を描いている。

「公共か私用かは別にして、こうした自動運転車両がいずれは自宅と交通ハブをつなぐ移動手段になる」と、ボッシュ英法人で移動ソリューションを担当するアルン・スリニヴァサン氏は話す。ドイツの自動車部品メーカー、ボッシュは数十年前から、自動車部品やソフトウェアを作ってきた。

「都市交通の根幹は、大量移動を担う公共交通だ」

渋滞のない世界をつなぐ

動画説明, 【世界を揺るがす】 すべての交通機関をアプリひとつで

都市を動き回るとき、運行会社同士が連携できていないと、非常にいらいらさせられる。私たちはできるだけ簡単にA地点からB地点へと移動する方法を知りたいのだ。どこで何に乗ればいいのか。徒歩なのか自転車なのか、電気スクーターなのか地下鉄なのか、バスか電車か、レンタカーかタクシーか。それとも移動手段をいくつか、もしくは全部、組み合わせた方がいいのか。

昔は、そんなことは分かりようもなかった。データがなくて。しかし今では分かる。スマートフォンが使えれば、最適な移動方法は可視化される。

「交通渋滞のない世界を想像している」と、ダニエラ・ゲルト・トム・マルコッテンさんは言う。独シュツットガルトにあるムーヴェルの最高経営責任者だ。ムーヴェルは独自動車・トラック大手ダイムラーの子会社で、統合された交通アプリを提供する。

「ムーヴェルはワンストップ移動アプリで、検索・予約・決済のすべてがひとつのアプリでできる」

ムーヴェルはチケットを売るたびに手数料を得る。運行各社がサービスを統合し、いずれはリアルタイムのデータ共有に移行するようになるまでには、まだかなりの努力が必要だと、ゲルド・トム・マルコッテンさんは認める。

「一番の便利で最適な解決方法を提供して、都会を変身させたい。人はもう自家用車を持つ必要がなくなる」

競合相手には、30都市以上で使えるシティマッパーのほか、ヘルシンキとバーミンガムとアントワープで試験中のフィンランド製「包括的多モード交通アプリ」の「Whim」がある。あるいは、フィンランド製の「Kyyti」や、中国の「DeerTrip」などだ。

「世界中の人がどうやって動き回っているのか、前と違って大量のデータが手に入るので、移動手段の改善方法も分かるようになる」と、ボッシュのスリニヴァサンさんは言う。

スクーター・キッズ

動画説明, 【世界を揺るがす】短距離移動にはレンタル電気スクーターが人気

交通手段の種類も増えている。米カリフォルニア州を始め世界各地の都市では、電動スクーター(座るタイプも立つタイプも)が新しく流行中だ。

ロサンゼルスの南カルフォルニア大学に通う学生のアリエル・スミスさんは、座れる折りたたみ式の「Urb-E」電動スクーターのおかげで、「生活がすっかり変わった。ほかのどの通学手段よりも便利で。自宅から教室に行くまですごく時間が節約できて、おまけに汗だくにならないで済む!」と話す。

「Lime」や「Bird」といった自転車やスクーターのベンチャー企業はわずか数年で、資金力を驚くほど増やした。自宅と交通ハブの間の数キロを、手軽にオンデマンドで移動する便利な手段を、消費者や大歓迎して活用しているからだ。

配車アプリ「ウーバー」も「Lime」と「Bird」に目をつけ、Limeには投資もした。

Limeのテーマは「アーバン・エンパワーメント」、都会生活者に力を与えることだと共同創設者、カーン・コンティーさんは言う。そしてそのためには、都市の交通システムの統合が必要だと。

Limeはパリその他の主要都市で、GPS付き電動スクーターを展開している。「いつでも好きな時に使って、使った時間の分だけ払えばいい」。

スクーターがどこにあるか見つけてロックを解除するのは、アプリでできる。利用者は好きな場所で降りればいい。ただし、責任ある行動を奨励するために、降りた場所の写真を撮る必要があるが。

コンティーさんによると、スクーター移動の4割は交通ハブが起点もしくは終点となる。そして移動距離はほとんどが2キロ未満だ。

乗り物を共有するこうしたオンデマンドのサービスが普及すれば、「街を走る車両の数がかなり減る」ことになるし、そうすれば環境や安全にとってもプラスになると、コンティーさんは言う。

「究極的には、電気こそ未来だと信じている。そして共有こそ未来だと。使わずにおいてあるだけの車など必要ない」

「Urb-E」の共同創設者で最高経営責任者のピーター・リーさんも、電動スクーターは「あまりに持ち運びが簡単」なので、普及すれば公共交通機関の利用率も上がるはずで、環境にとってプラスだと強調する。

しかし、すべての都市が電気スクーターの走行を認めているわけではない。歩道でも車道でも。交通規制は技術革新に遅れをとっているのが実情だ。

加えて、わずかな不心得者のせいで事故や負傷が起きれば、たちまち電気スクーター批判と反発が起きてしまう。そのことはコンティーさんも重々承知で、だからこそLimeは「しっかり乗るように」と強調しているのだ。

自動車の幕は閉じる?

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だとすると、伝統的な自家用車は(電気自動車も含めて)先行きがあやしいのだろうか。

マイカーを買う人は減っている。エンジニアリング会社ボッシュは、世界全体の新車販売台数は数年の内に年間1億台でピークを迎えると考えている。特に若者は、マイカー以外の移動手段と連絡手段を選ぶようになるだろうと。

「世界は共有(シェア)する時代に向かっている」とスリニヴァサンさんは言う。「9割の時間は動かずそこにあるだけの車を、金を払って手に入れる必要がどこにある?」。

コンサルタント会社デロイトによると、自動車シェアは近年で2ケタ成長を続けている。調査会社バーグ・インサイトによると、世界全体の登録者数は2017年の1930万人から2022年には5200万人近くまで伸びている見通しだ。

「1台あたりの平均乗車人数は1.4人」だと、シリコンバレー・モビリティーのスヴェン・バイカーさんは言う。

「それが2人にまで増えれば、移動回数の半分近くを節約できる」

電気自動車や自動運転車は、A地点からB地点までの移動手段のひとつに過ぎない、そういう段階が来れば、もはや私たちはブランドや性能を気にするだろうか? 既存の自動車メーカーは、ウーバーやグーグル、アマゾンなどのIT企業と競争することになるのかもしれない。

自動車はステータスシンボルではなくなり、単なるオンデマンドの公共財になるというのが、この議論だ。一方で既存の自動車メーカーは過去何十年もの間、自分たちのブランドの評価を確立するために、マーケティングに何十億ドルもの予算をかけてきた。それだけに、自動車の社会的意味の変質は、自動車メーカーにとって大きな課題となる。

米自動車大手フォードはすでに、北米で販売するモデルのほとんどを製造中止にし、ハイブリッド自動車への投資を増やし、2種類のモデルに集中する方針だ。

カーシェア企業に投資する自動車メーカーも出ている。たとえば、ダイムラーはCar2goを、BMWはDriveNowとReachNowを、ゼネラルモーターズはMavenをそれぞれ傘下に持つ。また、ダイムラーとBMWは規模の経済実現のため、自分たちのカーシェア事業を統合しつつある。

同時に、自動車メーカーは利用者のニーズに対応した未来型の自動運転車を提供することで反撃に出ている。ニーズとはたとえば、睡眠や仕事、映画や音楽鑑賞などだ。

ルノーの自動運転コンセプトカー「EZ-Ultimo」は、居心地のいい繭(まゆ)のような乗り物だ。可動式の安楽椅子は対面式で、大理石やクルミ木材などの素材が社内の高級感を高める。

「これは居間、自宅の延長です」と、ルノーのチーフ・デザイナー、ローレンス・ファン・デン・アッカーさんは言う。

ルノーは2022年までにもっと機能性の高い「ロボット乗り物」を、登場させる方針だという。

ボルボのコンセプトカー「360c」は、利用者のニーズに合わせて、モバイルオフィスにもパーティースペースにも睡眠ポッドにもなる移動手段を目指している。

「自動運転車の先を行き、議論のきっかけを作りたかった」と、製品戦略担当のマルテン・レヴェンスタム上級副社長は話す。

自動運転の未来を推進する人たちは、自動運転技術によって渋滞と事故が減るだけでなく、私たちは移動中の時間をもっと有意義に使えるようになると主張する。本を読んだり仕事をしたり、音楽を聴いたり、眠ったり、家族や友達とおしゃべりしたり。

ビジョン対現実

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しかし、先走りすぎるのは良くない。ボッシュのスリニヴァサンさんは、自動車だろうがバスだろうが、完全な自動運転車が実現するのは「少なくともまだ10年先のことだ」と釘を刺す。

自動運転車が周囲の状況を把握するには、無数のセンサー(光を使うライダー、レーダー、ビデオ、赤外線カメラなど)が必要だが、今はまだ完全な信頼性を確立していないと、スリニヴァサンさんは認める。特に悪天候では。

何より、何かが故障した場合に備えてバックアップ体制を完備するとなると、費用がかかりすぎる。業界はこれを余剰分と呼び、コスト増につながる。

「最上級の安全なセンサーを活用できるのは、ごくわずかな高級車種になってしまう」とスリニヴァサンさんは言う。

加えて、自動運転車が作り出すデータは誰のもので、事故の場合は誰に責任があるのかなど、様々な現実的な問題もたくさんある。

実用化の前にはこうした諸問題の解決が必要で、疑い深い世間を説得しなくてはなない。

しかし、完全に統合された持続可能で効率的な交通システムのビジョンは、徐々に形になりつつある。私たちが暮らす世界は近い内に、様々な移動手段があり、自動車が主要な移動手段ではない場所になるのかもしれない。

(英語記事 The Disruptors: On the Move

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(DXCテクノロジーと共同企画記事)

記者:マシュー・ウォール

シリーズ・プロデューサー:フィリパ・グッドリッチ、ベン・キング

撮影:フェイビアン・チョーンディ、コーディ・ゴッドウィン、ローリーン・キャスヴィル、クリス・フォックス

製作:ヒュー・スコフィールド、デイヴィッド・キング

デザインー:ローラ・フルウェリン

写真:Lime、Urb-E、ルノー、BBC

編集:ロブ・スティーヴンソン

編集長:メアリー・ウィルキンソン

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