【解説】 BBCの「地殻変動」 会長ら辞任で上層部の亀裂あらわに

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ケイティー・ラザル文化・メディア編集長
これは地殻変動だ。BBCの会長とニュース部門トップの最高経営責任者(CEO)を同時に失うなど、前例がない。BBCの歴史において、極めて異例の瞬間だ。
その影響は過小評価できない。
表向きは、ティム・デイヴィー会長の辞任はある程度、理にかなっている。
デイヴィー氏はこの重圧のある職に自分がいつまでとどまりたいのか、自問自答しているのではないか――。私は以前から、そう思っていた。
今年に入り、物議をかもすさまざまな問題が積みあがる中で、私は何度か彼をインタビューした。彼は普段、「くまのプーさん」に登場するティガーのようなエネルギッシュな人だ。しかし、私がインタビューした時は、様子が違った。
辞任声明の中で彼は、「この激動の時代に長年にわたりこの役職を担うことは、個人的にも職業的にも負担が非常に大きい」と述べた。
両氏の辞任は、ドキュメンタリー番組「パノラマ」について、連邦議会襲撃事件の前のドナルド・トランプ米大統領の演説に対する編集によって、視聴者に誤った印象を与えたと批判されたのを受けたもの。
デイヴィー氏はすでに、パレスチナ・ガザ地区に関する2本のドキュメンタリーをめぐる問題や、英パンクデュオ「ボブ・ヴィラン」が物議をかもすパフォーマンスを見せた音楽祭「グラストンベリー・フェスティバル」の生中継をめぐる危機的状況に直面していた。
そうした中で、また新たな論争が勃発し、彼はもう手に負えないと感じたのかもしれない。もう一度戦えるほどの余力が、彼には残っていなかったのかもしれない。私はそう見ている。
BBCの元広報責任者ジョン・シールド氏は私にこう言った。「BBCの会長職は、公人として最も難しい仕事の一つ」だと。
「(デイヴィー氏にとって)容赦ない状況が続いていた。彼はとても有能なリーダーで、真の変革を推進してきた人物だ。だがある時点で、それは持続不可能な消耗戦になってしまう」
デイヴィー氏は週末にかけて、辞任するという決断を同僚たちに伝えたようだ。本当に大きな衝撃が走ったと、私は聞いている。
一方で、ニュース部門トップのデボラ・ターネスCEOは声明で、原理原則のために辞任するのだと明確に説明している。ターネス氏は、「パノラマ」の論争が「BBCに傷をつけてしまう段階に達した」、「責任は私にある」とし、「昨夜(8日夜)、会長に辞任を申し出ると決断した」と説明した。
しかし、どんな辞任にも言えることだが、こうした表向きの理由以上の何かがあるのではないかと考えずにはいられない。まして、2人同時となればなおさらだ。そして、BBC理事会の機能や構成、今回の出来事における役割について、別の話も浮上している。
理事会とニュース部門の亀裂
理事会とニュース部門の間には、以前から亀裂が生じているようだ。BBCはあまりにも長い間、組織的な偏向に対処してこなかったと主張する者もいれば、今回の事態はBBCを標的にした組織的かつ政治的なキャンペーンで、大物2人が犠牲になったのではないかと見る向きもある。
BBCの組織的な偏向疑惑については、英紙テレグラフ紙が最初に報じた。それから約1週間の間、BBCは組織的に偏向していると主張する、BBCに損害を与えかねない見出しがあふれ返った。こうした事態になぜBBCが積極的に対応しないのか、私には理解できなかった。
BBCをめぐる二つの問題は、切り離して考える必要がある。
一つ目は、「パノラマ」番組でトランプ氏の演説を編集した問題だ。この問題には即座に対応すべきだった。すぐさま謝罪をするか、あるいはトランプ氏の発言について誤った印象は与えていないとBBCが考える根拠を示すべきだったのだ。
そうすれば、BBCは自分たちのジャーナリズム全般について闘うことができたはずだ。というのもBBCは、組織的な偏向や公平性の欠如を非難されていたのだから。これは忘れてはならない。この非難は、BBCの報道活動の核心に切り込むものだった。
「パノラマ」での誤りについて謝罪(あるいは強力な反論)をしていれば、組織的な偏向があるとするほかの主張に異議を唱えることもできたはずだ。
BBCは編集上の公平性を確保するため、すでに措置を講じているとも主張できたはずだ。テレグラフが記事にしたBBCの内部メモでは、BBCアラビア語によるイスラエル・ガザ戦争報道における偏向の「体系的問題」について、対応がないと懸念が示されている。しかし、実際にはすでに対応しているとも反論できたはずだ。
ところが、BBCは問題を放置した。そして結果的に、トランプ政権がBBCを「フェイクニュース」と呼んで一定の支持を得る事態に至った。
BBC内部の複数の消息筋によると、「パノラマ」での編集に関する声明は数日前から準備されていた。
BBCはトランプ氏の演説の編集について、視聴者を誤解させる意図はなかったものの、改めて検証した結果、二つの別々の発言をつなぎ合わせたものだと明確に示すため、カットの切り替えを示すホワイトフラッシュやワイプを入れるべきだったと考えていると、そう説明する予定だった。
消息筋の話によると、ターネス氏は週末に近づくにつれ、怒りやいら立ちを募らせていた。準備していた謝罪文の公表を、理事会に阻止されたからだという。
理事会は謝罪文ではなく、英下院の文化・メディア・スポーツ委員会に書簡を出すことを選んだ。
(私が話を聞いたほかの人たちは、実際の状況は上記の描写ほど単純なものではないと話す。ニュース部門の幹部が「パノラマ」の編集ミスを認めるまでに時間を要し、対応策について各方面で議論が交わされていたのだという)

BBC内外では多くの人が、BBCが対応しなかったのは重大な過ちだと考えている。疑惑をめぐるテレグラフによる断片的な報道はBBCに損害を与え続けた。そしてBBCは、真正面から取り組まなかった。
ターネス氏は6日、テレグラフ報道をめぐる危機的状況について議論するため理事会に出席した。「徹底的に批判」されていたと、一部の関係者は私に話した。
BBCのジャーナリズムを疑問視する人々は、これは説明責任をとらされたのだと言うだろう。
しかし、別の情報筋は、ターネス氏に対して理事会が6日に繰り広げた叱責は、「同じ政治的傾向を持つ理事会メンバーと顧問たちが、BBCのジャーナリズムをこの2年間、執拗(しつよう)に批判し続けたこと」の集大成だと形容した。
消息筋はいずれも、BBC理事の一人、ロビー・ギブ氏の名前を挙げた。ギブ氏は、BBCのさまざまな政治番組の編集長からテリーザ・メイ元首相の官邸広報部長に転じた後、BBC理事になった。
英大衆紙サンの元編集長で、現在はBBC司会者のデイヴィッド・イェランド氏は、これは「クーデター以外の何ものでもない」と話す。BBC理事会が弱体化し、「理事会に近い勢力が、BBCに敵対的な新聞編集者や元首相、公共放送の敵と連携している」とした。
一方で、サンの元編集長ケルヴィン・マケンジー氏は、まったく別の意見だった。マケンジー氏はBBCニュースチャンネルで、辞任は「正しい判断だった。この問題は時間がたてば消えるというものではない」と述べた。
「パノラマ」による演説の編集は、トランプ氏が訴訟を起こしたり、BBCがホワイトハウスから締め出されたりする事態を招きかねなかったと、マケンジー氏は述べた。「(米大統領の演説についての報道が)信頼できないなら、ほかの何を信頼できるというのか」。
9日には、トランプ氏自身がこの議論に初めて加わった。2人の辞任を歓迎したうえで、自分の演説をBBCが「改ざん」して「大統領選のてんびんに介入しようとした」と非難する内容を、自分のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に投稿した。
デイヴィー氏の声明の一文が、私に深い印象を残した。会長はBBCについて、こう述べている。「我々はBBCを擁護すべきであって、武器化すべきではない」。
しかし、一部からはこうした声が上がっている。会長とニュース部門のCEOの2人の辞任は、BBCが武器として利用されていることを示しているのではないかと。












