即時停戦の決議案にアメリカが拒否権発動 国連安保理

国連安全保障理事会(8日、ニューヨーク)

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国連安全保障理事会は8日、パレスチナ自治区ガザ地区での人道目的の即時停戦を求める決議案の採決を行ったが、常任理事国のアメリカが拒否権を行使したため、決議案は否決された。イギリスは採決を棄権。その他の13カ国は賛成票を投じた。

アメリカは、決議案は非現実的で不十分だったとして拒否権の発動を擁護したが、中国とロシアはアメリカの判断を非難した。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は7日、国連憲章99条を発動し、安全保障理事会に対してガザ地区での人道的停戦を宣言するよう要請した。グテーレス氏が99条を発動したのは、2017年に事務総長に就任して以来初めて。

国連憲章99条は、「事務総長は、国際の平和及び安全の維持を脅威すると認める事項について、安全保障理事会の注意を促すことができる」と定めている。

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これを受け、アラブ首長国連邦(UAE)が決議案を策定・提出した。決議案は国連加盟国97カ国が支持を表明していた。

可決には少なくとも9カ国の賛成と、常任理事国のアメリカ、ロシア、中国、フランス、イギリスが拒否権を発動しないことが必要だった。

投票に先立つ議論でグテーレス事務総長は、「ガザの人々は奈落を見下ろしている」と述べ、国際社会は「できる限りの方法で、彼らの苦難を終わらせなければならない」と強調した。

また、イスラエルの隣にパレスチナ人の独立国家を作る「2国家共存構想」が「平和な未来を作る唯一の有効な可能性だ」として、「世界中の目が、そして歴史の目が見ている。行動の時だ」と強く促した。

安保理でグテーレス国連事務総長は、即時停戦の必要性を訴えた(8日、ニューヨーク)

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一方でグテーレス氏は、10月7日のハマスの攻撃を「全面的に非難」し、ハマスに連れ去られたイスラエル人の人質の即時解放を求めた。

その上で、「同時に、ハマスによる残忍な行為は、パレスチナ人への集団的懲罰を決して正当化できない」と結んだ。

「決議案は非現実的」とアメリカ、イギリスも呼応

アメリカのロバート・ウッド国連代理大使(8日、ニューヨーク)

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アメリカの代表は、「残念ながら、我々の勧告はほとんどすべて無視された」、「この性急なプロセスの結果、現実からかけ離れたバランスのかけた決議案が提出された」と、拒否権発動の理由を説明。

特に、決議案が「無条件停戦」を求めている点が最も非現実的だと指摘し、「これではハマスが自らを立て直し、10月7日と同じことを繰り返すようになる」と述べた。

また、ハマスによる10月7日のイスラエル襲撃について、自分たちが求めた非難の文言が含まれていないと指摘した。

その上でアメリカとしては、「次の戦争の種をまく」だけの「持続不可能な停戦」を支持できないと述べた。

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投票を棄権したイギリスの代表も、10月7日のイスラエル人に対するハマスの残虐行為を非難しない決議案に賛成することはできなかったと、アメリカに呼応。「イスラエルはハマスの脅威に対処する必要がある」と述べたうえで、イスラエルは国際法を順守しなければならないと付け加えた。

また、パレスチナ人への援助と、ハマスに拘束されているイスラエル人の人質を解放するために、より長い人道的な戦闘休止をさらに行うべきだとした。

一方、アメリカの拒否権発動を受け、決議案を提出したUAEの代表は、人道的停戦を要請できなかったことに「深く失望した」と述べた。

さらに、「同じような状況」に置かれている世界中の市民に対して、自分たちはどのようなメッセージを送っているのかと問いかけた。

中国代表は、民間人の命に配慮しながら停戦草案への支持を拒否するアメリカを「自己矛盾」と非難。ロシアの代表もアメリカは「無情」だと述べ、停戦決議への反対はパレスチナ人への「死刑宣告」だと指摘した。

フランス代表は、ガザで起きている「人道的悲劇」と呼ばれる事態を「非常に憂慮している」ため、決議案に賛成したと発言。「テロとの闘いと、国際人道法を厳格に尊重した民間人の保護に矛盾はない」とした。

パレスチナ大使「歴史の転換点」、イスラエル大使は米政府に感謝

パレスチナ自治政府のリヤド・マンスール国連大使(8日、ニューヨーク)

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パレスチナ自治政府のリヤド・マンスール国連大使は、決議案の否決は「残念という言葉を超えたものだ」と話した。パレスチナは国連で、「オブザーバー国家」の資格を持つ。

「これは真実の瞬間だ」、「これは歴史の転換点だ」と、マンスール大使は述べた。

また、自分が「重大な危機」と呼ぶ事態を前にして、安保理はその責任を果たせなかったのだと指摘した。

「数百万のパレスチナ人の命が瀬戸際にある。その一つ一つが神聖であり、助けるに値するものだ」

マンスール氏は、イスラエルは「残虐行為によって」戦争を行っており、「明日の今頃にはさらに何百人もの人々が殺されているだろう」と語った。

「子どもたちは殺され、孤児となり、傷つき、障害者として一生を過ごす。偶然ではなく、(イスラエルによって)意図的に。殺人者たちは、パレスチナ人の命などまったく考えていないので。ゆりかごから墓場まで、そしてその先まで」

この日の最後の演説者だったマンスール氏は、「安保理にとってひどい日だった」と述べ、「人間性が勝利しなくてはならない」としめくくった。

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一方、イスラエルのギラド・エルダン国連大使は、拒否権の発動についてジョー・バイデン米大統領に感謝した。

イスラエルのギラド・エルダン国連大使(8日、ニューヨーク)

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ソーシャルメディアへの投稿でエルダン氏は、「今日、我々の側にしっかりと立ち、リーダーシップと価値観を示してくれたアメリカとバイデン大統領に感謝する。このハヌカの祝日に、少しの光がたくさんの闇を払拭した」と書いた。

エルダン大使は安保理での採決の前、停戦要請を断固として拒否すると発言。「停戦はハマスのガザ支配を強固にし」、「ハマスの意図的な残虐行為を許す」というメッセージを送るものだと述べていた。

また、「ハマスに軍事的圧力をかけなければ、どんなに外交を重ねても人質の解放を確保できない」としていた。

「アメリカの信頼損なわれた」と人権団体

アメリカの拒否権発動には、人権擁護団体から懸念の声があがっている。

ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)で国連代表を務めるルイス・シャルボノー氏は、「アメリカ自身がイスラエルとパレスチナの武装集団に要求してきたいくつかの要求」を、安保理が求めることを、アメリカの拒否権が阻止したと指摘。これには国際人道法の順守や民間人の保護、民間人の人質の解放などが含まれるとした。

また、「イスラエルがガザ地区でパレスチナ市民に集団的懲罰などの残虐行為を行うなか、武器や外交的援護を提供し続けることで、アメリカは戦争犯罪に加担する危険を冒している」と述べた。

国際NGOオックスファムのアメリカ支部は声明で、バイデン政権は、「人権とルールに基づく国際秩序を支持するという高邁(こうまい)なレトリックを実際に実現する」機会を逸したと指摘した。

また、拒否権を発動したことで、「人権問題におけるアメリカの信頼がさらに損なわれた」と述べた。

医療NGO国境なき医師団は、「これは人道に対する否決」だと述べた。

ガザ地区でイスラエル軍の攻撃続く

南部ハンユニスではイスラエルの空爆が続いている(8日)

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パレスチナ赤新月社(PRCS)はこの日、イスラエルの戦闘機がガザ地区南部ハンユニスにあるPRCS本部近くの住宅とアル・アマル病院を攻撃したと発表した。

ハンユニスには、紛争初期に北部から逃れてきたパレスチナ人が滞在しているが、このところ戦闘が続いている。

PRCSによると、爆撃によって「ガラスが割れたり、ドアや窓が壊れたりしたほか、PRCSの施設内に避難している市民1万4000人の避難民は極度のパニックに陥った」。

この攻撃で病院では数十人の負傷者と数人の死者が出たとしているが、具体的な数字は明らかにしていない。

BBCはこの主張を独自に検証・確認できていない。

BBCのラシュディ・アブアルーフ記者によると、ガザ地区北部ジャバリア難民キャンプでもイスラエル軍の攻撃が続いている。

地元のジャーナリスト、ホッサム・シャバト氏はソーシャルメディアに録音したメッセージを投稿。それによると、1万5000人が避難している同キャンプのシェルターが戦車に包囲され、攻撃された。また、3時間にわたって砲撃が続き、救急車が近寄れない状態だと報じた。

こうしたなか、ハマスの軍事部門アル・カッサム旅団は、イスラエル軍が行った8日朝に人質解放作戦を阻止したと発表した。人質となっていたイスラエル兵1人が、戦闘中に殺されたとしている。

BBCはハマスの主張を独自に検証・確認できていない。

ガザ地区の人道支援「機能していない」=国連機関

住宅のがれきの下から犠牲者を探すガザ地区の住民(中部ディール・アル・バラフ、8日)

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国連のマーティン・グリフィス事務次長(人道問題担当)は、ガザ地区における国連の人道支援プログラムが「もはや機能していない」と述べた。

「ガザ地区の人々に出口はない。そのため、未来への希望は、多く見積もっても希少だ」とグリフィス氏は指摘。安全な場所がないことが、人道支援活動にも影響を与えているとした。

「きょうガザ地区に人道支援物資を運ぼうと思っても、妨害されたり、攻撃を受けたり、盗難に遭ったり、阻止されたり、転用されたり、成功しなかったりする可能性が高い。それを考慮しなくてはならない」

グリフィス氏は即時停戦を求めると共に、ガザ地区の医療体制が破壊されば、病気の蔓延(まんえん)につながると指摘した。

「現在のガザには、黙示録の騎手が2人いる。一つはもちろん紛争だが、病気もある。病院への物資の供給や、安全な水の淡水化などが維持できないなか、この状況は悪化するだろう」

「(兆候は)すべて、進むべきでない方向に進んでいる」

先には、イスラエルがアメリカの要請を受け、南部ラファ検問所からガザに届けられる人道支援物資の審査と検査のために、ケレム・シャローム検問所の解放に同意したとの一報も流れている。

一方、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のトーマス・ホワイト氏は、ガザ地区で公共の秩序が壊れつつあると警告した。

ホワイト氏は、ガザ地区内では街の荒廃が進み、「特に日没後は、荒れている印象」だとソーシャルメディアに書いた。援助物資を運ぶ車列が略奪されたり、国連の車両が石を投げつけられたりしているという。

そのうえで、「社会は全面的な崩壊の瀬戸際にある」としながらも、「UNWRAは限られた支援物資を、住民に提供し続けている」とした。