アメリカの俳優労組がストライキ、過去43年で最大規模 映画イベントなどに影響も

Fran Drescher at the announcement of the SAG strike

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画像説明, 「映画俳優組合・テレビ・ラジオ芸術家連盟(SAG-AFTRA)」のフラン・ドレシャー会長がストライキを発表した

アメリカの俳優労組は米太平洋時間14日、ストライキを開始した。米ハリウッドでは、過去43年で最大規模のストとなる。労組は、動画配信大手や制作会社などに対し、利益の公正な分配と労働条件の改善などを求めている。

俳優労組の正式名称は「映画俳優組合-アメリカ・テレビ・ラジオ芸術家連盟(SAG-AFTRA)」。今回のストでは、SAG-AFTRAに所属する16万人に影響が出る。14日朝からは米カリフォルニアにあるネットフリックス本社前で、ピケが開始される予定。ピケッティングは映画制作大手パラマウント、ワーナー・ブラザース、ディズニー各社の前でも行われる。

SAG-AFTRAは13日にスト実施を発表。これに伴い、英ロンドンで行われていた映画「オッペンハイマー」のプレミア・イベントでは、出演俳優のマット・デイモンさんやキリアン・マーフィーさん、エミリー・ブラントさん、フローレンス・ピューさんらが退場した。

同作品のクリストファー・ノーラン監督は集まった観客に対し、俳優たちは「ピケッティング(スト破り監視・スト参加要請の行動)の看板を書くために去った」と説明。俳優たちを支持すると付け加えた。

Emily Blunt, Cillian Murphy and Florence Pugh

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画像説明, (左から)俳優のエミリー・ブラントさん、キリアン・マーフィーさん、フローレンス・ピューさんらは、ストライキ実施の発表と共に「オッペンハイマー」のロンドン・プレミアから退出した
Presentational white space

また、ストライキ実施の発表から数時間の間に、米ドラマ「ベター・コール・ソウル」主演のボブ・オデンカークさん、同「セックス・アンド・ザ・シティ」出演のシンシア・ニクソンさん、今年3月にアカデミー賞を受賞したベテラン俳優ジェイミー・リー・カーティスさんなど、SAG所属の俳優たちがインスタグラムでスト支持を表明した。

SAG-AFTRAがウェブサイトで発表したストライキ要請によると、対象には演技、歌唱、ダンスを行う人や、スタント・パフォーマー、人形を操る人、モーションキャプチャーに携わる人などが含まれる。また、エキストラ俳優や、宣伝業務に携わる人にも適用される。

SAG-AFTRAは12日に、大手制作会社らと合意に至れなかったと発表した。SAG-AFTRAの交渉委員会は満場一致でストライキを推奨した。

制作会社を代表する映画製作者協会(AMPTP)は、ストライキを非難。「ストライキはもちろん、私たちの望む結果ではない。テレビ番組や映画に命を吹き込むパフォーマーたちなしでは、制作会社は運営できないのだから」と述べた。

「労働組合は遺憾ながら、この業界に依存する数え切れないほどの人々を経済的に苦境に陥れる道を選んだ」

俳優労組の要求は

SAG-AFTRAは利益や労働条件の改善に加え、俳優の代わりに人工知能(AI)やコンピューターで生成された顔や声などを使わないよう企業に求めている。

AMPTPは、AI利用に対する懸念に対処するため、俳優のデジタル肖像権を保護し、デジタルの複製を使用したり、改変が加えられたりする場合に、俳優の同意を必要とするという「画期的な提案」を持ちかけたと述べた。

しかし、SAG-AFTRA側の交渉代表を務めたダンカン・クラブツリー=アイルランド全米理事は、この対案は受け入れられないものだと語った。

「AMPTPは、エキストラ俳優がスキャンされ、1日分のギャラをもらい、そのスキャン画像や肖像を、所属会社が所有し、永久に使用できるようにすべきだと提案している」と、クラブツリー=アイルランド氏は指摘。「それが画期的な提案だと思うなら、今一度考えてみてもらいたい」。

SAG-AFTRAはまた、配信各社に対し、基本出演料とレジデュアル(出演作品の再使用で発生する報酬)の引き上げを求めている。今回のストには、トップ俳優たちよりも少ない報酬しか受け取っていない、数万人の俳優が含まれている。

米映画誌「ハリウッド・リポーター」のキム・マスターズ編集長は、「かつての報酬の支払い方式では、俳優は(作品の)成功に応じてレジデュアルを受け取っていた」と説明。

「新しいモデルでは、配信各社が(視聴回数などを)共有しないため、俳優は舞台裏で何が起こっているのか知ることができない」

SAG-AFTRAはこのほか、在宅オーディションは出演者に不当なコストを転嫁しているとし、自主撮影オーディションへの規制強化を要求している。

SAG-AFTRAのフラン・ドレシャー会長は、このストは俳優にとって「非常に重要な時期」に行われると語った。

「我々に起きていることは、あらゆる労働市場で起きていることだ」

「雇用主がウォール街(金融市場)と金銭欲を優先し、業界を動かしている必要不可欠な貢献者のことを忘れている」

脚本家労組との「ダブル・スト」に

これとは別に、脚本家労組「アメリカ脚本家組合(WGA)」が労働条件の改善を求め、5月2日からストライキに入っている。WGAには1万1500人の脚本家が加入している。

一部の脚本家は、同労組とAMPTPとの契約対象ではない執筆プロジェクトに転向している。

Writer strike

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画像説明, 米脚本家労組は5月からストライキを継続している
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俳優労組と脚本家労組による「ダブル・スト」は、1960年以来初。この時のSAG会長は、後に米大統領となるロナルド・レーガン氏だった。アメリカの俳優によるストライキは、これまで1980年が最後だった。

SAG-AFTRAのストライキ突入発表に先駆け、ディズニーのボブ・アイガー最高経営責任者(CEO)はMSNBCに対し、俳優と脚本家の要求は実用的ではなく、新型コロナウイルス・パンデミックの影響から回復中の業界に損害を与えるものだと述べた。

「非常に不愉快だ」、「このような混乱に拍車をかけるのは、世界でも最悪のタイミングだ」、と、アイガー氏は述べた。

一方、「全米監督協会(DGA)」は6月に交渉を成立させ、ストライキには参加していない。

業界への影響は

ストライキ開始により、アメリカの映画・テレビ制作は停止を余儀なくされる。すでに脚本家らのストライキによって中止・縮小に追い込まれていた企画がさらに増えることになる。

制作が開始されている作品では、多くの業務が継続不可能になる。撮影が終わっている場合でも、再撮影などの映画制作の過程で必要な業務に、俳優が関われないことになる。

撮影中のテレビ番組も、俳優が出演できないために多くは撮影が中断される。ただし、パフォーマーと制作側との間で別途、契約が結ばれれば、業務継続は可能だ。

ハリウッドのトップ俳優らは、新作の宣伝イベントなどに参加できなくなる。エミー賞受賞式や「コミック・ブック・コンベンション(コミコン)」といった大型イベントも、延期か縮小となる可能性がある。

トロント国際映画祭やヴェネツィア国際映画祭などは予定通り行われるとされているものの、SAGに加盟している俳優は参加できない見込み。