英政府のパンデミック戦略、「完全に間違っていた」 元保健相が調査委で証言

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イギリスのマット・ハンコック元保健相は27日、英政府の新型コロナウイルス対策に関する調査委員会の聞き取りに対し、パンデミック戦略は「完全に間違っていた」と述べ、政府を批判した。
ハンコック氏は、新型コロナウイルスをめぐる計画は、ウイルスのまん延を食い止めることよりも、遺体袋の準備や遺体の埋葬方法に重点を置いていたと指摘。拡大を止められなかったのは「とてつもない」失敗だったとした。
調査委員会のヒューゴ・キース勅選弁護士による聞き取りに対し、ハンコック氏は「大惨事がもたらす結果に対処するために計画を立てることが、イギリスの姿勢・信条であるはずだった」と強調した。
しかし政府は、「十分な数の遺体袋を購入できるのか」や、「遺体をどこに埋葬できるのか」といった別の問題に集中していたと述べた。
「それは完全に間違っていた」
そして、一人一人の死について「深くおわびする」とした。
ハンコック氏は、自分の謝罪が遺族にとって受け入れがたいものであることは理解しているとしつつ、「偽りのない、心からの」謝罪だと述べた。
証言を終えると、数人の遺族の方に近づいたが、遺族はハンコック氏に背を向けた。
「世界最高のシステムだと確信していた」
キース勅選弁護士は、政府のパンデミック戦略に批判的なハンコック氏に対し、なぜ保健相だった時にそれを改めなかったのかと質問した。
「私は、自分たちには世界最高のシステムがあると確信していた。これが唯一の答えです」と、ハンコック氏は述べた。
「いまにして思えば、(新型ウイルスのパンデミック以前に)その短い期間を費やして、パンデミックにどう対応するのかという姿勢全体を変えておけばよかった」
ハンコック氏が、パンデミックの最中に医療やソーシャルケアに従事した人々を称賛すると、キース氏はこう例えた。「まさに、構造的なロバに率いられたライオン(第1次世界大戦下のイギリスの歩兵をライオンに、無能な指導者をロバに例えた表現)ですね、ハンコックさん。誰もが全力を尽くしていたのに、システムが目的に見合っていなかったのだと、個人的に思うのですが、どうですか?」。
「まったくその通りです」と、ハンコック氏は答えた。
そして、「保健省だけでなく、閣僚としての私に報告をしてきた機関も含めて、起こったすべてのことへの責任を私は負っている」と付け加えた。
ほかに何と
ハンコック氏によると、パンデミックのピーク時には集中治療用の医薬品が「数時間以内」に底をつく状態だったという。
そうならなかった唯一の要因は、 合意なしブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)に備えて2019年に進めた作業があったからだと付け加えた。
パンデミック初期に、新型ウイルスが初めて検出された中国・武漢から戻ってきた人を隔離しないという当初の勧告を覆す必要があり、西側諸国の誰もが、ロックダウンの必要性を見逃していたと、ハンコック氏は述べた。
また、世界保健機関(WHO)がロックダウンを行うべきではないと助言したことを批判。
「狂乱状態」だったが、中国からの入国者を隔離すべきでないという当初の勧告を「覆す」必要があったとした。
ハンコック氏はさらに、WHOが「国際保健規則に国境を閉鎖してはいけないとの文言を書き加えた」ことも非難。
大規模な接触者追跡システム「などが何もなかった」ため、大勢の人を検査する能力がなく、「ひどい」状況だったとも述べた。
介護施設に適切な保護措置があるのかどうか、政府がまったく把握していなかったことにも、「ひどい」という言葉を使って言及。政府はパンデミックが始まった際に、介護施設の入居者数すら知らなかったとした。

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一方で、ソーシャルケア分野のパンデミックへの備えについては、地方自治体に責任があるとし、自分には「行動する手立てがなかった」とした。
ハンコック氏は、2016年10月に、イギリスがインフルエンザのパンデミックにどれだけ備えているのかを調べる、3日間のシミュレーション「Exercise Cygnus」による勧告についても、繰り返し質問を受けた。
このシミュレーションは、イギリスの計画は「深刻なパンデミックで発生する極端な需要に対処する」のに十分なものではないと結論づけていた。
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調査委員会は、同シミュレーションを受けて提示された22の勧告のうち、新型ウイルスのパンデミック以前に完全に対処されたのは8項目だけだったことを確認した。ソーシャルケア部門の備えを含む残りの14項目については現在も取り組みが進められているという。
ハンコック氏は同シミュレーションについて、パンデミックとはそもそも食い止めたり封じ込めたりするのではなく「後始末」が必要な災害であるという、「中心的な前提」がある不完全なものだと述べた。
「政策面の欠陥ははるかに大きなものだった。インフルエンザのパンデミックが起きたとしても、問題が生じていただろう。ロックダウンの計画がなく、どのようにロックダウンを行うかという準備もなく、被害を最小限にするために何をどのようにロックダウンするべきなのかということにも取り組んでいないのだから」
「多くの人にロックダウンによる影響、マイナスの影響が及んでいて、その多くが今日まで続いていることを、私は深く理解している」
ハンコック氏によると、合意なしブレグジットに備えるため、「Exercise Cygnus」の一部作業は中断された。
ただ、仮にすべての勧告に対処していたとしても、イギリスが新型ウイルスに対処できるより良い環境をつくれていたという「確信はない」と述べた。
結果的に、「サプライチェーンの面でより良い準備ができた」だろうが、「全体的な影響」について判断するのは難しいとした。
「残念ながら、どういうふうになっていたのかを知ることはできない」
回答を求める遺族
ハンコック氏が会場に現れると、ローレライ・キング氏(69)は、亡くなった夫の写真をハンコック氏に見せた。
2枚のA4サイズの写真の1枚は、2020年3月に72歳で介護施設で亡くなった夫ヴィンセント・マルツェロ氏と、ハンコック氏が写っていた。
「あなたは写真を撮る時に私の夫と握手していた」と、黒のジャガーから降りてきたハンコック氏に声をかけた。
別の写真には、夫の棺が写っていた。

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ハンコック氏はこれに反応せず、建物に入っていった。
キング氏は、「介護施設が納骨堂と化してしまったのは、ウイルス検査がなく、十分な個人防護具(PPE)もなかったから。そしてなにより悲惨だったのは、入院患者にウイルス検査を行うことなく退院させたことだ」と記者団に述べた。
そして、ハンコック氏に調査に対して「真実を語る」よう求め、こう付け加えた。「遺族はそれだけの対応を受けるべきだ」。











