【解説】 米連邦下院の混乱、ウクライナや世界に与える影響は

アンソニー・ザーカー、北米記者

Ukrainian President Volodymyr Zelensky waits to speak at the US National Archives in Washington on 21 September

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画像説明, 米ワシントンの国立公文書館で演説に臨んだウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領(9月21日)

機能不全に陥っている米連邦下院で3日、歴史的な投票によってケヴィン・マカーシー議長(共和党)が解任された。だが翌日になっても、この危機に対する明確な解決策は出ていない。

複数の共和党議員が公に、あるいは密かにこの役職を狙う中、下院は短くとも来週まで休会する。

だが、たった数人の保守強硬派の造反が引き起こした影響は、徐々に明らかになっている。特にアメリカの経済と、ウクライナの戦場で感じられるかもしれない。

ウクライナ支援が危機に

ジョー・バイデン政権はこの数週間、議会がウクライナ戦争支援に割り当てた資金は、ほぼ使い果たされたと警告してきた。

ジェイク・サリヴァン大統領補佐官(国家安全保障担当)は、もし議会が数百億ドル以上の追加予算を承認しなければ、10月初めから「一気に混乱に陥る」ことになるとの見方を示していた。

しかしこの追加予算は、3日にマカーシー議長を解任に追いやったのと同じ右派議員らが承認しなかった。

そしてマカーシー議長が退任した今、新たな援助がすぐにもたらされる可能性はかなり低くなったようだ。

下院は新議長を選出するまで、実質的なことは何もできない。現時点では、最短でも来週半ばになるだろう。

その上、新たに議長となる人物は、少なくともマッカーシー氏と同じ圧力と、同じジレンマに直面することになるだろう。

マカーシー氏解任の先鋒となったマット・ゲイツ議員のような共和党員も、マカーシー氏を支持していたマージョリー・テイラー・グリーン議員のような人物も、ウクライナへの追加支援に反対している。支援案を議会での投票にかける議長は誰であれ、共和党の右派からの反乱にあうことはほぼ確実だ。

新議長は、ウクライナ支援と、国境警備への予算増などの保守派の優先事項を抱き合わせることで、右派に好ましい条件を作り出そうとするかもしれない。だがこれは、民主党からの支持を危険にさらすことになりかねない。また、グリーン議員もゲイツ議員も、こうした提案をすでに拒否している。

2023年8月までの支援上位10カ国とその内訳

バイデン政権は、イランから没収した兵器の移送など、ウクライナを支援する他の方法を見つけようと躍起になっている。バイデン氏は4日、ウクライナへの資金援助の必要性について「重要演説」を行うと発表した。

また、他の提案についても示唆している。

「必要な次の分割援助でウクライナを支援することは可能だ。そして、そのための資金を見つけられるかもしれない別の手段もある。だが、今はそれには触れない」

バイデン氏は、下院の共和党指導部を迂回(うかい)し、ウクライナに関する採決を議場に持ち込むために、めったに使われない議会手続きのことを指しているのかもしれない。

共和党の一部議員から抵抗があったとしても、下院でも上院と同様、ウクライナ支援の継続を支持する声が多数派だとバイデン氏は指摘した。だが、予算案が大統領の机に行き着くまでの道のりは日に日に険しくなっている。

近づく政府閉鎖の可能性

A sign is displayed on a government building that is closed because of a US government shutdown in 2018

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マッカーシー氏解任の最も直接的な原因は、11月17日までの連邦政府予算執行の継続を認め、政府閉鎖を回避する決議案の採決を数日前に許可したことだった。

先週末の危機の終結は、来年度の政府支出をどのように、どのレベルで賄うかという最終的な決断を遅らせたに過ぎない。そしてマカーシー氏のたどった運命を思えば、次の議長は共和党の右派グループにもっと譲歩する一方で、下院少数派の民主党議員や、上院で多数を占める同党議員、そしてホワイトハウスにいるバイデン氏に対し、有利な条件を提示しようという気にはならないだろう。

将来の議長にとっては、下院共和党議員の間で連邦支出について合意することさえ困難だろう。ゲイツ議員らが大幅な歳出削減を求めている一方、党内中道派や国防のタカ派は、立法府の優先課題への予算拡大を求めている。

最終的には、民主党が多数を占める上院が政府予算案を承認するが、党派争いのある下院が承認した予算案をそのまま受け入れる可能性は低い。

譲歩も難しいと言われる中、政府閉鎖、それも年末をまたいでの長期的な閉鎖が起きる可能性は大きく高まっている。

アメリカはこの数十年で何回も何回も政府閉鎖を経験しており、その影響は身近なものになっている。最も被害を受けるのは政府職員や政府との契約業者で、給料の支払いが遅れたり、場合によっては完全に打ち切られることもある。

貧困層向けの政府プログラムが縮小したり、その他の公共機関やサービスが停止することもある。

こうしたことがやがて、経済的な連鎖反応を引き起こし、アメリカを景気後退(リセッション)へと押しやる。そうなった場合にはもちろん、世界経済にも影響が出るだろう。

議会の機能不全が続く中、政府機関に対する国民の信頼も失われ続けるかもしれない。世論調査によれば、米政府機関への信頼度は史上最低水準に近い。

3日に下院で繰り広げられたドラマを、民主党は驚きと愉快さの入り混じった気持ちで見ていたが、この危機の最終的な結末を予測するのは難しい。

大統領選挙と連邦議会選挙が1年後に迫る中、有権者が怒りや不満を募らせている現状は、あらゆる現職の政治家にとって悪い知らせとなるかもしれない。