【解説】 ドイツからウクライナへ戦車供与 なぜ決定に時間がかかったのか
カティヤ・アドラー、BBCヨーロッパ編集長

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なぜウクライナが戦車を求めるのか、その言い分は明快だ。
戦車こそが決め手になると、ウクライナは言う。ウクライナ国内からロシアを追い返し、自分たちが上手を取るには、戦車が大きな助けになると。
ドイツは、欧州で使われる大多数の最新型戦車、レオパルト2の製造国だ。約2000両が欧州各地の同盟諸国に提供されており、輸出権はドイツが握っている。
つまり、ドイツが迷っている間、たとえばポーランドは、できるだけ早くウクライナにレオパルトを届けたくても、それができなかった。ドイツ政府から再輸出の青信号が必要だったのだ。
もちろん、戦車の使い方についてウクライナ兵を訓練しなくてはならないのは変わらないし、いったい何両がいつウクライナに届くのかもまだ不透明だ。
しかし、ウクライナで次から次へと人権侵害を重ねるロシアをよそに、ドイツ政府が戦車供与についてためらい続けたことで、西側諸国はドイツに多大な圧力をかけた。西側はそれまで、ロシアの侵略を前に自分たちの断固たる団結をとことん外部にアピールしようとしていたが、こと戦車に関してはそうも言っていられなくなった。
オラフ・ショルツ独首相が長いこと煮え切らなかったせいで、ドイツ国内も割れた。連立与党だけでなく、首相が率いる社会民主党(SPD)でも意見が割れた。ドイツ連邦議会前に集まった人たちは、「レオパルトを自由にしろ!」と叫び続けた。連邦議会の中では議員たちが、戦車供与の是非について激しい議論を続けた。
ショルツ首相はいったいなぜ、あれほど思い悩み、ためらっていたのか。
きわめて重要だったのが、歴史の重みだ。現代ドイツの指導者にのしかかるこの重圧は、決して軽視できない。
27日は「ホロコースト犠牲者を想起する国際デー」だった。
2度の世界大戦で他国を侵略した国として、多くのドイツ人は、自分たちがウクライナにどこよりも多く戦車を提供する国になることを警戒している。
昨年2月24日にロシアがウクライナを侵攻して間もなく、ショルツ首相はドイツ外交政策に「転換点」が訪れたと宣言した。これはきわめて重要なことだ。ドイツにとって。そして欧州全体にとって。
ドイツ政府は、装備不足で時代遅れになっていた軍隊を刷新するため、巨額投資を約束した。欧州防衛にこれまでよりはるかに積極的な役割を果たすとも約束した。第2次世界大戦後、安全保障政策に関してきわめて控えめで、他の同盟国にリーダーの役割を譲ってきたドイツにとって、これは画期的な変化だった。
この「変身」は細かな問題だらけで、決して完全なものではないが、進展しているのは確かで、それはドイツにとって大きな変化だ。
第2次世界大戦以降、安全保障問題についてドイツは先頭に立つのをためらい続けてきた。しかし、欧州最大の経済大国として、多くの同盟国はまさに、ドイツにリーダーシップの発揮を求めてきたのだ。

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戦車供与をめぐるそれ以外の問題
戦車供与をめぐる議論に戻ると、戦車を誰相手に使うのかが、ドイツにとってもう一つの難題だ。ドイツの戦車が、ロシア兵に対して駆使されることになるからだ。
2回の世界大戦で、ドイツ軍は何百万人ものロシア人を殺した。そのことに、今のドイツは深い責任を感じている。
加えて、これと完全に無縁ではない問題として、今のドイツでは実に大勢の人が(とりわけ旧共産圏の東部では)西側社会の仕組みに不満を抱き、そして伝統的にロシアに親近感を抱いている。
ロシアが欧州で展開する偽情報を監視する複数のNGOは、こうした偽情報に多くのドイツ人はだまされがちだと指摘する。
とはいえ、圧倒的に大多数のドイツ人は、現在の紛争に巻き込まれた一般ウクライナ人に同情している。
しかし、昨年のクリスマス直前に行われた世論調査では、回答したドイツ人の4割が、ロシア政府の主張に理解を示した。つまり、ウクライナ侵攻は西側のせいだとロシアが言うのは理解できる、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大に原因があると、回答者の4割は答えたのだ。
ショルツ首相は確固たる親・米英派だ。しかし、彼が率いるSPDは歴史的に親ロシアだった(最近ではさすがに、完全にそうだというわけではないが)。党員の多くはアメリカと、NATOにおけるアメリカの圧倒的優位を、疑わしく思っている。
こうしたさまざまな理由から(さらに後述するほかの理由も合わさり)、ショルツ首相はウクライナへの戦車供与について、ドイツの独壇場にしたくなかったし、その中心的存在にもなりたくなかったのだ。
もうひとつドイツが心配したのは、戦況激化、エスカレーションの問題だった。イギリスやポーランドやオランダといった欧州諸国は、この紛争を悪化させているのは紛れもなくロシアだと言明している。しかし、ドイツでは多くの人が、ウクライナに大型戦車など攻撃用兵器を提供すれば、ウラジーミル・プーチンをいっそう極端な蛮行に走らせかねない、核兵器も使いかねないと心配している。
ドイツだけでなくアメリカも戦車をウクライナに送るよう、ショルツ首相があれだけ強力に求め続けたのは、核大国アメリカも参加して支援してくれると欧州が安心するためだったと考えられている。
総じて言うと、ドイツが目立つ形で、しかも単独で、大型戦車をウクライナに提供する国になるのをショルツ氏は避けたかったのだ。
それでもショルツ氏が唐突にUターンしたのは、いつまでも戦車を提供しないままだと、同盟国の間で孤立しかねないと気付いたからかもしれない。
ほかにも留意すべきことがある。ショルツ首相は今回もこれまでも、武器や装備の提供に確かに及び腰だったが、それでもドイツは、ウクライナへの軍事援助国としてトップ3位に入るし、人道援助も大々的に提供を続けてきたのだ。










