京都で進む「ディープ・テック」ベンチャー育成 大学が根気よく支援

大井真理子、BBCニュース、京都

EneCoat Technologies CEO Naoya Kato looking at the company's ultra-thin solar sheet
画像説明, エネコートテクノロジーズが開発中の超薄型ソーラーシートを手にする加藤尚哉社長

紙のように薄く、透明なソーラーシート。窓に貼れば、太陽光だけでなく、室内光でも発電できる。それを作ろうとしているのが、京都大学発のベンチャー企業エネコートテクノロジーズだ。

次世代太陽電池として注目されるペロブスカイト。エネコートテクノロジーズは、その材料開発とモジュールの製品化に取り組んでいる。

「室内で使うものについては、再来年、あるいは3年後くらいにはできる可能性があると思います。屋外用で使うとなると、耐久性の問題がありますので、もう少しかかるかなと思います」と語るのは加藤尚哉社長だ。

世界を変える可能性のあるテクノロジーの開発に取り組むスタートアップ企業は「ディープ・テック」と呼ばれる。

しかし製品を市場に送り出すには時間がかかり、民間のベンチャーキャピタル(VC)が投資を躊躇(ちゅうちょ)することもある。

「私どものようなハードテック、モノづくり系のスタートアップは初期の段階の資金調達に苦戦することが多い」と加藤社長は言う。

An Enecoat Technologies worker
画像説明, エネコートテクノロジーズでは発電効率の高いソーラーシートの開発に取り組んでいる

京都大学が資金をサポート

そんな中、ベンチャーを起業前からサポートしているのが京都大学だ。アジア最多11人のノーベル賞受賞者を輩出してきたことで知られる同大学は、政府が国立大学によるVC設立を促すため合計1000億円を拠出した際に、出資先として選ばれた4大学の1つだ。

加藤社長は、「プレベンチャーの段階から年間3000万円、それを元手に起業までこぎつけてくださいというプログラムがありました。その制度の第1期生として選んでいただき、その後京都大学イノベーションキャピタルさんの出資を仰いで今に至っています。累計で5億円近いお金を京大のグループからいただいている」と話す。

一方、京都大学産官学連携本部長の室田浩司氏は、「京大はハードサイエンスに強い。しかしディープテックを商品化するには時間もお金もかかる」と説明する。

一般的なVCの投資期間は8から10年だが、京大では最長20年の支援をすると言う。

Kyoto University

画像提供, Frédéric Soltan

画像説明, 京都大学からはノーベル賞受賞者が11人出ている

その結果、2016年に103件だった京大発のベンチャーは、2倍以上の242件に急伸。東大に次ぐ国内2位の多さで、先述の政府の出資対象となった4大学の中で一番伸び率が高い。

ただ、京大のスタートアップ支援が始まる前から、京都はベンチャー気質あふれる街だ。任天堂、京セラなど、世界的に名を知られる会社も多い。

「京都のカルチャーあってこそ」

コロナ禍による世界的な半導体不足で注目が集まっているFLOSFIA(フロスフィア)も京都発のベンチャー企業の1つだ。

水から半導体を作るイノベーション「ミストドライ成膜技術」を基礎技術として、パワーデバイス事業と成膜ソリューション事業を展開している。

「京都の大成功してきた企業、創業者の方の話を聞いていると、京都にはお客さんがいないって言うんです」と言うのは人羅俊実・最高経営責任者(CEO)。だからこそ、「最初からグローバルを意識した事業のスタートが切れたとおっしゃっている」と話す。

Flosfia boss Toshimi Hitora
画像説明, FLOSFIAの人羅俊実CEO。同社は台湾の半導体メーカー大手と協力関係を築いている

京都の「利点」は他にもあると言う。

「我々、もう創業して10年たっているんです。10年たったベンチャーでも、いい技術をベーシックなところからやっていく、ディープテックではそれだけ時間がかかるよねってことを理解してくれて、一緒に育てていってもらえるっていうのは、京都のカルチャーがあってのことじゃないかなと思う」

「知り合いの知り合いが知り合いっていう(土地柄で)、大体の有名な方も、話をしたいと思ったらできるし。いろんなスペシャリティーを持った方が、小さなコミュニティーにあふれかえっているっていうのが京都のスタートアップのコミュニティーの大きな特徴じゃないかなと思っています」

人羅CEOは京大の卒業生だ。大学の役割についてはこう評価する。

「京都大学があって、京都大学の中に様々な研究者がいて、その研究者もコミュニティーとしてつながっていますし、産学連携の取り組み、ベンチャーを育成する取り組みが全部手が届くところにある」

長期的視点での企業支援

30年前、世界市場の50%近いシェアを占めた日本の半導体産業だが、今は世界シェアは10%を切った。

韓国・台湾が独占し、アメリカと中国も投資に力を入れている業界で日本が返り咲くには課題も多い。

A Flosfia microchip
画像説明, FLOSFIAはエネルギー効率に優れた半導体を開発している

しかし人羅CEOは日本が得意なところと不得意なところがあると言う。

「新しいマテリアル、新しい要素を伴う基礎研究の領域では日本はトップを走ってきているんですね。そういう意味では日本には大きなポテンシャルがあるんじゃないかと思っている」

「根っこにあるのは企業間での連携かなと思いますね。国とのつながりがどうこうと言っても、半導体って言うのは原材料から、最後にパッケージに入れ終わるまで長い工程がありまして、大量に作っていくにあたって、いろんなステークホルダーがかかわります。たくさんの企業とアライアンスを組んでいくというのが直接的な要素かなと思ってます」

日本がディープテックのベンチャーで他国を追いかける中、京都大学がエネコートテクノロジーズやFLOSFIAのような企業と気長に長期戦に臨んでいることは、日本にとって希望となっている。

動画説明, 紙のように薄い発電シート、製品寿命延ばす半導体……「世界を変える」日本の大学発ベンチャー