【ルポ】 ウクライナ東部にとどまる高齢者たち なぜ避難しないのか
ジョエル・ガンター(ウクライナ・セルヒーウカ)

ウクライナ東部の小さな村セルヒーウカは17日の日曜日、静まり返っていた。通常なら人々の暮らしが感じられる中心部に、ほとんど人影はなかった。
2月にロシア軍によるウクライナへの本格侵攻が始まり、程近い前線地帯で暴力が再び発生するまで、ここには約1500人が住んでいた。
しかし現在は約300人しか残っていない。ロシアが東部と南部で作戦を再開させたことから、さらに多くの人が村を去っている。
もともと住民には高齢者が多く、わずかにいた若者たちはほとんど残っていない。これはウクライナ各地の村や町でみられる現象だ。若い世代はより安全な場所へと移動し、その親や祖父母らはとどまることを選んでいる。
「ずっとここで生きてきた。どこにも行かない」。領土防衛の腕章を着け、ライフルを持ったミコラ・ルヒネツさん(59)は言った。2月に登録し、銃を手に取ったという。「セルヒーウカにとどまり、必要なら防衛する」。

平時のセルヒーウカは工業と農業の村だ。労働人口の多くは、農家か石炭濃縮工場の従業員として働いている。しかし、ロシアがドネツクを越えドニプロ市に侵入すると決めた場合、戦火にさらされる可能性がある。
「ここには簡単なシェルターしかないが、私たちで用意した」と、村と地域防衛隊のトップのワレリー・デュヘルニイさん(59)は話した。彼は村長に当たる役職を2020年から務めている。
「高齢者にとって移動は大変だ」と彼は言った。「感傷的になっている人もいるだろう。そうした人たちは、住んでいる土地に強い感情的なつながりをもっている。自宅以外では死にたくないと思っている」。
慈善団体ヘルプエイジ・インターナショナルによると、ウクライナ東部では200万人以上の高齢者が、ロシアの侵攻によって極めて危険な立場に置かれている。高齢者支援を活動の重点にしている団体は、高齢者たちが避難できなかったり、大変動による苦難を受け止められないと感じたりしていることを特に懸念している。

単純に、移動するための金がない人や、避難先がない人もいる。「私は引退していて、わずかな年金ぐらいしかない」と、ライサ・ホリスラヴェツさん(66)は話した。彼女はセルヒーウカの小さな家に娘1人と暮らしている。
「安全な場所にアパートを借りるお金はない。ここでひどい事が起こらないとは言えないけれど、他の選択肢がない」と彼女は言った。「他の土地では私は必要とされない。だから何があろうとここにとどまることにした」。
彼女は以前、前線の反対側に住む姉(または妹)とよく話をしていた。まだウクライナが掌握している領土と、ロシアが2014年から分離主義運動を進めている「ドネツク人民共和国」を分けている前線だ。
2人をつないでいた電話回線は2週間ほど前に切断されたと、彼女は話した。ただ、その前から2人の関係は悪化していた。ロシアがウクライナを攻撃しているというニュースはフェイク(偽り)だと、姉(妹)が言い出したからだった。

「ウクライナのメディアで目にすることを信じてはいけない、すべての被害はウクライナ人がもたらしている、と言われた」と、ホリスラヴェツさんは言った。「目撃者がいるし、ハルキウ(ハリコフ)などで起きていることを私たちは見ていると伝えたが、彼女は私のことを信じなかった」。
彼女のような話は、ウクライナ東部では珍しくない。そこでは、前線によって家族が分断されている。また、ロシアのプロパガンダによって、ロシア側に立つ多くの人々は、国際メディアが伝える残虐行為や攻撃はフェイクであり、ウクライナが侵略者だと信じ切っている。
セルヒーウカは今のところ平和だ。とどまっている住民たちは、この状態が続くことを願っている。ただ、最悪への備えは進めている。北のハルキウ、南のマリウポリの破壊を、住民たちは見ている。近くのドネツクでの激しい戦争も目の当たりにしている。
ホリスラヴェツさんは、紛争が始まった時、ドネツクに住んでいる姉(妹)の世話をしていたという。
「向こうの家に悪いことが起きた時、私たちは支援した」と彼女は言った。「今は私たちの家に悪いことが起きているが、向こうは私たちを支援しない」。
彼女は再び姉(妹)と話をしたいと話した。「もちろん、彼女は私の姉(妹)だ」。しかし現時点では、「私たちは戦うことしかしないだろう」。
取材協力:アンナ・パンチュコワ、写真:ジョエル・ガンター









