ジョンソン英首相の今後は? 英首相官邸のクリスマスパーティーめぐる官邸内動画が流出
ローラ・クンスバーグBBC政治編集長
「弁護しがたい」。「壊滅的」。「驚いた」。
これはボリス・ジョンソン英首相の政敵ではなく、与党・保守党の関係者から出ている非難の言葉だ。
昨年の厳しい感染対策中に英首相官邸でクリスマスパーティーが開かれたと報道されている問題で、官邸スタッフがそのパーティーの数日後に想定される記者会見のリハーサルを行い、笑いながら「回答」を準備していたことが明らかになった。
官邸記者会見室で官邸スタッフが笑っているこの動画が流出し、多くの保守党下院議員は激怒している。
当時の官邸内で何が起きていたのか、つま先がぎゅっとこわばってしまうほど居心地の悪いこうした形で、当時の様子が確認できてしまうとは。これほど決まりの悪い事実確認など、めったに想像もできない。
当時のイギリスでは、官邸以外では、パーティーなど社交目的の集まりは禁止されていた。新型コロナウイルスの感染者はまたしても増え続け、国中で多くの家族が病気の親類や、介護施設にいる大切な人と会えないでいた。
英ITVが入手した官邸の映像は、狭い英政界の垣根を超えて、すでに数百万人の目に触れた。ITVの時評コメディ番組でも、ジョークの標的にされた。
しかし、首相官邸にとって恥ずかしいことこの上ないこの事態の顛末(てんまつ)は、この先どうなるのだろう。
第一に、そしてこれが一番大事なことだが、世間の多くは(とりわけ親族をCOVID-19で失った人たちは)、今回のことを激しく不快に思うはずだ。首相官邸でパーティーが開かれていたというその点だけでなく、官邸スタッフが後日そのことについてカメラの前で笑っていたのが、明らかになったのだから。
官庁関係者はこう言う。「普通の一般人としては、ルールを守った自分がばかだったみたいな気になる」。

画像提供, EPA
もちろんこれは野党にとっても、爆薬を手にしたようなものだ。野党はこれまで何カ月も「この政権は、自分たちは好き勝手にふるまっていいと思っている」と攻撃し続けてきただけに。これからしばらく野党からは、「その他大勢用のルールがあり、それとは別に自分たち用のルールがある」と政府は考えているのだと、そういう批判が相次ぐはずだ。
しかも11月には、首相に近い下院議員がロビー活動で倫理規定違反を指摘された際、政府が審査手順を変えようとして大問題になったばかりだ(渦中のオーウェン・パターソン氏は議員辞職した)。それだけに今回は、保守党のベテラン議員からも、同じような批判が出ている。
「パターソン問題の対応から、首相は自分の友達にはルールはあてはまらないと考えているのが見て取れた。今回のビデオでその姿勢が官邸内で、首相が任命した上級政治顧問の間で、広く共通しているというのが見て取れた」と述べた。
「愛する家族が亡くなる時に、政府によって家族に会えなかった人たちは、自分たちはばかにされたのだと結論するはずだ」
自分たちは愚か者扱いされたのだと、有権者にそう思わせてしまうのは、政府にとって必勝戦略とは言いがたい。
そして、新型コロナウイルスのオミクロン変異株の感染者が増え続け、またしても国民に相当の犠牲を払ってくださいと首相がお願いしなくてはならない段階になったと、そう遠くない将来、政府が結論した場合、今回のこの一件を経て、いったいどれだけの国民が進んで協力しようと思うのだろうか。
保守党のベテラン議員でロックダウン対策に批判的なチャールズ・ウォーカー氏は、「官邸でのパーティーの結果、今後どういうロックダウンを行っても、法律が何と言おうと、その要請は推奨でしかなくなる」と述べた。
別のベテラン保守党議員は、今回の動画が明るみに出たことによってこの件は、昨年春のロックダウン中に首相の上級顧問だったドミニク・カミングス氏が家族と共に国内を長距離移動し、観光名所の城を訪れていた問題よりも、大問題になると予測する。
首相官邸にとっては別の悪影響もある。保守党と国民の関係にとって重要な、信頼の問題だ。首相官邸は真実を語るのかという世間の信頼が、今回の件でどう影響を受けるのか。
私がこれまで取材してきた政権はどれも必ず、スピン(情報操作)を駆使した。私がこれまで取材してきた政権はどれも、事実を必ずしもありのままに明らかにしないことがあった。しかし、問題の映像が7日に公表されるまでの約1週間、首相官邸はクリスマスパーティーについて様々な弁を繰り出して、報道を否定しようとしてきた。
私が今これを書いているのは7日深夜だが、官邸は今でも「パーティーなどなかった」というこれまでの言い分を繰り返している。しかし、官邸映像がリークされ、内部でも怒りが高まっている現状で、官邸のその公式見解が維持できるとは考えにくい。
あえて言葉を選んで表現するなら、ジョンソン氏と真実との関係性はいつでも一風変わったものだった。
保守党はそれをずっと容認してきた。ジョンソン氏は選挙に強い、有権者にアピールできる資質の持ち主だと、保守党はそう見てきたからだ。しかし、ここしばらく官邸を擁護してきた閣僚や下院議員たちは、自分たちが事実関係をすべて知らされていなかったと気づき、傷つくはずだ。
官邸を擁護するよう指示されていた閣僚の1人は私に、官邸は「事実を認められない様子だった」と話した。別のベテラン保守党議員は内々に、「これからはもう、ボリスが言うことなど一切、額面通りには受け止められない」と述べた。
「混乱による政権運営」
下院議員や閣僚が8日の議会で、政府を擁護することになるのかはまだ分からない。水曜には毎週恒例の「首相質問」がある。ジョンソン氏本人はこの問題を避けようがない。
そして今回の騒ぎによって、政権運営をもっとしっかりやれという首相への圧力がただちに高まった。
パターソン問題のどたばた以来、官邸内の段取りを改善しろという声は、日に日に強くなっていた。最近ではジョンソン氏の長年の側近が、手助けをするため官邸に戻ったばかりだ。
しかし内々には、ダン・ローゼンフェルド首席補佐官の解任を求めている声が閣僚経験者から上がっている。さらに、今回のビデオに登場する全員が辞任を余儀なくされるはずだとか、首相が平身低頭に謝罪して一部のスタッフをくびにするしかないのではないかとか、あえて率先して何らかの内部調査を立ち上げるのではないかなど、様々な憶測も飛び交っている。
いま問われているのは、ジョンソン氏本人の資質だ。盟友の中からも疑問の声が出ている。「こうした問題が相次ぐ理由を、本人に理解できるだけの度量があるのか? こういう問題が相次ぐのは、彼が自分の人生でずっとそうしてきたように、混乱によって政権を運営しようとしているからだ。それを本人は理解できるのか?」と。
ジョンソン氏には今も支持者が大勢いる。多くの下院議員は自分が当選できたのは、ジョンソン氏のおかげだと思っているからだ。保守党においてジョンソン氏の存在感はあまりに大きい。そのため、保守党が一気に変質して、ジョンソン氏やそのチームをいきなり追い払うとは考えにくい。
乱高下の激しい政治ジェットコースターを乗りこなすのが、ジョンソン氏のおなじみの得意技だ。そしてまたしても首相は、自分の味方にさえ擁護不能な騒ぎの中心にいる。
保守党は議会では圧倒多数の議席を持つ。そしてジョンソン氏の政治家としての知名度は、群を抜いている。それでも今年の首相官邸は、もしかすると寂しいクリスマスを迎えるのかもしれない。












