フリオ・イグレシアス氏、性的暴行で告発される スペインの国民的歌手

フリオ・イグレシアス氏がドラムセットの前に立ち、マイクを左手に、開いた右手を胸にあて、目を閉じて歌っている。黒っぽい衣装を着て、赤色のライトを浴びている

画像提供, Getty Images

画像説明, 現在82歳のフリオ・イグレシアスは、自身に対する告発について反応していない(2019年12月6日、米ジョージア州)

スペインの国民的歌手フリオ・イグレシアス氏(82)に対し、女性2人がスタッフとして雇われていた時期に性的暴行を受けたとして告発した。強制的、脅迫的、暴力的な環境で、同氏が「虐待を常態化させていた」と訴えている。

イグレシアス氏は、1960年代以降、スペインで誰もが知る存在となり、世界的にも何百万枚ものレコードを売り上げてきた。日本では1980年代に「黒い瞳のナタリー」などがヒットした。

今回の疑惑については、スペインのニュースサイト「elDiario.es」と米スペイン語メディア「ユニビジョン」が13 日に報じた。スペインの司法当局が調べを進めているという。

両メディアなどによると、イグレシアス氏は女性2人を、ドミニカ共和国のプンタ・カナと、バハマのライフォード・ケイにある自らの所有地で雇っていた。2人は2021年に性的暴行を受けたとしている。

イグレシアス氏と同氏の弁護士は、両メディアの度重なる取材要請に応じなかったという。

同氏がカリブ海で所有する物件の一つを管理しているという女性は、被害の訴えは「ナンセンス」だと話したとされる。

BBCはイグレシアス氏の代理人にコメントを求めたが、返答はまだない。

証拠書類で裏付け取ったと

報道によると、告発者の1人の家事労働者(名前は「レベッカ」に変えて報じられた)は、一日の終わりにイグレシアス氏からたびたび部屋に呼ばれ、同意なしに不適切な方法で体を触られたという。

取材では、「彼はほぼ毎晩、私を利用した」、「自分がまるでモノのよう、奴隷のようだと感じた」と話した。

被害を受けたとき22歳だったというこの女性は、他の女性スタッフも交えた3人での性行為をイグレシアス氏に強要されたとも証言した。同氏から顔を平手打ちされ、性器をつかまれたとも述べた。

もう1人の告発者はヴェネズエラ人の理学療法士で、報道では「ラウラ」と呼ばれている。イグレシアス氏が彼女の意思に反して胸を触ったり、キスをしたりしたと証言。同氏から解雇すると常に脅され、食事の量を管理され、生理の予定日を聞かれたという。

「彼はいつも、私が太っていて、やせろと言っていた」とこの女性は話し、「虐待が常態化」した職場環境だったとした。

彼女はイグレシアス氏の性的な誘いをたびたび断ったが、「断れない女の子もいた。彼はそうした人たちを好きにしていた」という。

疑惑を報じた両メディアは、女性らの被害の訴えについて3年間調査し、写真、電話記録、テキストメッセージ、医療報告書などの証拠書類によって裏付けを取ったとしている。

報道では、イグレシアス氏の他の元スタッフらも、仕事場の雰囲気は脅迫的で、非常にストレスが大きかったと述べている。

イグレシアス氏への支持と批判

被害を訴えている2人については、イグレシアス氏を性的暴行と人身取引について、スペイン国外での犯罪を捜査する国内裁判所に今月5日に告訴したことが明らかになった。

イグレシアス氏の古くからの友人のハイメ・ペニャフィエル氏は、今回の告発を「真っ赤なうそ」だとした。

イグレシアス氏と親しいジャーナリストのミゲル・アンヘル・パストル氏は、「彼がこのような行為を犯したかもしれないなど、そんなことをうかがわせる話は聞いたことがない」と述べた。

一方、スペインの社会労働党政権のアナ・レドンド平等相は、この案件が「とことん」捜査されることを望むとソーシャルメディアに投稿。「同意がなければ暴行だ」と書いた。

急進左派政党ポデモスのイオネ・ベララ党首は、「金の力で守られている有名加害者」による性的暴行での「沈黙」は破られるべきだと訴えた。

スペインでは先月、民主化移行期に果たした役割で尊敬を集めたアドルフォ・スアレス元首相に対し、女性が17歳の時から性的に虐待されていたとして法的に訴えた。

保守派のスアレス氏は2014年に死去したが、警察が捜査を進めている。ヘスス・ビジェガス判事は、スアレス氏に対する裁判が実を結ぶ可能性は低いとし、政治的な動機によるものだとの見方を示している。

マドリード州首相で保守派のイサベル・ディアス・アユソ氏は、イグレシアス氏への支持を表明。「マドリード州は、アーティストの中傷に決して加担しない。世界で最も知られた歌手、フリオ・イグレシアスに対してはなおさらだ」とソーシャルメディアに投稿した。

イグレシアス氏の伝記を書いたイグナシオ・ペイロ氏と出版社リブロス・デル・アステロイデは、昨年出した伝記を改訂し、今回の疑惑を含めるとしている。また、「被害者への支援と連帯」を表明している。