【解説】 ショルツ氏の「信号連立」政権、新しいドイツを約束
ジェニー・ヒル、BBCベルリン特派員

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ドイツ国民は、今年のクリスマスには新政権が誕生すると約束されていた。そしてベルリンの政治街のモミの木にもクリスマスの明かりがともりだした今、まさに新政権が生まれようとしている。
社会民主党(SPD)、自由民主党(FDP)、緑の党の3党が連立に合意した。8日にはこの毛色の違う3党が就任式に臨み、アンゲラ・メルケル氏の時代から、社会民主党のオラフ・ショルツ氏による新しい時代へと正式に移行する。
今回の連立は、公平な社会を目指すSPDの赤、経済界を後ろ盾にするFDPの黄色、そして環境政策を掲げる緑の党の緑と、各党のイメージカラーをとって「信号連立」と呼ばれている。
新型コロナウイルスの第4波が猛威をふるい、人々の生活が厳しく制限されている中、新政権は素早い立ち上がりを見せなければならない。
気候変動に注力
つまり、ドイツは政治的に大きく変わるが、ショルツ政権が独自路線を貫くなら、社会的にもさらに大きな変化が訪れるだろう。政権が目指しているのは、気候変動対策を重視する、より公平でリベラル寄りのドイツだ。

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新政権では、以下の3点が環境政策に含まれている。
- 石炭の段階的使用禁止を加速し、目標をこれまでの2038年から2030年に前倒しする
- 2030年までに国内電力供給の80%を再生可能エネルギーでまかなう
- 2030年までに国内の電気自動車台数を1500万台に増やす
また、社会福祉面でも大規模かつ寛大な政策が提示されている。社会福祉制度を利用しやすくし、最低賃金を時給12ユーロ(1540円)に引き上げるとしている。
大麻と選挙権年齢
一方で、大麻の合法化や、医師による人工妊娠中絶の広告掲載を禁じてきた法律の廃止など、一部の政策については有権者の意見が分かれているようだ。
選挙権年齢を18歳から16歳に引き下げる案も、国民の心を捉えなかったようだ。世論調査では、回答者の30%しか、この案に賛同しなかった。
さらに3党は、ドイツの移民システムを全面的に見直し、欧州連合(EU)の難民政策にも改革のメスを入れようとしており、この案も国内外で議論を呼びそうだ。
新政権は移民を奨励し、難民申請者の権利を改善するほか、外国人の市民権獲得を容易にしようとしている。
世界でのドイツの立ち位置
では、世界から見たドイツはどのように変わるのか? 欧州その他の世界にとって、ドイツの新政権はどのような意味を持つのだろうか?
ロシアや中国といった国々には、少なくとも論調としては厳しめの対応を取るだろう。
ショルツ政権は中国における人権侵害に言及しているほか、香港の一国二制度の復活や、台湾への支持も表明している。
次期外相に内定している緑の党のアナレナ・ベアボック共同党首は、「欧州の民主主義国家、そして大西洋の民主主義連合の一員として、我々もまた、中国のような全体主義政権に対する構造的な競争の中にいる」と述べている。
これはEUと同じ立場だが、その語調は、メルケル氏の時代とは一線を画すものだと指摘する声もある。
新政権は国防費も拡大すると約束しているものの、国内総生産(GDP)の2%という北大西洋条約機構(NATO)の目標には触れなかった。
ドイツがさらにハト派色を強めることで、同国が西側諸国の核協定への協力をやめてしまうのではないかという懸念は、弱まっている。
ドイツは今後もNATOの核共有政策にとどまり、アメリカの核兵器を預かり、核兵器を搭載できる戦闘機を新しいものに替えていくだろう。
アメリカやフランス、日本などは、ショルツ政権はメルケル政権と大きく変わらないだろうとみている。
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人物紹介
オラフ・ショルツ氏:SPDが総選挙で勝利したのは、ショルツ氏の立ち居振る舞いが非常にメルケル氏に似ていたからだと、多くの人々が信じている。これまで財務相を務めていたショルツ氏は冷静かつもの静かな人物で、その慎重さと思慮分別に定評があった。一方で、パンデミック初期にはすぐに予算投入を発表し、国民の支持を得た。
アナレナ・ベアボック氏:緑の党の首相候補だったベアボック氏は、これまでのドイツの外交政策に難色を示すなど、すでに歯に衣着せぬ外相になる片鱗(へんりん)を見せている。ただし、同氏がどれほど外交で力を示せるのかは不透明だ。メルケル時代には、ほとんどの外交政策が首相の采配で行われていた。

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ロベルト・ハベック氏:ベアボック氏と緑の党の共同党首を務めるハベック氏は、経済と気候保護を統括するいわゆる「スーパー省」のトップにも就任する予定。
クリスチャン・リンドネル氏: 財務相に内定しているFDPのリンドネル党首は、新政権の財布のひもと権力の多くを手にすることになる。FDPは総選挙で3位につけたものの、他党に高速道路の速度制限や富裕税の導入といった条件を破棄させるなど、連立交渉中に大きな成功を収めたことは特筆に値する。
成功のチャンスはあるか
政治的な立場も、ドイツの将来像も、この3党は全く異なっている。3党がまずは連立を成立させたこと自体が奇跡だと言う指摘もあるほどだ。
しかし数カ月にわたる激しい交渉の末、各党の党員の大半が連立内容を支持している。
6日に緑の党が連立に合意したことで、8日にも連邦議会でショルツ氏が首相に選ばれる道筋が立った。


連立政権の維持は常に簡単なものではなく、新政権の「新しいドイツ」に向けた計画はお金がかかる。新政権がどのように予算を組んでいくのか疑問を呈する専門家もいる。
そして、パンデミック開始以降、最も感染者が増えている中で、新閣僚が就任する。
ドイツはすでに、デジタル化した世界から置き去りにされている。パンデミック初期には、保健当局がいまだにファクスでやりとりをしていることが発覚。教育インフラでも著しい欠陥が明らかになった。
ショルツ次期首相はロックダウンを否定しており、その新型ウイルス対応をすでに多くの人が不十分だと批判している。連立の中心人物の中には、立場を再考し始めている人もいる。
ショルツ氏は新政権のトップとして就任宣誓を行う以前から、前任のメルケル氏が第2次世界大戦以来、最悪の危機だと言ったパンデミックに巻き込まれている。












